証拠はない。が、露による暗殺を想起させる事件が英で起きた

まるでスパイ小説の世界<フジテレビ 二関吉郎解説委員>

カテゴリ:話題

  • ロシア人元スパイが英国で正体不明の物質で重篤に 
  • GRUに所属し、MI6に協力し、FSBに摘発された男の実話 
  • 連想されるのは2006年のリトビネンコ暗殺事件

ロシア人元スパイが正体不明の物質で重篤に

“重篤の男はロシア人の元スパイ”
-Critically ill man is former Russian spy.-

イギリスの報道をチェックしていて目に飛び込んできたBBCの見出しである。

ガーディアン紙のウェブもトップで
“ロシア人の元スパイが英で正体不明の物質により重篤に”
-Former Russian spy critically ill in UK 'after exposure to substance-
と伝えていた。

事実関係は曖昧かつ複雑である。

報道によれば、重篤になった男性はセルゲイ・スクリパルという60代の男性で、4日の日曜日の午後、ソールズベリーのショッピングセンターのベンチで、30代の女性と共に意識朦朧としているところを通りがかりの人が気付き通報したという。

2人が意識を失った原因は体内に入り込んだ正体不明の物質らしいというだけで正確には不明、目撃者に拠れば、何か強力な薬物を投与されたような状態だったらしい。

まるでスパイ小説のような実話

そして、問題をさらに複雑にしたのが、このスクリパル氏の正体であった。

スクリパル氏は元々はロシア軍の情報将校だったが、その後、イギリスの情報機関の協力者に転じたことでロシア当局に逮捕され、2006年に有罪判決を受けたという。

スクリパル氏が所属していたロシア軍情報機関はGRU、彼が協力したイギリスの情報機関はMI6、彼を摘発したロシア当局はFSB(旧KGB)、まるでスパイ小説の世界だが実話だそうである。

ご存知と思うが、ちなみに、MI6はジェームズ・ボンドが所属しているとされる機関、KGBはプーチン大統領の出身母体である。

その人物が、イギリス南部のソールズベリー大聖堂でも知られる町で何故暮らしていたのかというと、西側とロシアのスパイ交換で2010年に釈放されてウイーンで解放され、その後、彼の地に落ち着いたのだという。

その時、交換されたのはアメリカのFBIが摘発したロシアのスパイ10人とロシアが摘発した西側のスパイ4人でスクリパル氏は4人のうちの1人だったという。
つまり、スクリパル氏がイギリスのスパイだったことは間違いないということになる。

連想されるのはリトビネンコ暗殺事件

その人物が意識不明の重篤に陥っている原因は人工的に精製された強力な麻薬を盛られたからではないかという報道があるものの、現時点では不明。
なので、これが事件なのか事故なのかさえ未だはっきりしない。
だが、ショッピングセンター内のベンチの上という公共の場で、2人同時に同様の症状になっていたということは、事件の可能性の方が高いことを意味する。

イギリスでは“あらゆる”機関が投入され捜査が始まっている。

当然ながら、連想されるのはリトビネンコ暗殺事件である。
2006年にロシアの元情報員・リトビネンコ氏が放射性の毒物・ポロニウムをロンドンで盛られ、暗殺された事件のことで、イギリス政府はロシアの情報機関・FSBの犯行と断定している。

スクリパル氏が重篤に陥った件はまだ事件とも断定されていないので、憶測の域を出ないが、こちらもロシアの関与を疑うのが普通の流れということになる。

ただし、その他の可能性が排除されるわけではない。

スクリパル氏がイギリス移住後も何か公にできない仕事に従事していなかったかどうかも気になるところである。

証拠は無い。

だが、ロシアの情報機関に裏切り者とみなされると何処にいようと怖いことが起きるのかもしれない。