現金なんていらない ~すぐそこにある未来~  古市憲寿

カテゴリ:ワールド

  • 世界各地でキャッシュレス化が進む中、日本ではいまだに約8割が現金決済
  • 現金だけがありがたがられる理由はない
  • 高齢者にとっても電子マネーの方が使いやすいはず 

中国で汚れた紙幣を持って立ちすくむ…

上海へ行ったときのことだ。美術館に行って、受付で入場料を支払おうとしたら怪訝な顔をされた。現金は受け付けておらず、電子マネーで払うか、ネットでチケットを予約して欲しいというのだ。汚れた元の紙幣を持って立ちすくむ僕は、さながら20世紀からやってきた旧世代の人間だった。

よくメディアでも報道されている通り、中国社会では急激にキャッシュレス化が進んでいる。

電子マネーは従業員による持ち逃げの心配もないし、偽札をつかまされるリスクもない。店舗にお金をおかなければ強盗に遭いようもない。さらに国家としては、お金の流れを追跡しやすい。中国は、もともと現金に対する信用度が高くなかったため、一気にキャッシュレス化が進んだのだろう。

このお金の電子化は、何も中国だけで起こっているわけではない。北欧では少額決済でもカードを出すことが珍しくなく、スウェーデンやデンマークでの現金決済率は数パーセントにまで落ち込んでいるという。

現金だけがありがたがられる理由はない

翻って日本。この国の人々はまだまだ現金が好きだ。都心部は多少ましになったが、地方へ行くとクレジットカードの使えない店はまだまだ多い。高級店でも現金しか受け付けない飲食店もちらほら(よからぬ勘繰りを入れたくなってしまう)。

最近では試験的に「現金お断り」を銘打つレストランなども現れたが、大きな流れにはなっていない。中国の現金決済率が5割を切る中、日本では未だに8割の決済が現金で行われる。

根源的に考えれば、1万円札も、スイカに入っている1万円も、ビットコイン1万円分も、共同幻想によって担保されているに過ぎない。「みんながこれに価値があると信じているはずだ」とみんなが信じることで、お金の価値は担保されている。

中でも日本円は、異様に人気が高く、歴史もある。多くの人は、その価値が短期間で失われるとは考えていない。

その意味で、一般的にビットコインではなく、円が好まれるのはわかる。しかし現金だけがありがたがられる理由にはならない。どれほど円に価値のある世界でも、クレジットカードや電子マネーが普及する余地は十分にあるはずだ。

現金は盗難されたら追跡のしようがない(現金のない世界では、3億円事件など起こりようがない)。衛生的にも誰が触ったのかわからない。

また、特に小銭などはユニバーサルデザインとは言い難い。

たとえば本来、高齢者にとっても電子マネーのほうが使いやすいはずなのだ。財布の中から小銭を取り出すよりは、スイカをタッチしただけのほうが動きとしては楽。初期設定やチャージの問題さえクリアできれば、電子マネーは決して若者向きのものではない。

とりあえずATMの手数料を…

しかし、このようにデメリットをいくら並べたところで、現金派の気持ちは急には変わらないだろう。慣れ親しんだスタイルを急に変えるのは難しい。

だからとりあえずATMから現金を引き出す際の手数料を1万円くらいにしてみたらどうだろう。現金を高級品にしてしまうのだ。どうしてもという人は高い手数料を払って現金を見せびらかせばいい、一般人はコストの低いクレジットカードや電子マネーを使えばいい。

何か困ること、ありますか?

「〇〇なんていらない」~すぐそこにある未来~
 肩書きなんていらない 佐々木俊尚

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