韓国芸術団の公演鑑賞、電撃訪中……金正恩の逆張り戦略

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  • 「情報戦で攪乱せよ」…国際社会の意表を突き主導権握る 
  • ハグなし、夫人同伴で首脳会談…金正恩流演出 
  • 北朝鮮メディアは言及避ける…非核化めぐり温度差 

逆張り戦略で主導権握る

4月1日夜、金委員長は韓国の芸術団の平壌公演に李雪主夫人や、妹の金与正氏らとともに鑑賞した。

公演後、出演者との挨拶を交わした金委員長は、「秋にはソウルで開催しよう」と音楽交流の継続に意欲を見せた。

実は、金委員長の出席は事前には予告されていなかった。自らの行動を明かさず、サプライズを演出するのが金正恩流の定番だ。その行動原理を分析すると、金正恩流の戦略が見えて来る。

4月27日に開催が決まった南北首脳会談、5月末までに開催が見込まれる米朝首脳会談、そして衝撃的だったのが、3月25日から28日にかけての中国の電撃訪問。

国際社会の注目を一身に集める北朝鮮だが、金委員長の次の一手は何なのか。そのヒントが北朝鮮の思想学習の内容に隠されていた。

北朝鮮で高級幹部向けに定期的に開催される内部情勢報告会。講師が最高指導者の指示、即ち金委員長の“お言葉”を解説し、学習する。

例えば2013年の講演では、国際社会の反対を押し切ってミサイル発射を続ける理由について……。

「今回衛星を発射することができなければ、将軍様(金正日総書記)の遺言を貫徹することができない。衛星発射は賛成の中でするより、反対の中で打ち上げる方が北朝鮮の威力を誇示する契機になる」

国際社会が反対すればそれに逆らう。

金委員長の基本戦略は“逆張り”なのだ。

北朝鮮は2012年4月の金日成主席生誕100年の記念日に合わせて弾道ミサイルを発射したが失敗。12月に再発射して成功させた。この時は発射の延期を発表したその直後、ミサイル発射を強行。国際社会の裏をかき、電撃的に発射に踏み切った。

金委員長はこの作戦について……。

「国際世論戦また戦略的報道戦を通じ確固たる主導権を握ろうとした。そのために、報道戦を展開した」

様々な情報を流し相手を攪乱することで、自分が主導権を握って物事を有利に進める。今回の訪中も国際社会の予想を裏切るという意味では同様だ。北朝鮮は情報戦を駆使し、常に攪乱の機会を狙っていると言える。

訪中も正恩流

習近平体制発足以降、中朝関係は核実験やミサイル発射を繰り返し冷え切っていた。朝鮮戦争を共に闘い、血盟の契りで結ばれた両国だったが、この5年間は一度も首脳会談が開催されていなかった。

結局、金委員長が最高指導者として初の外遊先に選んだのは、祖父や父と同じ中国だった。
特別列車での極秘訪中、伝統的な友好関係の強調、と従来のやり方を踏襲したように見えるが、一方で金委員長らしさも垣間見えた。

一つには李雪主夫人を同伴し、習近平共産党総書記(国家主席)と彭麗媛夫人と共に首脳外交を展開したこと。

もう一つは、習氏とハグをせず、握手だけで済ませたことだ。

中朝の首脳間交流といえば、これまで双方が熱烈な抱擁を交わすのが通例だった。金日成主席と毛沢東氏、金正日総書記と江沢民氏――常に抱擁から始まっていた。

朝鮮戦争を共に戦った血盟の契りにもとづく友好関係の象徴がハグだったが、今回、習氏と金委員長の間にはこの場面は見られなかった。

何故ハグしなかったのか?

双方とも、口では伝統的友好関係を強調しているが、かつての一体感は薄れている。金委員長からすれば、中国の言いなりになるのでなく、対等の立場で渡り合いたいという思いが強い。

習氏にとっても遙かに年下の金委員長を抱擁するのは抵抗感があるのだろう。

北朝鮮メディアは金委員長が中国に歓待される様子を大々的に報道し、訪中の成果を宣伝した。北朝鮮側の報道には、金委員長が緊張の面持ちで習主席と握手する様子や、懸命にメモを取る姿などは含まれていなかった。

非核化では温度差

朝鮮半島の非核化を巡っても温度差は歴然だ。

中国側の報道では、金委員長が「金日成主席と金正日総書記の遺訓に従い、半島の非核化実現に尽力することが我々の変わらぬ立場である」として、非核化に言及。

「北南首脳会談を開き、米国と対話し、朝米首脳会談を実施するのを願っている」と韓国、アメリカとの首脳会談にも触れたことを明らかにした。

また、両国が「平和の実現に向け、段階的な同時並行的な措置を取るなら、半島の非核化問題は解決されるだろう」とした。これは北朝鮮が、一気に、一方的に非核化を進めるのではなく、相手(アメリカ)が同様の措置を取るのに合わせて段階的意に実施することを意味する。

つまり、平和協定の締結や在韓米軍の撤収など、北朝鮮の要求をアメリカが呑まなければ、非核化が進まない可能性もあるわけだ。

北朝鮮メディアは非核化や米朝首脳会談に関する金委員長の発言については一切伝えていない。実質的な非核化に踏み切るのか、それとも単なる時間稼ぎに終わるのか。

非核化に対する自らの立場を曖昧にし、首脳会談の場で電撃的に打ち出す――そんな金委員長の戦略が透けて見える。



(鴨下ひろみ・フジテレビ報道センター室長)

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