その人らしいスタイルで…“オーダーメイド葬”

福岡市南区にあるシンプルなデザインの建物。清潔で落ち着いた雰囲気の部屋。リビングやダイニングもあり、まるで自宅にいるような雰囲気になる。

しかし、ソファー横にあるトウ製のこちらは、“ひつぎ”。

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この場所は、家族葬専用の祭場なのだ。運営する福岡市の葬儀社によると、最近では、ひつぎや祭壇をアレンジするだけでなく、お葬式そのものにこだわる人が増えているという。

家族葬のダビアス福岡市・大森晋さん:
(亡くなった男性が)生前はペンキ屋さんをされていたということで、祭壇の中にペンキを塗るときに使っていた作業着と、読書がお好きだったということで(自宅から)本棚を持ち込んで祭壇に組み込んだ。いわゆる“オーダーメイド葬”

以前、ここで父親・原田一三さん(享年92)の葬儀を挙げた清原さんも式にこだわった1人。
無数のキャンドルの柔らかい光に包まれた空間。亡くなった父親の人柄を表すような温かい雰囲気の式にしたかったと語る。

清原ひとみさん:
孫を見るとニコニコしていた。孫たちにお金を使っても自分には使わない人だった。最期は病院から直接だったんですけど、そんなに苦しみもなかったので。かしこまった悲しみではなく温かくて「じゃあ、いってらっしゃい」というお見送りができたんじゃないかと思う

大手葬儀・葬祭情報サイトの調査によると、葬儀1件あたりの費用は、2013年が約130万円だったのに対し、2017年は約117万円と、13万円減少している。参列者が減り、葬儀のコンパクト化が進んでいることが影響しているとみられる。

種類別で見ると、知人、友人、会社関係者など多くの人が参列する一般葬は、この2年で減少しているのに対し、親しい人のみで行う家族葬は増加していて、その数は実に4割近くに及んでいる。

家族葬のダビアス福岡市・大森晋さん:
身内しか集まらないから「これがしたい」というニーズを言いやすくなった。豪華なお葬式を望まれるよりは“ご自身らしい””亡くなられた方らしい”お葬式を求めるという傾向が最近では強くなっている

旅立ちの衣装に想いを込める“エンディングドレス”

“自分らしく”、“その人らしく”。その想いを旅立ちの衣装に込める人もいる。

福岡・太宰府市に住む坂田香奈恵さんと長女の朗子さん。見せてくれたのは、胸元に美しい桜の刺しゅうが施された“エンディングドレス”。自身が人生の最期に身にまとう“死に装束”だ。

坂田香奈恵さん(64):
私はやっぱり着物が好きなので、すてきな刺しゅうが入ったのがあったので「これだ!」と思った。最期まで“女”だからきれいに

坂田さんがエンディングドレスを用意したのは、命に関わる心臓血管の病“急性大動脈解離”を患ったことがきっかけだった。

坂田香奈恵さん(64):
急に背中が痛くなって救急車で運ばれて、そのまま入院。完治しないので、また解離を起こすとどうなるかわからないので、それで頼んだ

坂田さんのエンディングドレスを手がけたのは、福岡市博多区の服飾メーカー。サロンには、さまざまなデザインの色鮮やかなドレスが並んでいる。

販売開始から14年。“終活”という言葉もすっかり定着し、需要はさらに高まっている。最近では“その人らしい”エンディングドレスにさらにアレンジしてほしいという依頼も増えているという。

さくらさくら・中野雅子代表取締役:
既製品でも“色のバリエーションがほしい”とか、デザインも“シンプルでシャープなものがあったらいい”とか、とにかくいろんな希望がメールなどで寄せられています。それだけみなさんのこだわりが年々強くなってきたと実感がある

母から“エンディングドレス”の存在を知らされた長女の朗子さんは…

長女・朗子さん:
複雑は複雑ですよね。でも本人の意向でこうしてほしいというのがあるのであれば、(遺族が)迷わないように準備してもらうというのは、ありなのかなと思います

坂田香奈恵さん(64):
着物は、娘の入学式や卒業式は、ほとんど着て行っている。私が、着物が好きなのは友達も知っていますので、“私らしいな”と思ってもらえたらいい

元気だったころの姿でお別れを…“エンバーミング”

さらに近年“その人らしさ”を蘇らせ“ある技術”が注目されている。それは、“エンバーミング”。エンバーミングとは、遺体の衛生保全のこと。エンバーマーと呼ばれる有資格者が遺体に殺菌・防腐処置を施し、病気や事故などで変わってしまった部分を修復して生前の姿に近づける。

日本では、1988年に導入され、近年、処置件数が急速に増加。2018年は、年間4万8000件を超えた。

6年前に福岡県内で初めてエンバーミングサービスを導入した湯灌・納棺業のセレモ九州要。葬儀が家族を中心とするものに変わり、“元気だった頃の姿”でゆっくりとお別れをしたいと願う人が増えていると社長の服部さんは語る。

セレモ九州要・服部慎吾代表取締役社長:
最近では“日にちをおいてお別れをしたい”とか、より良いお別れのためにエンバーミングを希望する人が増え始めたので、年々ご利用になる方が増えています

この会社でエンバーマーとして働く久保あかりさん。神奈川県の専門学校で解剖学や病理学、法医学などを学び、厳しい実技試験を経て2011年に資格を取得した。

実際に処置を行っている福岡市内のエンバーミングルーム。まずは遺体の消毒殺菌をし、選定した薬剤を血管に注入して、全身の血液と入れ替える。

エンバーマー・久保あかりさん:
亡くなられてから保湿機能がなくなるので、乾燥していってしまう。水分を入れることによって、ふっくらするというか張りが出てくる

皮膚の表面もきれいになるため、傷などがない場合は、化粧はほとんどいらないという。

エンバーマー・久保あかりさん:
ドライアイスが必要ないので、全身が見られますから、ドレスや好きな洋服なども大丈夫

約3時間の処置を終え、“生前の姿”に戻った遺体を家族の元へ。この仕事のやりがいを感じる瞬間でもある。

エンバーマー・久保あかりさん:
「きれいになったね」とか「眠っているみたいだね」とか「エンバーミングしてよかった」とか言ってくださるのですごくうれしい

福岡市に住む吉良陽子さん。1年半前に同居していた母親・玉記ふさ恵さん(享年83)を亡くし、ファッションデザイナーだった母らしい姿でお別れしたいとエンバーミングを依頼した。

吉良陽子さん:
きれいに普段のまま送りたかった。本当に寝ているみたいでした。膵臓(すいぞう)がんで黄疸(おうだん)が出ていたが、(エンバーミングで)自然な顔色で、親しい人が皆、母に寄り添い、両手を触っていた。何よりでした

多様化する旅立ちのスタイル。あなたはどのように見送り、そして見送られたいですか。

(テレビ西日本)

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