キッシンジャー元国務長官が評価した中東和平案

「これは、世界で最も手に負えない地政学上の問題に対して示された責任ある対応の第一歩であり、幅広い取り組みだ」
28日トランプ米大統領が発表した新中東和平案について、ヘンリー・キッシンジャー 元国務長官はこう評価したと同日付けのTIME誌電子版の記事が伝えた。

「トランプ政権のイスラエルーパレスチナ和平案はどう中東を変えるか」と題したその記事は、同誌の外交問題のコラムニストのイアン・ブレマー氏によるもので、同氏は米国の絶対的な影響力をテコにこの和平案を押し進めれば地域の緊張を緩和する道を開くことになるかもしれないと分析し、元長官の意見を求めたところこう評価したという。

イスラエルのネタニアフ首相と中東和平案を発表するトランプ大統領(1月28日ワシントン)
イスラエルのネタニアフ首相と中東和平案を発表するトランプ大統領(1月28日ワシントン)
この記事の画像(5枚)

「世紀のディール(取引)」とトランプ大統領が自賛する新和平案は、エルサレムや西岸地区の入植地をイスラエルが併合することを容認する代わりに、パレスチナ人には非武装を条件に新国家建設を認めている。「中東通」とされる専門家の間ではイスラエルの実効支配を正当化するものと批判されているが、現実主義者で誰よりも中東問題に通じているキッシンジャー元国務長官は中東の緊張打開の可能性のある提案と注目したようだ。

エルサレム
エルサレム

「名を捨てて実を取る」実質的な対応

「トランプの和平案は、パレスチナ問題を前進させる(野球の)スクイズのような作戦で、うまくゆくかもしれない」
これは、ワシントン・ポスト紙電子版に29日掲載された外交問題のコラムニストのデビッド・イグナシス氏の評論だ。パレスチナは今回の和平案は到底受け入れられないものだが「拒絶して何を代わりに得られるのか?」と記事は問う。その上で、和平案には経済支援などパレスチナ側を利する事案もあるので、打者を犠牲にして走者を生還させる野球のスクイズのように「名を捨てて実を取る」実質的な対応が功を奏するかもしれないという分析だ。

「トランプの中東和平案は、パレスチナ側に選択の余地を与えなかった」
ニューヨーク・タイムズ紙電子版の29日の記事も、イグナシス氏のコラム同様の見方をしている。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は「1000回でもNOと言う」と和平案を拒否し反対行動を呼びかけたがデモは小規模だと伝えられる。さらに、これまではパレスチナを支援してきたエジプトやサウジアラビアなども今回は早々とトランプ案に賛意を表明してしまった。

パレスチナ自治政府のアッバス議長
パレスチナ自治政府のアッバス議長

中東の緊張関係が「アラブ対イスラエル」から「イスラム教シーア派対スンニ派」という構図になり、サウジアラビアなどスンニ派の国々はシーア派の総本山イランに対抗するために「敵の敵は味方」という力学がはたらいてイスラエルや米国支持に回っている。

「孤立無援」のパレスチナは、85歳のアッバス議長に代わって現実的な考えの新指導者で事態を打開する道を模索するだろうとこの記事は予測する。

パレスチナに与えられた“4年の猶予”の意味

日頃トランプ大統領にはことごとく反対するTIME誌やワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙に、今回の和平案を前向きにとらえる論調が見られるのは異例だが、やはりキッシンジャー 元長官の言うように現実的な解決策だからだろう。

和平案はパレスチナが最終的に態度を決するまでに4年の猶予を与えているが、それはトランプ大統領が再選されて残る任期に他ならない。

トランプ大統領が、中東和平達成を第二期で最優先の外交課題とする覚悟の表明なのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

「木村太郎のNonFakeNews」すべての記事を読む
「木村太郎のNonFakeNews」すべての記事を読む
木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。