【一帯一路から考える世界の未来】「真珠の首飾り」戦略を分断するマラッカ海峡と海洋安全保障体制が鍵に-東海大学・山田吉彦教授-

山田吉彦
カテゴリ:地域

  • 「一帯一路」とは中国が基点となる国際社会、経済の創設を目指すもの
  • 「真珠の首飾り」戦略を分断するマラッカ海峡の管理体制が鍵となる
  • もう一つの核となるのが日本の沿岸航路と海洋安全保障体制

アジアと欧州を結ぶ陸路と海路を中国の影響下に置く「一帯一路」

中国の習金平国家主席は、中国共産党中央委員会総書記に就任した時に「中華民族の偉大なる復興」を目指すことを表明し、その目標は、ユーラシア大陸を一体化した経済圏「一帯一路」という構想により具体化された。

「一帯一路」とは、アジアと欧州を結ぶ陸路の「シルクロード経済ベルト」と、海路の「21世紀海上シルクロード」を中国の影響下に置き、中国が基点となる国際社会、経済の創設を目指すものである。

一帯一路研究の第一人者である王義桅中国人民大学教授によると、中国にとっての一帯一路の本質的な目的は、中国がグローバル化の創造者になる事により、国内の過剰生産に対する国外市場拡大、石油、ガス、鉱物など資源の獲得、中国内陸部の開拓と国家安全保障の強化にある。

この構想を実現するために、中国は、「シルクロード基金」を創設し、アジア諸国に500億ドル以上投資している。

さらに独自の資金だけではなく、他国の資金を利用し経済圏の拡大を計るために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設した。

一路に「点」はあるが「線」がない

しかし、南アジア、中央アジア諸国におけるインフラ整備には、AIIB出資国が同意できる優良な投資案件は少なく、陸路である「一帯」の整備には困難を有する。

その点、海路の「一路」は、既存の海上交通網の上に立脚しているため、効率的な投資が可能である。

そこで、中国は、海上の主導権を握るために、南シナ海に人工島により拠点を形成し、アジア各地に拠点港湾を持つ「真珠の首飾り」戦略を進めている。

パキスタンのグワダールには大規模な港湾を建設し、スリランカでは、同国南部のハンバントタ港における99年間の運営権を中国企業が取得し、実質的に中国の管理下に置いた。
モルジブ、ミャンマーなどにも港湾建設を目指している。

しかし、中国は一路に「点」を整備したが、「線」としてのつながりが無い。

南シナ海とインド洋を結ぶ交通の要衝マラッカ海峡は、管理体制に協力を続けてきた日本と安全保障を支援してきた米国の影響が強く、真珠の首飾りを分断しているのだ。

マラッカ海峡の管理体制は、一帯一路の方向を握る鍵となっている。

マラッカ海峡の航路管制システム

もう一つの核となるのが日本の沿岸航路と海洋安全保障体制

また、一帯一路は、東方への拡大も視野に入れている。

中国の主要な輸出国は米国であり、中国にとって米国へ通じる北太平洋航路の主導権を得ることも重要である。

しかし、対米貿易航路は、日本沿岸を通過しなければならない。

さらに、本年からは、アジアと欧州を既存の航路の三分の一の行程で結ぶ北極海航路の商業運航が開始される。
この北極海航路のアジアの玄関は日本である。
一帯一路の中核であるマラッカ海峡、日本沿岸航路ともに、日本の海洋管理体制が重要な意味を持っている。

一帯一路では、海上テロや海賊、さらに気候変動や台風、津波などの自然災害にも対応できる非伝統的安全保障の充実が求められる。

アジア海域の非伝統的安全保障体制は、海賊問題を契機として日本の海上保安庁とASEAN諸国の海上警備機関の連携により、国際法に基づいた警察権により推進されている。

海上保安庁石垣海上保安部 尖閣諸島専従部隊の巡視船

中国は軍と警察権を一元化して力で海洋管理

しかし、中国は、非伝統的安全保障を担当する「中国海警局」を人民武装警察部隊に編入し、中央軍事委員会の指揮下に置くことを発表した。
海上における軍と警察権を一元化することで、力を持って海洋管理を進めようとするのである。

アジアと欧州を一体化したユーラシア経済圏は、日本のみならず世界経済にとっても新たな可能性を生み出す。

その創設のためには、海洋安全保障体制が不可欠だ。

インドも含めアジアから欧州にかけての幅広い海域における国際的な非伝統的安全保障体制の構築の中核となり推進できるのは、力を誇示するのではなく国際法と外交関係を重んじる日本なのである。

一帯一路から考える世界の未来の他の記事