【一帯一路から考える世界の未来】世界がまだ見ぬ新しい覇権交代が目前に -三浦瑠麗-

三浦瑠麗
カテゴリ:地域

  • 覇権が交代するとき、必ずしも戦争を伴うわけではない
  • 「新中華帝国」の面的広がりを金融・財政で支える『一帯一路構想』
  • 日本企業は地域に骨を埋めるつもりで戦略を練るべし

覇権が交代するとき、必ずしも戦争を伴うわけではない

21世紀の前半を生きる私たちは、覇権交代を目にしつつあるのでしょうか。

米国の影響力が減退し、政治的、経済的にも、文化的にも中国の影響力が凌駕していく時代。

1945年以降の西側陣営では、米国が自由で民主的な、制度化された秩序をつくりあげ、安定した貿易圏を拡大することで参加国を守ってきました。

冷戦が終わると経済圏が拡大し、西側の制度を基礎にしたグローバル化が飛躍的に進展します。

しかし、アメリカは思わぬところで躓きます。民主化を模索して失敗したイラク戦争とアフガニスタン戦争。内向きになった米国に、トランプ政権が誕生したことで、予見されていた覇権交代のプロセスが何年も早まってしまっているのです。

覇権が交代するときは、必ずしも新勢力との戦争を伴うわけではありません。

戦争に負けずとも、自主的に海外拠点からの撤退が選択されることがありうるからです。

民主国家である以上は、民意に基づく撤退が基本となります。

「帝国」を維持することの利益よりも社会福祉や国内産業の保護に目が行くとき、軍事的には不合理であっても、撤退という選択が取られてしまうのです。

「新中華帝国」の面的広がりを金融・財政で支える『一帯一路構想』

覇権を構成するのは経済力だけではなく、下支えする軍事力が必要です。

トランプ政権は赤裸々なエコノミック・ナショナリズムを前面に出していますが、短期的な目的のために米国の長期的な影響力を損ないつつあります。

そこで気になるのは、中国が継続的に国際社会への働きかけを量的、質的に高めてきていること。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」構想がその中心事例です。

この構想は、戦略的に中国の影響力を高める目的をもって展開されており、こうした傾向が続けば、戦後の私たちが知っている東アジアとはまるで異なる経済秩序、政治秩序に倣う地域が出現することになるだろうからです。

一帯一路構想とは、アジア、アフリカ、欧州をつなぐ経済圏の構想です。

その特徴は、中央アジア、欧州へとつなぐ陸路と、東南アジア、インド、アラビア半島、欧州へとつなぐ海路で巨大な経済圏を創出し、圧倒的な資金力で面的なシェアと影響力を確保しに行こうというものです。

中国が国内で過剰生産した鉄鋼やセメントを使用し、インフラ投資を進め、親密な経済関係を構築する。

これらの大プロジェクトは明らかに、戦後のブレトンウッズ体制やマーシャルプランを部分的に置き換えることを前提に設計されています。

東南アジア、中央アジア、中東、アフリカ、欧州へとつづく「新中華帝国」の面的な広がりを、金融面や財政面でも支えようという構想です。

世界が目にしたことのない新しい権力の移行

しかし、先ほど覇権交代の戦争は必ずしも起きないと申し上げたのと同じように、私たちは中国と経済戦争をすることもないのです。

21世紀に生きる私たちは、かつて植民地の分捕り合戦を行っていた列強の時代や、米ソ冷戦時代とは、まるで異なるグローバリゼーションの段階にきているからです。

1970年代後半に、中国で改革開放政策が開始されて以降、中国の経済発展に最大の貢献をしたのはおそらく米国です。

統計上は中国の最大の貿易相手は香港ということになっていますが、香港経由のものも含めて最大の存在は米国だからです。

最大の消費地である米国は、世界の工場である中国の産品に支えられており、米中の経済関係は、あらゆる産業のあらゆる分野に及んでいます。

金融危機の直後には、米国の国力の象徴である主要な投資銀行に、中国の国富ファンドから投資が行われました。

その意味で、米中の対立を指して、「米中冷戦」と指摘するのはナンセンスです。

周囲からは窺い知れないほどに、米中の経済は深いところで結びついているのですから。したがって、覇権交代が起こるとしても、それは経済的に深く両国が結び付いたままでの覇権交代となる。

それは、世界が目にしたことのない新しい権力の移行となるはずです。

軍事的な拡張主義を躊躇なく進める中国

中国自身は、自らの平和的台頭を強調していますが、米国との直接的な衝突を回避できる限りにおいては、軍事的な拡張主義を躊躇せずに進めています。

今や、中国海軍の海外基地は、南シナ海での岩礁基地の建設から始まり、東南アジアからインド洋を経てアフリカまで広がっています。

最近話題となったスリランカのハンバントタ港の一件がありました。スリランカ政府は、債務を軽減してもらうのと引き換えに、中国に当該港の99年間にわたる運営権を与えたのです。

中国が海洋進出を重視する理由は、中国経済の繁栄を下支えする海路が、米国が押さえているシーレーンに依存していることを受け入れがたく感じているからです。

日本企業は資金力と物流で中国に圧倒され 経営力で欧米に劣る

これに反発を覚えた日本の外務省及び安倍政権は、シーレーンで対抗すべく、「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出しました。

中国の海洋進出が進めば、日本はこれまで米国が防衛してきてくれたシーレーンの安全を当然視できなくなりますから、危機感は当たり前です。

しかし、この構想は、対象とする地域各国が思い描く経済圏とは同床異夢である可能性があります。

「インド」とわざわざ入れたのは、中国を排除した経済圏にはほぼ意味がないために、大国インドを入れることでバランスを取ろうというのに加えて、日本が重視する中東・アフリカへの航路の重要地点に当たるからです。

したがって、内実の経済圏にはまだあまり実態がありません。

外務省が作成した資料を見れば、日本がこれまでこの地域に行ってきた投資、経済協力、法制化や保健衛生分野での支援、あらゆる取り組みがマッピングされていることが分かるでしょう。

日本企業がこの地域でプロジェクトが全然行えていないというわけではありませんが、資金力と物量において中国に圧倒され、スマートな浸透を確保する経営力において米欧に劣るというのが今の日本企業の実態なのです。

中国では、国策に応じて国有銀行が国有企業に無尽蔵に資金を貸し付け、その投資に基づいて海外進出を拡大してきました。

他方、米欧の企業は、現地化やM&Aにおいて日本の企業力を凌駕しています。

日本企業は地域に骨を埋めるつもりで戦略を練るべし

日本は何を目的とするか。

それを見失ったまま、言葉遊びに終わってはいけません。

東アジア各国の政治は、米国の内向き化と中国の拡張主義の現実を反映するようになっています。顕著な動きを見せているのは、北朝鮮問題を抱える韓国ですし、東南アジアでも、ミャンマー、ラオス、カンボジアなどの大陸国は中国政治の影響を直接受けています。

インドネシアやフィリピンなどの海洋国は、直接的な圧力はそれほど受けない代わりに、中国の経済力に吸い寄せられる構造が明確化しています。

中央アジアも、中東も、アフリカも、構造は似たり寄ったりです。

インドを初め、「インド太平洋構想」が対象とする経済圏に位置する諸国は、プロジェクトベースでの日本の存在感をぜひ高めてほしいと思っています。

したがって、まず彼らが気にするのは、どのような経済プロジェクトがありうるのかということです。

80年代に成功したモデルでは間に合わなくなった今、日本企業には本気の戦略が必要です。

政府も、もし本気ならば、日本企業の存在感が当該地域で面的に広がり、深く浸透することを手助けすべきでしょう。

面的に広がるということは、その国や地域に骨をうずめる日本人のキャリアパスや生き方が、現実的に出てくるということです。

戦後の日本人は、アメリカや東南アジアに積極的に進出し、現地化しようと努力を行いました。しかし、その時代に築かれた日本のアドバンテージは、グローバル化の加速によって失われつつあります。

日本外交はこれまで、地味に努力を積み重ねつつも概念設計力に欠けると言われてきました。
その意味で、こうした概念を打ち出したこと自体は評価すべきだと思います。

しかし、その実現に向けては、重たい課題が待ち構えているのです。

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