「5G」の商用サービスがいよいよスタートした。「5G」をめぐる実証実験や、地域限定で利用する「ローカル5G」など、さまざまな分野で各社の動きが加速している。

建設現場で「5G」実証実験

提供:KDDI、NEC、大林組
提供:KDDI、NEC、大林組
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KDDI、NEC、大林組は2月3日から14日までの間、三重県伊賀市の建設現場で「5G」の実証実験を行った。3台の建設機械に計12台のカメラをとりつけたほか、工事エリアを俯瞰できる計8台のカメラを設置。その映像と遠隔操作の信号データを「5G」でリアルタイムに伝送し、遠隔で土砂の掘削、運搬などを行い、成功したという。

遠隔で工事を行うためには、現場で動いている建機の映像をタイムラグがなく、リアルタイムに確認しながら、操作を行う必要があり「5G」の活用が見込まれている。実際に建機を遠隔操作し工事を行った大林組担当者は、実証実験で感じたことを次のように説明する。

提供:KDDI、NEC、大林組
提供:KDDI、NEC、大林組

大林組 技術本部 技術研究所 上級主席技師 古屋弘さん:

1)建設現場で「5G」が構築されることで、建機を操作する端末や、映像を確認するための機器などを遠隔でいろいろな場所から活用できるようになる。そのためには、多数のセンサーからのデータを送受信できる環境が必要。

「5G」基地局が十分に整備されても、建設業の特殊性から商用サービス区域外で工事もあり、独自の「5G」ネットワーク(「ローカル5G」環境)を構築するケースも想定される。


2)「5G」は、大容量の映像を短時間でダウンロードできることがメリットとなるが、建設現場から多くのデータをサーバーなどに送るアップロード容量も重要となる。サービスがスタートする商用回線で、どれくらいのアップロード容量を利用できるかが重要。

3)移動する建機から遠隔地に「5G」で高精細な映像を送る場面では、基地局と基地局をまたぎデータの送受信を行う運用、つまり「基地局を切り替える運用」が出てくる。今回のような遠隔操作では、リアルタイム映像が途切れると事故などの原因となるため、基地局の切り替え時にも「瞬停(映像の停止またはブラックアウト)」などを発生させないことが重要となる。

提供:KDDI、NEC、大林組
提供:KDDI、NEC、大林組

建機の遠隔操作は、操作が瞬時に届かないと事故などの原因となるが、まだ、タイムラグが発生する可能性が残っているようで、システムやハードウェアの進化が待たれそうだ。


社会インフラへの「5G」実証実験

東芝は、工場やビルなどの、高度な監視やセキュリティが求められる社会インフラへの「5G」適用を想定した実証実験を進める。背景にあるのは、工場や物流における人手不足。人手が足りない状況でも、必要な情報を集め、迅速に判断する必要性が、防災、防犯や公衆衛生の観点からも高まっているためだという。

東芝資料より
東芝資料より

現在はイギリスの研究施設で、「5G」の高速大容量通信や低遅延の特長を生かして、TV会議や監視カメラの映像を伝送し、それをもとにロボットをリアルタイムに制御する実験を行っている。東芝はこれらの2つの通信を、同じ「5G」ネットワーク内で行い、実験ではこれまでに、ロボットの遅延を1秒あたり1ミリに収め、スムーズな動作が実現できているという。

イギリスでの実験成果は、今後日本の施設に適用していく方針だ。具体的には東芝のAI技術に、「5G」を掛け合わせることで、工場や物流の現場からの画像などをリアルタイムに解析し、フィードバックすることを目指す。東芝ではこのほかにも、「5G」の電波が届かない所にも、電波を延長して送り届ける中継技術や、「5G」が普及した際の運用を視野に、電気などのエネルギーを無線で伝送する技術の研究を進める。


自動運転社会へ…「電波暗室」で実証実験

パナソニックでは、自動運転車などに今後急速に「5G」が搭載されることを見越して、車両を丸ごと、全方位で通信性能を測定できる、「電波暗室」を横浜市に作った。

「5G」では、複数のアンテナを使用して大容量通信を行うが、車両に搭載した場合、車体による電波の反射や、電子機器が出す電磁波の影響を受けるなどして、「5G」アンテナなどが性能を十分に発揮できない場合があるという。このため「電波暗室」で、車両を丸ごと使っての通信性能テストを効率よく行うニーズを先取りした。

「電波暗室」 提供:パナソニック
「電波暗室」 提供:パナソニック

「電波暗室」では、車両を乗せたターンテーブルを360度回転させながら、疑似基地局タワーを移動させ、全方位測定を行うことができるという。

パナソニックによると、これまでに行った実験から「5G」アンテナの通信性能データなどが具体的に得られ、アンテナの性能が見える化されたという。このため、アンテナが車体から受ける影響を、定量的に評価できるようになったという。今後、各社が「電波暗室」での実験を通じて、自動運転社会に必要な通信の安定性向上を目指していくことになる。


「ローカル5G」事業に続々参入

「ローカル5G」をめぐる動きも活発だ。富士通は2月18日に「ローカル5G」の無線局予備免許を取得した。「ローカル5G」の電波を発する無線局を、川崎市の事業所に設置し、「ローカル5G」のネットワークシステムの検証を進めている。

「ローカル5Gラボ」 提供:NEC
「ローカル5Gラボ」 提供:NEC

また、NECも「ローカル5G」事業に本格参入することを2019年12月に発表。川崎市の玉川事業場内に「ローカル5Gラボ」を開設した。今後、各企業が自社の機器を持ち込み、5Gネットワークと接続し、「ローカル5G」の通信環境を検証していく。

NECは「ローカル5G」の特長について、「地域や産業の個別ニーズに応じて柔軟に5Gシステムを構築できる」ことや、「通信事業者の5Gが普及していない地域でもいち早くシステムを構築できる」ことなどを挙げている。

「5G社会」の実現に向けた、各社の取り組みからますます目が離せなくなりそうだ。


フジテレビ報道局経済部デスク 西村昌樹

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西村昌樹
西村昌樹

フジテレビ報道局 FNNプロデュース部デスク 元経済部デスク