4月からの新生活にむけて、まもなく引っ越しシーズンとなるが、新しい入居先を探す場合、家賃や立地もさることながら、部屋の広さも重要な判断基準となってくるだろう。
だが今、驚くほど狭い物件が若年層を中心に人気を集めている。

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こちらの部屋は、不動産会社SPILYTUSが運営する“3畳物件”を集めた「QUQURI(ククリ)」というブランドの物件だ。

室内にトイレ、シャワールーム、キッチンは完備されているものの、主な居住空間となる洋室は約3畳(台所などを除く)。生活に必要な机などを運び込むと、あとは通路を確保するだけで精一杯の状況となる。頭上にある、ベッドルームなどに用いられる約4畳ほどのロフト部分を加えてもたった約7畳で、生活スペースの狭さは写真からでも伝わってくる。

「QUQURI」が用意する“3畳物件”の見取り図
「QUQURI」が用意する“3畳物件”の見取り図

2018年4月にも、“3畳物件”の人気を取り上げたが、それから約2年が経過した今も、「QUQURI」の人気は衰えることがないそうだ。
都心の人気エリアを厳選して恵比寿、中目黒、新宿、渋谷周辺などに点在する約1200部屋は今なお満室が続き、新築物件も毎年竣工していて、物件数も2年前と比べて増えているという。(2020年2月現在)
そして、敷金・礼金・更新料が無料、さらにインターネットも無料というのも人気の理由だそうだ。
(関連記事:“現代”の3畳一間が今人気のワケ。都心で始まる新しい一人暮らしの形

“3畳物件”にはどんなタイプの人が入居しているのだろうか? また入居希望者が一番重視している条件は何なのだろうか?
SPILYTUSの担当者に話を聞いてみた。

物件の利用者は20~30代がほとんど

ーー「QUQURI」を開始したきっかけを教えて?

きっかけは、弊社代表の経験にございます。
会社設立当初、代表は終電まで働いて始発で会社に行く、忙しい日々を過ごしており、「もっと会社の近くに住みたい」と考えて、当時オフィスのあった新宿周辺で部屋を探しました。

しかし、家賃が10万円を超えてしまったり、一方で安い部屋については、築30年以上の畳、風呂とトイレが一緒だったりと、希望の物件が見つかりませんでした。

「狭くてもいいから、会社から近くて安くて綺麗な物件に住みたい!」という思いから「QUQURI」誕生につながった次第です。

ーー入居者の傾向は?

男女比はおよそ6:4で男性が少し多めです。職業は社会人が約6割、学生が約3割であり、年齢は20~30代のお客様がほとんどです。


ーー「QUQURI」には、若者だけでなく、中高年や高齢者も多い?

40代以上の入居者さまはおよそ1割。セカンドハウスとしてご利用いただくケースもございます。

ーー家賃はおおよそいくら?

エリアによって金額は異なりますが、おおよそ5万円から8万円です。恵比寿の物件などが割高となっております。

条件は「アクセスの良さと家賃」

ーー入居希望者が一番重視する条件は何?

皆さまが口を揃えておっしゃる条件は、「アクセスの良さと家賃」です。

スマホ1台でテレビや読書、ニュースや映画などを楽しめる便利な今だからこそ、広さよりも便利さを選ぶ方が増えてきている傾向があります。

ーー何年もずっと住み続けている、という人も結構いたりする?

はい。4年間住んでくださっている方は、「もともと持ち物も多くなく、広さにこだわりがなかったので、大丈夫だろうとここに決めました」「他の住人さんの音が気になる時や、ベランダがあったらいいなと思うことがありますが、この物件は5点満点で4.5点です」と、

3年間住んでくださっている方は、「最初部屋に入ったとき、狭いとは思っていたのですが、やはりびっくりしました。ただ、忙しくて寝に帰るだけなので、割り切ったら問題ありません」と、それぞれコメントしてくださいました。

ーーでは、防音対策などはどう?

グラスウールの吸音材や断熱材、ボード2重貼りなどを行なっております。また、木造だけでなく、コンクリート造りの「QUQURI」も建築中です。

居住者「近くのコンビニが冷蔵庫です」

ーー“3畳物件”は不動産会社側のメリットも正直ある?

広い面積だとお部屋やキッチン、お風呂、収納など、設計プランを自由に考えることができますが、「QUQURI」でいうと部屋の広さも間取りも決まっているため、設計プランなど早く決められるというメリットがございます。


ーー「断捨離」や「ミニマリスト」の認知が、“3畳物件”の人気につながっている部分はある?

「断捨離をしたい」「ミニマリストになりたい」という理由
で、「QUQURI」を選んでくださった入居者さまもいらっしゃいます。

ーー「テレビを家に置かない」という入居者の話をよく聞いたりする?

テレビを置いてない方は多いと感じます。スマホのアプリでテレビを見ている方、テレビはほとんど見ない方など、いろんな方がいらっしゃいます。

ーー今住んでいる人の声で代表的なものを教えて。

ミニマリストで部屋に冷蔵庫も置いていない入居者さまが、「近くのコンビニが冷蔵庫です」とおっしゃっていたことが印象に残っています。

また、「QUQURI」に住んで通勤時間が短縮し、朝ジョギングをするようになった方が、「ここに住んで15kgやせました」とおっしゃっていたことにも驚きました。

ーー“3畳物件”の人気は今後も続きそう?

おかげさまで、毎日入居希望のお問い合わせをいただきますが、満室でご案内できていない状況です。キャンセル待ちなどもございますので、人気は続いていくと思います。

“3畳物件”歴2年の入居者にも話を聞いてみた

編集部は今回、「QUQURI」の担当者だけではなく、その入居者のひとりにも話を聞くことができた。

この入居者は関西出身、転職後に上京し、現在は訪日旅行客の誘致活動を行う組織で勤務しているという。自身も旅行好きで、これまで35カ国を訪れたそう。「QUQURI」に住んで2年になるとのことだ。

ーー入居の大きな決め手は何?

物件の条件は「浴槽はなくてもいい、シャワーとトイレはセパレート、お部屋は狭くてもいい、ロフトあり」でした。キッチンと寝室は分けたかったので、ロフトも条件に入れていました。私の条件は見事に「QUQURI」と全てマッチし、さらに新築だったので即決でした。

ーー現在の物件に初めて足を踏み入れたときの印象を教えて。

「本当に狭い!」と思いました。

ーー現在の物件に住んでみて感じる長所と短所は?

長所
:お部屋が狭いこともあり、「物が増えない」だけでなく、工夫次第で「落ち着ける空間」を創り出せることです。

短所:ナイキのスニーカーが大好きなので、靴箱がもう少し大きかったら嬉しいです。

ーー料理や洗濯、掃除はどうしている?

キッチンスペースは非常に狭いですが、お部屋にダイニングテーブルがあるのでそれを有効活用しています。また、A4ファイルケースを活用してハンディークリーナーなどの掃除グッズを収納しています。

取材に答えてくれた入居者の実際の部屋
取材に答えてくれた入居者の実際の部屋

正直、もう少し広い物件に住みたい?

ーー部屋の中では普段どうやって過ごしている?

ダイニングテーブルで勉強、読書、食事をしています。ロフトは寝るときだけ使用します。

ーーテレビは部屋にある?

テレビはありません。空間や自分の時間を大切にしたいので、新しく購入する予定もないです。

ーー正直、もう少し広い物件に住みたいと思ったことはあった?

以前、1DKの物件に住んでいたことがあるのですが、「物が増えてしまうこと」「デッドスペースができてしまうこと」「冬の季節は部屋がなかなか暖かくならないこと」など不便に感じていたことがありました。「QUQURI」のお部屋に住んでから広い物件に住みたいと思ったことは今のところないですね。

ーー特に何もなければ、このまま今後もずっと住み続けたいと思っている?

もちろん! 物件条件が全てマッチしているだけでなく、お部屋の壁や床は白で統一されていて、どの色の家具を組み合わせても馴染むなど、そんなデザイン性がある物件に住めるのは嬉しいですね。

ーー最後に、“3畳物件”に関心がある人へ一言。

狭いお部屋でも工夫を凝らせばきっと自分らしい空間になると思います。必要最小限の持ち物で、丁寧な暮らしを実現したい人にはおすすめです!

取材に答えてくれた入居者の実際の部屋
取材に答えてくれた入居者の実際の部屋

取材に答えてくれた方の部屋は確かにモノが少なくとてもスッキリしていた。
「ミニマリスト」からもうかがえる、モノにそれほど執着しないという価値観が受け入れられてきたことが、“3畳物件”の人気を後押ししているようだ。
こうした物件の選び方は若者を中心にまだまだ続くのかもしれない。

画像提供:SPYLITUS

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。