ロシア人元スパイと共に重篤に陥った女性は彼の娘だった

『強烈な恨み』が犯行の引き金か <フジテレビ・二関吉郎解説委員>

カテゴリ:話題

  • 口から泡を吹き…2人に盛られた毒物は? 
  • 「命をロシア政府が狙うのは考えられない」
  • 『強烈な恨み』抱えるロシア情報組織員も

泡を吹き意識不明で発見された元スパイの娘

昨日執筆した『証拠は無い。が、露による暗殺を想起させる事件が英でまた起きた』(https://www.houdoukyoku.jp/posts/27161)で、英国在住のロシア人の元スパイの男性が重篤に陥った不思議な“事件”についてお伝えした。

これはその続報である。

イギリスの報道によると、ロシア人の元スパイ、セルゲイ・スクリパル氏と共に、イングランド南部の町・ソールズベリーのベンチで意識不明の状態で見つかった女性は、スクリパル氏の娘さんのユリアさんであることが判った。

元スパイ、セルゲイ・スクリパル氏

4日の日曜の午後、通り掛かりの人に発見された時、ユリアさんはすでに意識不明で、口からは泡を吹き、完全に白目になっていたという。

父親のスクリパル氏は焦点の合わない目で腕を天にむけ固まったような状態だったらしい。

2人に盛られた毒物は、化学兵器研究などで知られるイギリス軍の専門施設に送られ、分析されていると伝えられているが、その正体は依然として不明である。

2人が手当てを受けている病院の関係者は「治療は対症療法しかできていない。根治治療は始まっていない」と語っているそうだ。

毒物の正体がわからなければ、どんな解毒剤が有効かわからないのも当然かもしれない。

事件の目的は強烈な恨みか

ロシアで二重スパイの容疑で摘発され、投獄されていたスクリパル氏は、2010年に西側とロシアのスパイ交換で釈放されてウイーンで解放され、その後、イギリスに落ち着いた。

その時、交換されたのはアメリカのFBIが摘発したロシアのスパイ10人と、ロシアが摘発した西側のスパイ4人で、スクリパル氏は4人のうちの1人だった。

この時、スクリパル氏とともに解放された4人組の1人だった別のロシア人の元スパイの男性は「我々はロシア政府から既に恩赦を受けスパイ交換でイギリスに来た。もう過去の人間だ。その命をロシア政府が狙うというのは通常考えられない」と語ったという。

論理的にはその通りかもしれない。

何故かと言えば、スクリパル氏を闇から闇に葬りたかったら、彼が投獄されているうちなら簡単だったはずだからである。

その気になればいつでも出来たはずなのである。

また、裏切り者だからといって恩赦を受け釈放された元スパイを殺めるのは報復を招く恐れがある。

そうなれば自分達が保護すべき身内の功労者達の身も危険に晒す。

組織としては得策ではない。

06年に暗殺されたKGBの元情報員・リトビネンコ氏は、イギリス移住後も反プーチン運動に積極的に関わっていたが、スクリパル氏に関しては、そのような報道は無い。

これまでのところ、イギリスの軍関係の学校でレクチャーをする程度だったという報道しか無い。

もしも、そうだとすればイギリス移住後のスクリパル氏の活動が今回の“犯行”の動機とはなりにくい。

謎ばかりが残る不思議で恐ろしい事件

だが、娘さん共々スクリパル氏を殺害しようとした今回の“事件“から感じられるのは強烈な恨みである。

また、イギリス軍の専門機関でさえ未だにその正体を解明できない毒物を所持し、使用した今回の“犯行”は並みの組織に出来ることではない。

ましてや個人に出来るとは考えにくい。

とすれば、犯人に関して今回の“事件”が指し示す方向はモスクワというのがやはり誰もが思うことである。

二重スパイ・スクリパル氏が西側に提供した情報によって、ダメージを受けたのはロシアの“組織”だけではない。

そこで働いていたスパイ達も個人的なダメージを受けたはずである。

恩赦とスパイ交換によってロシア政府はスクリパル氏を許したが、個人的には許せないと未だに強烈な恨みを抱えているロシアの情報組織員が多数居ても不思議ではない。

しかし、もちろん現時点で証拠は無い。

誰も何も断定していない。

狙われたのは娘さんの方でスクリパル氏は巻き添えだったという可能性でさえ完全に否定された訳でもない。

依然として謎だらけの不思議で恐ろしい事件である。