「中国は世界の救世主だ」他国への支援を強化し始めた中国

3月12日、上海からイタリアに向け四川省の大学と中国赤十字の専門家チームが出発した。感染の急拡大で医療崩壊も起きているイタリアを支援するためだ。中国メディアは、「物資を運搬した中国の航空会社にも『一帯一路の絆は、さらに強くなった。ありがとう』など中国への感謝の声があふれている!」と伝える。

イタリアはG7で唯一中国の巨大経済圏構想の一帯一路に参加し中国との交流が拡大していて、それが感染拡大の一因ともみられるが、中国政府はマスクなど医療物資の援助も表明している。また中国はイランやイラクにも専門家を送り、日本や韓国にも物資を送っていると強調する。

”一帯一路の仲間を救う”中国の専門家らが感染急拡大のイタリアの支援に(ウェイボより)
”一帯一路の仲間を救う”中国の専門家らが感染急拡大のイタリアの支援に(ウェイボより)
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ネット上には「中国は世界の救世主だ」と自信に満ちた声があがる。
「中国が全力で感染対策している時に他国は批判ばかりしていた。私達は正しいと証明した。彼らは今後、自らの無知の犠牲を払う」
「中国人の99%がしたように何日も外出しなければあなたたちも勝利できる」
「世界は私達から学ぶべき」
などの声もある。

WHO=世界保健機関が「感染の中心はヨーロッパに移った」と表明したこともあり、中国は、“世界を救う中国”のイメージ形成に向けて、支援を拡大していきそうだ。

中国が世界を助ける?(ウェイボより)
中国が世界を助ける?(ウェイボより)

“感染抑えた自信“か 中国が「世界を救う」アピール?

「中国は感染のピークを越えた」
3月12日、中国の衛生当局がそう宣言した。

国内の新規感染者は武漢だけで、14日には人数は4人になった。データの信頼性に疑問はあるが習近平国家主席が10日に武漢を訪問した裏には安全との判断があるはずで、一定程度抑え込んだのは間違いないだろう。事実上、「感染に勝った」という宣言だ。

中国は、国内の感染との戦いに勝利し、国際社会に貢献する大国として振る舞い始めている。中国メディアによると、習氏は国連のグテーレス事務総長と電話会談し「中国は世界各国と経験を共有し、感染国に援助し、国連やWHOの行動を支持する。すでにWHOには2000万ドルの援助を申し出た」と伝えた。グテーレス氏は「国連は、中国の困難の中にある国への援助に感謝し、今後も様々な領域で協力していきたい。中国には今後も世界でリーダーシップを発揮してほしい」と伝えたという。

中国への気遣い?忖度?WHOのテドロス事務局長(左)中国のリーダーシップを賞賛(ウェイボより)
中国への気遣い?忖度?WHOのテドロス事務局長(左)中国のリーダーシップを賞賛(ウェイボより)

一方、中国寄りだとの批判もあるWHO。習氏が武漢を訪問し「感染を抑え込んだ」と宣言した翌日に、テドロス事務局長はパンデミック(世界的大流行)と言えると表明した。偶然なのか、かなり印象的なタイミングで、中国の狙い通りなのでは?とさえ邪推してしまう。

テドロス事務局長はその前日、中国国営のCCTVのインタビューで、中国政府のリーダーシップと国民の協力を称賛。「中国は迅速にウイルスの遺伝子を識別して世界と共有し、他の国々が診断や感染対策の準備が出来た。国際社会は中国が勝ち取った機会を十分利用すべきだ」と評価した。

気づけば、中国は、2つの国際機関との協力姿勢も印象付け、自らの立ち位置を「感染と戦う世界を助けるリーダー」へと変身させている。

「ウイルスはアメリカから来たかも」びっくりツイートに「反撃開始だ!」

中国外務省の趙立堅報道官がツイッターで「アメリカでの感染はいつ発生し、何人が感染したのか。武漢に感染を持ち込んだのはアメリカ軍かもしれない。アメリカは透明性を持ちデータを示して説明を」と投稿した。去年10月に武漢で開かれた世界軍人体育大会に参加したアメリカ軍がウイルスを拡散させた可能性がある、との主張だが、科学的な根拠は何も示していない。

その後の中国外務省の記者会見で、メディアは、これが政府見解かどうかただしたが、外務省は「感染源については国際社会には異なる見方がある。科学の専門的意見を聞くべきだ」と明確な回答を避けた。一方、中国のネット上では、「ついに反撃開始だ!」「アメリカは説明すべき」と応援する声もある。

「感染を武漢に持ち込んだのはアメリカ軍かも」中国外務省報道官が驚きのつぶやき(ツイッター画面)
「感染を武漢に持ち込んだのはアメリカ軍かも」中国外務省報道官が驚きのつぶやき(ツイッター画面)

中国は、去年12月の感染発覚から1月下旬まで情報を隠蔽し各国の対応が遅れたというアメリカからの非難に、強く反発している。何より“武漢ウイルス”と呼ばれることに猛反発し、外務省は「発生源が中国とは限らない」と反論。感染対策の専門家チームのトップも、「必ずしも感染源が中国とは限らない」と指摘している。これまでのところ真偽不明な「ウイルスはよそから来た」とう主張が中国政府高官から飛び出す背景にあるのは、“感染源の国”というイメージを一刻も早く変えたい焦りか、開き直りか・・。

“世界は中国に感謝を” 中国の正当性アピールの狙いは

国営新華社通信は3月初め「正々堂々と言う、世界は中国に感謝すべきだ」とのタイトルの論評記事を掲載。「中国の巨大な犠牲や努力なくして、世界各国は感染と戦う貴重な時間を得ることはできなかった」と強調した。先に感染と戦った中国はその姿を見せ各国が対策を準備する時間を稼いでいた。感染が広がったのは、各国が中国の経験や教訓を重視しなかったからだ、ということになる。ネットには「中国は教科書だ」、「宿題を書き写すように」と自らを手本にすべきだとの声が見られる。宿題を書き写すとは「他人の方法を真似する」という意味で使われる表現で、「他国は中国が成功した感染対策をやるように」という意味だ。

中国共産党の機関誌・人民日報(日本語版)は、“国際社会に感染拡大防止協力を促す習近平国家主席の言葉”との特集を掲載。1月以降に習氏が各国要人との会談などの際に話した「感染情報を速やかに発表し、国際協力を深めなければならない」(1月20日)など多くの言葉を並べ、中国は国際社会に協力を促してきたと強調する。

外出制限中の武漢で食料配給(豚肉)にゴミ収集車が使われ住民激怒(ウェイボより)
外出制限中の武漢で食料配給(豚肉)にゴミ収集車が使われ住民激怒(ウェイボより)

習氏を英雄化し感染源は中国ではないなどとアピールする背景には、国内の不満の高まりを抑える思惑もあるのだろう。中国政府が情報を隠蔽し、警告を鳴らす医師らの声を封じ込め、対策が遅れて感染が拡大したとの不満は国民の間でも強い。多くの人が犠牲になったことを国民は忘れていない。現地の様子を伝えるジャーナリストの声も封じ込める言論の自由の抑圧にも怒りが高まる。封鎖が2ヶ月近く続く武漢など湖北省では住民が怒りの声をあげる例も出てきている。

習氏は武漢訪問の際、「武漢市民は英雄だ」と持ち上げ、「自宅待機が長くなり不満の一つも言いたくなるのは理解できる」と、不自由な生活にストレスを溜める市民に配慮する姿勢さえ見せた。しかし今後、経済的な影響も出てくれば、さらに国民の不満の声に直面することになる。批判をそらすための国内外へのアピールは続くだろう。

「長い自宅待機で不満を言いたくなる気持ちは分かる」武漢市民をいたわる姿勢もみせた習近平氏(ウェイボより)
「長い自宅待機で不満を言いたくなる気持ちは分かる」武漢市民をいたわる姿勢もみせた習近平氏(ウェイボより)

ところで、中国が言うように、日本や世界各国は中国の状況を見ながら“明日は我が身”とどのくらい考えていただろうか。中国の都市封鎖や監視による隔離などを「自分の所ではあり得ない」と考えていなかっただろうか。いまイタリアでは医療崩壊が起き、世界各地で都市機能を停止させる対策が始まっている。結果的に、批判していた中国を参考に対応をしていくことになれば、中国から「宿題は出来ていますか」と皮肉を言われるかもしれない。

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(執筆:FNN上海支局 城戸隆宏)

城戸隆宏
城戸隆宏

FNN上海支局長