≪英国≫見るも無残な”棚ボタ首相”の行く末

フジテレビ・二関吉郎解説委員の解説

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  • ボロボロだった今年の保守党大会演説
  • だが、後継候補は力不足
  • Brexitは五里霧中

ボロボロだった今年の保守党大会演説

「我が党は”意地の悪い政党“(the nasty party)と呼ばれている。」

かつての保守党大会で、このように歯に衣着せぬスピーチをして、注目されたのが、テレサ・メイ氏である。

テレサ・メイ氏

その評は「生真面目」「手堅い」「実務本位」など。

面白みや温もりには掛けるが、職務遂行能力は高いというものであった。

そのメイ氏が、去年6月のEU離脱投票とキャメロン首相(当時)の退陣を受け、イギリスの陰謀小説もびっくりの展開を経て、棚ぼたで、ナンバー10と呼ばれる首相官邸の主に選ばれたのは、国民投票翌月のことであった。党長老から「とんでもなく扱いにくい女。」(a bloody difficult woman)と揶揄されながらも、支持者達からはサッチャー二世になって欲しいとの熱い思いが寄せられていたし、前例の無い”Brexit”・EUからの離脱も、その強固な意志で、やり遂げて欲しいという期待値も高かった。

 当時、ロンドン駐在だった筆者は、がちがちの労働党支持者の友人の女性から、「ところで、日本に女性総理が誕生するのはいつになるの?」と尋ねられ、答えに窮した記憶がある。

つまり、英国政治史上二人目の女性総理誕生に、野党・労働党の一部支持者も含め、イギリス国民は、結構、好意的だったのである。しかし、1年余が経った今、メイ氏は満身創痍と言っても良い状態である。特に今月初めにマンチェスターで開催された保守党大会の掉尾を飾る首相演説はボロボロであった。

筆者も、BBC放送のウェブでその模様を観たが、風邪のせいで何度も何度も咳き込んで、演説は聞き苦しいことこの上なかったし、闖入者に邪魔されて中断を余儀なくされたり、

演説中に首相後方に掲げられていた大会スローガンの看板の文字がポロポロと落下したりと、見るも無残な有様であった。

後継候補は力不足

それでも、ご本人の続投の意思は明確である。
今年6月の総選挙で単独過半数を割った際もそうだったが、その強気は揺るぎも無いようにも見えるのである。

 それもそのはず、調査会社・YouGovの世論調査結果を見ると、「首相に一番ふさわしい政治家は誰か?」という問いで、メイ首相は、今も36%の支持を集めて、トップの座を維持しているのである。

2位の野党・労働党党首・コービン氏が33%で肉薄しているが、他に彼女の地位を脅かす人物はいない。

保守党内には、EU離脱派の大物・ジョンソン外相や政権ナンバー2で穏健派のハモンド財務相らが、後継候補として取りざたされているが、いまひとつ、力不足である。

ジョンソン外相はカリスマ性もあり国民受けはするが、政界での支持に欠けているし、ハモンド財務相は、手堅さには定評はあるが地味で、国民受けに必要な華やかさに欠ける。

自民党の安倍一強に対する石破氏と岸田氏に似ていると言うと語弊があるかもしれない。

政党別の支持率を見ると、労働党が42%、保守党が40%とメイ首相率いる与党が負けているが、再び、解散総選挙にならないかぎり、メイ政権は安泰である。

逆に言えば、選挙が近づいてくれば、保守党内でメイ降ろしが本格化し、クビの挿げ替えになる可能性は高いと、現在は、見られているのである。

が、しかし、一瞬先は闇の世界である。選挙は、多分、まだ、4年以上も先で、その時、誰が保守党を率いているのか、誰にもわからないと言える。(イギリス議会下院の任期は5年)

BREXITは五里霧中

先のことが誰にもわからないのは”Brexit”も同様である。

イギリスのEU離脱は決まっているし、イギリスはシングル・マーケットと関税同盟からも離脱する。しかし、離脱後のEUとの通商関係や関税のあり方が、加盟時に限りなく近い形になるのか、それとも普通の関係になるのか、実際は不明である。保守党内だけでも、強硬派と穏健派が対立して意見がまとまらず、EUとの交渉は、遅々として進んでいない。

現在、最大の難問となっていると言われる“手切れ金”問題の行方次第では、保守党内でのメイ降ろしが本格化する可能性も捨てきれない。

交渉期限の19年3月までに、最低でも、暫定措置(移行措置)で、イギリスとEUは合意する必要があるのだが、それも不透明である。

イギリス国内にもEU内にも、暫定措置さえ不要と考える勢力があるため、一筋縄では行かない可能性が高い。

鉄の女と畏怖されたサッチャー元首相も、当初は、非常に苦しい政権運営を余儀なくされた。しかし、サッチャーリズムと呼ばれた改革とフォークランド紛争を経て長期政権を確立し、アメリカのレーガン大統領と二人三脚でソビエトとの冷戦に勝利した。

今のところ、キャメロン退陣等の棚ぼたと後継候補の力不足という幸運に恵まれ、その座に留まっているメイ首相がサッチャー二世と呼ばれるような成果を挙げられるか否か不安要素だらけだが、その手腕にイギリスの将来が掛かっているのは間違いない。