平均4年半を12カ月未満に短縮

大日本住友製薬とイギリスのAIを使った創薬企業エクセンシアは1月30日、AI(人工知能)を活用して作られた新薬の候補について、「フェーズ1の臨床試験」を開始したと発表した。

新薬の候補は「DSP-1181」と呼ばれ、「強迫性障害」の治療薬として開発しているもの。

AIを活用することで、製薬業界の平均で4年半かかるという「探索研究」を12カ月未満で完了したのだという。

「探索研究」とは、候補化合物(=医薬品の原料となりうる化合物)を作るための研究のこと。

「こんな形・成分であれば、よく効いて、安全で、飲みやすい薬になるのではないか」という仮説を立て、化合物のデザインをする。
そして、実際にデザインどおりに化合物を合成し、仮説通りの効き目があるか、安全であるかなどを実験により確かめるのだという。

この「探索研究」にかかっていた4年半が12カ月未満というのは大幅な短縮だが、なぜAIの活用によって、これほどの短縮が実現できたのか?
また、AIの活用は新型コロナウイルスの治療薬の開発にも適用できるものなのか?

大日本住友製薬の担当者に話を聞いた。

過去データなどから“確率の高そうなもの”を予測・提案

――「探索研究」には平均で4年半かかる。これはなぜ?

薬づくりは実際にはトライアンドエラーの連続です。

よく効くかな、と思えるものを作っても、安全性に課題があったり、安全なものを作れたら、体の中に十分入らなかったりというようなことを一つ一つ確かめながら、課題を解決していき、薬を作り上げていきます。

この過程には、熟練した研究者であっても、それなりに時間がかかります。


――AIの活用によって「探索研究」にかかる時間が大幅に短縮。これはなぜ?

AIが膨大な情報や過去のデータを学習し、「よく効いて」「安全で」「その他、薬としての必要十分条件を満たす」確率の高そうなものを予測・提案してくれるからです。

もちろん、AIによる予測だけで、そのまま薬になる化合物ができてくるわけではありませんので、そこから研究者の経験と知恵によって新たな価値を加え、薬として完成度の高いものに仕上げます。

今回リリースしました「DSP-1181」においては、エクセンシア社のAI技術を活用し、探索研究の起点となる化合物のデザインや化合物の優先順位付けを行いました。

AIによってデザインされた化合物から、当社の創薬化学者がさらに構造的に発展させた化合物を、デザイン・合成し「DSP-1181」の創製に至りました。

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臨床試験でもAI活用は始まっている

――今後はどのような試験を経て、新薬として認証される?

「探索研究」の次には、十分に安全性を担保し、さらにはなぜ薬が効くのか、どう効くのかを検討する「前臨床研究段階」があり、そこにも1年半~3年くらいを要します。

「前臨床研究段階」をクリアしたものが「臨床段階」へと進みます。

一般的に、新薬の臨床開発は、少量から少しずつ増量していくステップを踏んで、健康な成人の方における安全性を確認する「フェーズ1試験」から開始するのですが、「DSP-1181」は、現在、この段階です。

「フェーズ1試験」では、薬を1日1回だけ飲んだ場合に安全性が確認されたら、次は1週間連続で飲んでも安全かどうかを確認します。

いずれも、被験者の安全を第一に少量からはじめて、被験者の健康状態を常にモニターしています。

この際に、薬の効果が出そうな量(用量)のヒントになりそうな検査値(バイオマーカー)を得たり、体内における薬の挙動を測定したりして、薬をどれくらいの頻度(1日1回なのか、2回なのかなど)で飲めば良いのかの検討もします。

次に、一般的には「フェーズ2試験」として、少数規模~中規模の患者さんにおける有効性、安全性を確認する探索的臨床試験、「フェーズ3試験」として、中規模~大規模の患者さんにおける有効性、安全性の検証的臨床試験に進みます。

臨床開発は各段階の結果を見ながら、被験者様の安全性を第一に進められるよう計画を立てるため、現段階で承認されるまでのスケジュールは確定しておりません。


――こうした試験を経て、新薬として認証されるまでにはどのぐらいの時間がかかるもの?

ひとつの事例として、医薬産業政策研究所のリサーチペーパーによりますと、「2015年承認品目の臨床開発期間(中央値)」は、全体で41.5 カ月(約3年5カ月)、そのうち新有効成分含有医薬品(NME)では54カ月(約4年半)、NME以外で32.2カ月(約2年8カ月)であったという報告があります。

なお、「DSP-1181」はNMEに該当します。


――臨床試験にAIを活用することはできるもの?

AIを用いて臨床試験を効率化する取り組みは各社で始まっています。

例えば、患者データや臨床試験結果をAIで解析することで、臨床試験参加の候補となる患者さんを抽出したり、有効性の期待できる患者集団を特定できる可能性があります。

また、AIを用いたモバイルアプリで治験薬の服薬をモニタリングし、臨床試験の精度を高めるといった工夫も考えられます。

情報が少ない新型コロナウイルスの新薬開発には向かない

――AIの活用によって、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が数カ月で開発される、ということはあり得る?

AIには得意分野と不得意分野があります。
まだ情報が少ない中で新しい提案をすることは、AIは得意とはいえません。

新型コロナウイルスは全容解明を世界中の科学者が急いでいる段階で、現段階では情報量が多くないため、すぐにAIにより情報分析・提案できる状況にはないと思います。

一方、新型コロナウイルスの遺伝子情報等が明らかになり、既存のウイルスとの類似性があり、かつ、その既存のウイルスに有効なワクチンや治療薬があり、その情報を活用できそうな場合には、もしかすると、思ったより短期間で治療薬のデザインは可能かもしれません。

ただし、このように極端に情報量が少ない場合においては、AIを使うメリットはあまりなく、研究者が通常の方法で研究・開発する方が早い可能性もあります。


――大日本住友製薬はAIを活用して、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発を進めている?

当社は新型コロナウイルスのワクチンや治療薬には取り組んでおりません。


「新型コロナウイルス」の新薬開発については、情報が少ない現時点では不向きだということだが、新薬の開発期間が大幅に短縮されるなどAIが医療の進歩を助けているのは確かだ。今後も、こうした技術をどんどん活用してほしい。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。