『自由で開かれたインド太平洋戦略』で『一帯一路』に対抗できるのか?

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  • トランプ政権の本気度には大きな疑問符
  • AIIBとの二段構えで『一帯一路』構想を盛り上げ
  • トランプと習近平の任期の差が”構想”の将来に影響

ユーラシア・アフリカ各国の旺盛なインフラ需要に応えつつ中国の経済圏を拡大強化しようという『一帯一路』構想。

その裏にはシーレーンの支配など中国の軍事的野心が潜んでいると見抜き、カウンター構想として安倍総理が2016年夏に提唱したのが『自由で開かれたインド太平洋戦略』だ。

『自由で開かれたインド太平洋戦略』に相乗りを表明した米国

 “アメリカ・ファースト”のトランプ大統領は去年11月、就任後初めての東アジア歴訪に際し、この地域とどう向き合っていくのかが問われていたが、『自由で開かれたインド太平洋戦略』に相乗りしていくことを表明。

12月に公表した「国家安全保障戦略」では、「インド太平洋」を一括りにして地域戦略を示してみせた。

さらに今年2月、次期駐オーストラリア大使にハリス太平洋軍司令官を指名し、それはトランプ政権がアジア太平洋を重視していることを示すものだと報道された。

オーストラリアもシンガポールも米国大使は長期不在

ちょっと待ってほしい。

大使人事のことを言えば、駐オーストラリア大使はかれこれ1年半も不在が続いているし、上院でのハリス氏の承認手続きも進んでいない。

また、太平洋とインド洋の結節点でありシーレーンの要衝でもあるシンガポールに駐在するアメリカ大使は、オバマ前大統領の政治任用だったため去年1月のトランプ大統領就任と同時に帰国させられ、空席のままだ。

アメリカ軍はシンガポールのチャンギ海軍基地の使用権を得ており、原子力空母なども随時寄港し、マラッカ海峡、シンガポール海峡そして南シナ海に睨みを利かせている。

にもかかわらずの大使長期不在なのだ。

 それに、トランプ大統領が『自由で開かれたインド太平洋戦略』を推進していこうと動いているという話も一向に聞かない。

その場しのぎで乗ってきただけだったのかなと考えざるを得ない。

構想の起源は胡錦濤時代

そもそも国際政治や外交の世界で「構想」とか「戦略」とかはあまた考え出され、しかし、記憶と歴史に残るのはほんの一握りにすぎない。

成否を決めるのはまずニーズに合致しているかどうか。

「構想」を実感できるか。

そして政治的意志が十分強くかつ長く続くかどうかによるところが大きい。

 『一帯一路』は習近平国家主席の専売特許のように言われるが、構想の起源は前任者の胡錦濤の時代に遡る。

当時は中国内陸部の経済開発、新疆ウィグル自治区などへの支配強化、中央アジア諸国やロシアとのエネルギー網の構築といった西方へ向かう現実のニーズがあり、「シルクロード」という中国随一のパッケージ・ソフトで包んでみせた。

ネーミングの成り行き上、構想としては当時からヨーロッパまで包摂していた。
習近平になってからも、「これは使える!」という判断があり、偉大なる復興にふさわしくスケール・アップ。

軍にも配慮する形で『海のシルクロード』を追加した。
広く対象地域のニーズと欲望を取り込むものに仕立て上げてもいる。

『一帯一路』の定着には、AIIBと2段構えになっているところが大きく寄与している。
つかみどころのない「構想」が、参加国の数、投入額、プロジェクト数といった具体的な数字で実感できるからだ。

プロジェクトに参加した(儲けた)企業の数や名前が分かってくれば、一層盛り上がるに違いない。

それに比べて『自由で開かれたインド太平洋戦略』は、いかにも優秀な官僚が考えたものっぽく、理屈は通っているのだが関係国や企業を駆り立てるものが感じられない。

日・米・豪・印の関係強化といったことを事ある度にアピールし、援助政策も戦略的に進めるのだろうが、どこか足りない気がしてならない。

トランプと習近平の任期の差が“構想”の将来に影響

やはり最大の理由は、先頭に立ってもらいたいトランプ大統領を信じきれないことだろう。

中国との貿易戦争は、『自由で開かれたインド太平洋戦略』にかかわる全ての国を不安にする。
要するに選挙対策が最優先で「お前らのことは後回し!」、それがアメリカ・ファーストの神髄なのだと改めて思い知らされる。

では2020年に再選されたとして、どうなるのか?
「アメリカ・ファーストの大統領として記憶と歴史に刻まれたい」のだから抜本的な変化は望めないだろう。

 一方の習近平国家主席は、任期制限を撤廃し、「2035年までに国防と軍の近代化を完了させる」とやる気満々だ。

『一帯一路』はランドパワーVSシーパワーの伝統的な構図を超え、シーパワーとランドパワーを併せ持った中国に進化すること、そして、ユーラシア沿岸国を陸と海から挟撃することをも見据える。

 『自由で開かれたインド太平洋戦略』陣営=民主主義陣営としては、政権交代を超えて、腰を据えて長期の取り組みで巻き返していくのが基本となる。


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