働き方改革による残業代減で「労基不況」も?

マネックス証券 広木隆チーフ・ストラテジスト ×フジテレビ鈴木款解説委員【対談Part2】

カテゴリ:ビジネス

  • FRBはデータや証拠に基づき政策を決めろ!
  • 黒田総裁の続投で日本経済は良くなるのか
  • “残業代が減ると給料も減る’’労働者の意欲喪失が招く最悪のシナリオ

パウエル新議長の発言がマーケットの不安を煽る

鈴木: 
FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル新議長が議会証言を行い、その中でタカ派的な発言があり、景気対策に楽観的な感じでマーケットは反応し、これで利上げも年に3回じゃなくて4回だろうという感じになってきていますが、広木さんはどう思いますか?

広木:
パウエル議長は1回目の議会証言は確かにタカ派的でしたけど、そのあとに上院で2回目の議会証言を行い、そこで修正してきたんです。

通常、FRB議長の議会証言ってだいたい同じになるんですけど、今回はトーンが変わって、「アメリカ経済が過熱している兆候は全く見られない」とか「賃金上昇が加速している決定的要因はない」など、タカ派的な発言から、ハト派的な態度に切り替えているんです。

柔軟な人なんでしょうね。

イエレン前議長の時からそうだったんですが、データ次第で、 ’'Evidenced- based”の政策'’をしなくてはいけない。

つまり証拠に基づいて政策を決めるということにしないといけないんですよ。

そう考えるとパウエル議長が「賃金上昇が加速している決定的な証拠はない」と発言したことは重要で、利上げのペースが3回から4回になるということについては、データが揃ってないとダメだろうと思います。

そうするとやはり一番重要なことは、労働市場ではなく「インフレ」です。ここまで失業率が低下し、雇用者数も伸びて労働市場が改善したのに、インフレが上がってこないことがずっと謎で問題だったわけですよ。

ところが、先日発表された雇用統計で、平均受給が伸びたためマーケットも驚いて金利も上がった。

ただそれって特殊要因だっていうことが最近また言われ始めています。本当にインフレが上がっている証拠が、もっともっと出て来ないとダメだと思います。

米消費者物価指数(CPI)のコアな部分も上昇していない。
それからFRBが注視している物価指標である「個人消費支出」の科学指数で増えた。

この「個人消費支出」は3か月連続上昇していています。
インフレが加速している証拠がないことは、FRB議長になったパウエルさんだってよくわかっているんですよ。

3月の利上げもほぼ確実視されていますけど「本当にこのタイミングでやるのかな」と個人的には思います。

「出口政策を検討」は何も言っていないことと同じ

鈴木:
日本は黒田総裁の再選がほぼ決まりということですが、今の金融緩和路線はそのまま継続ということでしょうか。

広木:
もちろん政策の変更はないでしょ。
日本でも黒田総裁が議員の質問に答えるかたちで、インフレ目標の達成について聞かれ「2019年度頃には出口を検討していることは間違いない」と言った。

あの発言が一人歩きして、円高になってしまった。
黒田総裁が2019年頃には目標に近づいていると言った上で、出口政策を検討しているのは当たり前だと思うんですよね。

そのころになって、出口の検討もしていないなんていうのは中央銀行としてはあり得ないですから。出口政策を検討するというのは、出口施策に踏み出すよということではないわけです。

つまり「やるのか」「やらないのか」も含めて検討なんですよ。

だから「2019年度に出口政策を検討する」というのは何も言っていないことに等しいと思いますよ。

2019年 日本は政治イベント目白押し

鈴木:
来年は参議院選挙、統一地方選挙、消費増税も控えています。
日本の金融政策は変更しようがないですよね?

広木:
そうなんですよ。ただその時にいい感じで賃金が上がり、それで物価上昇をこなしていくような良いインフレになってきたら、出口がありそうですね。

今は「ステルステーパリング」といわれて金利の買取りは量から質の金利へ移っていますから、これまで長期金利をゼロにしているのを少し上げるとか、

あるいは、一部銀行の弊害になっているマイナス金利ですが、これを見直すとかその程度であれば、あまりにも極端な円高になったり、景気を過度に押し上げたりすることはないと思います。

鈴木:
長時間労働是正に伴って生産力が落ちたり、残業代が減って労働者の意欲が落ちるという、いわゆる「労基不況」に突入するのではといわれていますが。

広木:
今回の働き方改革の趣旨はすごくいいんですよ。まさに労働生産性革命だと。

前回の成長戦略を打ち上げたわけですよね。それをもとに日本の労労働生産性を高めなきゃいけない。
労働生産性が低いから賃金の上昇も鈍いということなので、まず生産性を高めようと。

それには働き方を変えないとだめなんだということがあって、長時間ダラダラ働いていたらそりゃ生産性が上がりませんよ。

一方で現実に実践するとなるといろんなところに目配りをしてやっていかなければならない。現実的には残業代が減ったら、手取りが減るんだから、それに対する手当をどうするのか。

今回、裁量労働制のところは法案として提出しないということになりましたから、ますますちょっと中途半端な形になっちゃっていますよね。

しかし、折角なので賃金上昇は今度の春闘で3%は無理としても、ベアと定期昇給を合わせると何年か連続で上がっていくのですが、働き方改革の実践の不備に打ち消されるということは十分にあります。

一方で、インフレはコストプッシュ型でじりじり上がって来たりしている部分もあるので、ますます生活苦で消費を切り詰めたりする動きが出ないとは限りませんので、本当に大きな懸念材料だと思います。