高級ふぐ店で行われた「安倍・青木・森」会談
東京・築地にあるふぐ料理店「つきじやまもと」は、店を開けるのは半年だけ。ふぐを美味しく食べられる冬の時期にしか営業しない高級割烹だ。3日夜、この店に、政界の「一強」の張本人と政局の裏のキーマン2人が集った。安倍首相、森喜朗元首相、青木幹雄元自民党参院会長の3人だ。
「やまもと」は青木氏が折りに触れて使う「馴染み」の店であり、青木氏が会合場所としてセットした。自らの腹心で去年亡くなった吉田博美元自民党参院幹事長の「自民党葬」を営み、厚く弔った安倍首相への御礼の意味合いだ。
亡くなった吉田氏は青木氏の側近であるだけでなく、安保関連法をはじめ、安倍政権肝いりの重要法案の成立に力を発揮し、安倍首相とも懇意な間柄だった。そして会合を取り持った森氏は安倍首相の後見人で、早稲田大学雄弁会では青木氏の後輩にあたる。
それぞれが特別な関係を持つ中で開かれた会合は「仲良く飲んだだけ」(関係者)で、政局に関する具体的な話は今のところ伝わってこない。
しかし、ポスト安倍に向けた動きが徐々に本格化する中、こうした会合の開催自体が大きな意味を持つことも少なくない。安倍首相、青木氏の今後の政局をにらんだ思惑を探る。
青木氏の狙い…距離を置く安倍首相との会談で存在感アピールか
時は一昨年の自民党総裁選挙に遡る。安倍一強が確立された中、対抗する形で出馬した石破元幹事長を推し、安倍首相の無風での三選に待ったをかけたのが青木氏だった。“参院のドン”として君臨し議員引退後も影響力を持つ青木氏は、本心は安倍支持の吉田氏に号令をかけ、参議院竹下派と一部の衆院議員をまとめて石破支持に回らせた。安倍・石破一騎打ちの構図を作り、総裁選を盛り上げた立役者と言ってもいいだろう。
さらに、かつて安倍首相が、自身に批判的だった溝手顕正氏の参院会長就任を阻止しようとした際、頑として受け付けなかったのも青木氏である。つまり、安倍首相と青木氏の関係は良好というわけではない。
では青木氏が安倍首相と会った狙いは何か。3日の会合について青木氏の周辺は「青木氏の存在感を示す、いい機会になった」と語っている。ポスト安倍が取りざたされる中、首相と一定の距離を置く青木氏としては、安倍首相と会うこと自体が永田町全体への存在感のアピールであり、安倍首相に対する一種の“けん制”にもなったのではないか。
青木氏の事務所には、森元首相をはじめ二階幹事長、岸田政調会長、加藤厚労相、古賀元幹事長といった面々が定期的に訪れている。来るべき政局に向けて幅広く関係を構築する青木氏が「やまもと」で放った言葉は、安倍首相にどのように響いたのだろうか。
安倍首相の狙い…前回総裁選で対決した石破氏へのけん制に
では安倍首相にとってはどうか。実は青木氏は前回の総裁選での行動について「石破を支持したわけではない。安倍首相に誰もものを言わないのは良くないと思っただけだ」と周辺に語っている。必ずしも「親石破」ではないというわけだ。
前述の通り、青木氏は政界のキーマンと頻繁に接触しているが、石破氏とは一度も会っていないという。また、青木氏は「現状は全て白紙」とも語っていて、今後誰を支持するかは一切明らかにしていない。
安倍首相にとって青木氏と会っておくことは、前回の総裁選で青木氏の支援を拠り所のひとつにした石破氏への強烈なけん制でもあり、青木氏への配慮を示す絶好の機会にもなったのである。確かに安倍首相は、国会や新型肺炎の対応で多忙な中、この会合には時間通りに来て、途中退席することなく最後まで青木氏と食事を共にした。
85歳でなお元気みなぎる青木氏はポスト安倍でどう動くか
はからずも安倍、青木両氏の思惑を汲む形になった吉田氏は生前、政局の対応をめぐり、青木氏と怒鳴りあいの喧嘩を何度もしていたという。それでも互いの信頼と助け合う必要からか、その後どちらともなく歩み寄り、近しい関係を継続していたそうだ。
その吉田氏が現職を退いたことで青木氏は一時、国会近くの事務所の閉鎖や「永田町からの引退」もほのめかしていた。ところが吉田氏の死去に加え、派閥会長の竹下亘氏や関口参院会長がそろって体調を崩したこともあり、最近はむしろ「元気がみなぎっている」(周辺)という。
議員バッジをはずした85歳の青木氏がポスト安倍に向けた政局でどの程度影響力を発揮し、またどのように動くのか。水面下の神経戦は激しさを増しそうだ。