スーパーモデルのナオミ・キャンベルさんの「新型コロナ対策」が話題を呼んでいる。全身防護服にマスクのいで立ちで空港に現れたのだ。注目したいのは、ピンクの「ビニール手袋」だ。ニューヨーク市内ではさすが防護服を見ることはないが、ナオミさんが着用する「使い捨て手袋」は、かなり普及している。その数、マスクより、多いくらいだ。

ナオミ・キャンベルさんインスタグラムより
ナオミ・キャンベルさんインスタグラムより
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感染者が3000人を超えたアメリカで、ニューヨーク州の感染者は全米で1位の729人(16日現在)。しかも、ニューヨーク州の初感染は3月に入ってからなので、わずか2週間でこの伸びである。

2週間前までは大多数のアメリカ人にとって、どちらかというと「アジアの病気でしょ」という認識だった新型コロナウイルスは、急激に身近な危機になりつつあり、「買いだめ」「物不足」が突如として深刻化した。

通勤の必需品は「マスクより手袋」

日本のように、マスクを「予防」として着用する文化は、欧米では根付いていない。マスクをつけていると、「病気の人」という印象を与えるようだし、実際に取材しても「マスクは予防の役割を果たさない。それより手を洗うことが大事」と答える人がかなり多い。(その割には、店舗でのマスクは売り切れが続いているし、1月にネットで注文したマスクはまだ配達されない)

通勤で地下鉄を利用しているが、マスクをつけている人は、この1週間で増えたとはいえ、1車両に数人程度で少数派。“マスク派”の多くは、筆者を含めたアジア系に多い。

マンハッタン中心部の、複数の地下鉄が乗り入れる駅で、夕方の帰宅ラッシュ時に取材をした。この駅では地下鉄を降りた後、手動でドアをあけなくては駅の外に出ることができない。「押す」のではなく「引く」扉なので、体で押したりすることは不可能で、必ず「手」を使わなくてはいけない。この際、多くの人が着用しているのが冒頭の「使い捨てビニール手袋」だ。医療関係者などが使うような、比較的ピタっとしたものだが、家庭で掃除に使う人も多い。取材を続けていると、着け心地が悪いのか、または携帯電話を手にしているためか、「片手だけ手袋」の人も多かった。

片手だけビニール手袋をしてドアに触る女性
片手だけビニール手袋をしてドアに触る女性
券売機を操作するときも手袋
券売機を操作するときも手袋

ある女性は「妹から送ってきたの。何も触りたくないから着けている。着け心地は少し変な感じがするけど、安心するわ。(筆者:マスクはしないんですか?)マスクは予防に意味があると信じていないわ
日本でも手袋をつけている人は多いと聞くが、ニューヨークのようにマスクを着用せずに手袋だけ、という人はめったにいないのではないだろうか。

使い捨て手袋の売れ行きについて、各チェーンはデータを出していないが、あるドラッグストアにはこんな張り紙があった。「おひとり様4つまで:消毒ジェル、マスク、体温計」そして「手袋」。やはり品薄になっているようだ。

両手手袋の女性は「素手で触りたくない」と話す
両手手袋の女性は「素手で触りたくない」と話す

高度数のウォッカに需要

マスクの予防効果は信じていないが、手の清潔には注意を払うアメリカ人。手袋のほかに品薄なのが手指用の消毒液だ。店で見かけることはなく、インターネット上では小さなボトルで5000円を超えるものも出現した。そのためか、3月第一週から、一部の薬局で消毒液を手作りするための「材料コーナー」を設置する動きも出てきた。消毒用アルコール液に、アロエジェル(日焼けした後の肌に塗るときなどに使用するもの)を一定の割合で混ぜるように、と張り紙にかかれていた。

しかし、この消毒用アルコールですら品薄になってきた。次に人々が向かったのは酒屋だ。中でもアルコール度数が高いウォッカが消毒液の代用品として売れているようだ。テキサス州のメーカー、「Tito’s」は、ツイッターにこう忠告文を出す事態に。
「米疾病対策センター(CDC)は、消毒には少なくともアルコール度数60%が必要としている。うちのウォッカは度数40%なので、基準を満たしていません

このツイートが逆に話題を呼び、人々はアルコール度数を意識するようになった。近所の酒屋は、急遽、高アルコールのウォッカを仕入れ、レジ横に、こんなポップと共に陳列した。「アルコール度数75.5%!抗菌!」

酒屋に売られているウォッカ
酒屋に売られているウォッカ

一方、専門家はこうした自己流の消毒ではなく、きちんとした方法でこまめに手を洗うことが最良のウイルス対策だとして注意を呼びかけている。

国家非常事態にあるアメリカ。トランプ大統領も「落ち着いて」と呼びかけているが、人々の間には急速に不安が広がっている。適切かつ迅速な対策は不可欠だが、パニックが加速しないための官民一体となった対応も必要だ。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川真理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。