女性ジャーナリストの反乱に揺れるBBC

給与の男女格差に抗議して中国総局長が辞表を叩き付けた <フジテレビ・二関吉郎解説委員>

カテゴリ:ワールド

  • BBCの大物ジャーナリストが給与の男女格差に抗議して辞任
  • イギリスではアンフェアでないことに対する反発の精神が強い
  • 身を賭して抗議する女性の勇気と、積極的に報道するBBCのジャーナリズムを評価

イギリス女性はやはり強い

“BBC editor quits post over equal pay row.”

「給与格差を巡る対立でBBCの大物ジャーナリストが離任」

8日の成人の日にニュース・チェックをしていたら上記の見出しが目に飛び込んできた。

本文を興味津々読み進めると、北京駐在のBBCの女性Editor(後述)が給与の男女格差に抗議して辞表を叩き付けたという話であった。

筆者は去年夏までロンドンに駐在していたので、当然、この女性ジャーナリストの活躍ぶりを画面で知っていた。
そして、イギリスの女性はやはり強いと改めて感心した。

さらに、この問題を積極的に報じたのが他ならぬBBC自身であることにも感心した。

勇ましくも辞表を叩きつけた女性の肩書きは「中国総局長」

イギリスのニュースメディアの組織や肩書きは日本やアメリカとは異なるのでマニアックになるが、少し解説する。

 勇ましくも辞表を叩き付けた女性の肩書きは“Chinese editor”、日本で言えば「中国総局長」である。

この“Editor”という言葉が実は曲者で、日本語にすると普通は「編集者」だが、イギリスでは「部長」を指すこともあれば「総局長」や「編集長」、場合によっては「映像編集技術者」を指すこともある。

別な説明の仕方をすると、BBCの政治部長は“Chief Political News editor”、経済部長は”Economic News editor”、北米総局長は”US editor”、中東総局長が”Middle East editor”である。
昔のことだが、スカイ・ニュースの国内統括編集長は単に”News Editor”と呼ばれていたと記憶する。
つまり、イギリスのメディア界では、ある分野の編集の責任者になると、皆、”editor”と呼ばれるようになるのである。
(余談になるが、もっと偉くなると“managing editor”になる。)

だから、この中国総局長の女性が問題視しているのは、同格の”editor”達との給与格差ということになる。”editor”全員との差ではない。

確認したわけではないが、筆者が知る限り、BBCにはイギリス国外に“総局長”が4人存在する。
北米総局長、中東総局長、中国総局長、欧州総局長の4人で、うち北米と中東が男性、中国と欧州が女性なので、男女比は同じである。

男性総局長の給与は、女性総局長の1.5倍!

しかし、BBC自身の報道によれば、男性の北米総局長への報酬が年間20万ポンド超、同じく男性の中東総局長が15万ポンド超なのに対して、女性の中国総局長、欧州総局長への報酬はいずれも15万ポンド未満で、男性2人の報酬は女性2人より1.5倍以上もあったという。

正確な数字は公表されていない。
その額が妥当か否かはこの稿の趣旨と外れるので論じない。
だが、この差は大きい。

彼女は、ここには明確に男女格差が存在すると抗議して、中国総局長の職を辞したのである。

海外特派員の仕事は一様ではない。
責任範囲となる場所によって、言葉も文化・風習も、政治や経済制度も、そして、安全度も全く異なるからである。
だから、待遇も一様に定めることはできないと思う。
だが、同じ総局長なのに1.5倍以上の差があるのはさすがにおかしい。

職を辞して “不正義” に抗議の声を上げた勇気に感服

さて、ここで、筆者が感心するのは、この女性ジャーナリストが職を辞してまで抗議の声を上げた勇気に対してである。
彼女は、すでに名声を十分確立したチャイナ・ウォッチャーであり、中国総局長という非常に高い地位も得ていた。
そのままで不自由は無かったに違いない。

にもかかわらず、その地位を捨ててでも“不正義”に抗議したのである。

イギリスではアンフェアでないことに対する反発の精神が強い。
特に、インテリの女性の間で強いというのが彼の地に通算8年駐在した筆者の実感である。
このように身を賭してでも社会に一石を投じる女性がいることは全体の進歩のためには良いことなのだと思う。
そして、これを積極的に報じることで支援したBBCのジャーナリズムも改めて評価したい。

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