世界中誰も真似のできない技術「バーレイ」

ロンドンから北に車で3時間、イングランド中部の美しい街、ストーク・オン・トレント。日本でも人気の「ウェッジウッド」など伝統的な英国の窯元が集まる「陶器の街」だ。

その一つ、「バーレイ」の工場兼ショップに取材に向かった。

色鮮やかな花柄模様の食器が所せましと並ぶ。お膝元での販売のため、割引で手ごろな価格で購入できる。そのため日本からも大勢のファンが訪れる。

工場併設のお店では割引き価格で購入可 平日にも関わらず多くの観光客が
工場併設のお店では割引き価格で購入可 平日にも関わらず多くの観光客が
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この日も日本人女性の姿が。店内に「かわいい!」の声が響く。聞くと「一回はどうしても来たかった。セールもやっているので沢山購入すると思う」と楽しそうだ。

工房を覗いてみる。職人たちが生き生きとした表情で仕事をしていた。1851年創業当時の製法を今も守っており、職人たちは「この仕事が本当に好き。バーレイの技術は世界中で誰もマネできない」と胸を張る。その伝統に誇りを持っていることを肌で感じた。

職人歴40年 笑顔で仕事をするクリスティーナさん
職人歴40年 笑顔で仕事をするクリスティーナさん

「EU離脱派」が7割近く

しかし、一見華やかに見える「陶器の街」には、もう一つの側面がある。EU=ヨーロッパ連合からの離脱をめぐる2016年の国民投票で、ストーク・オン・トレントの7割近くの住民が「離脱」に投票した。ここはイギリスで最もEU離脱を支持した地域なのだ。

その背景には長く続く不景気がある。ストーク・オン・トレントの陶器産業は1930年代に最盛期を迎え、およそ300の工場が街に並んでいた。

1930年代 陶器産業が最も栄えた時代 バーレイの従業員も200人以上いたが今は70人
1930年代 陶器産業が最も栄えた時代 バーレイの従業員も200人以上いたが今は70人

しかし、国際化の波におされ、現在は15の工場が稼働するのみだ。

廃炉になった陶器工場
廃炉になった陶器工場

陶器工場を一歩離れ、街中を歩くとシャッターの降りた店が目立つ。歩いている人の数も少ない。

ストークオントレントの中心街 シャッターの降りた店舗が目立つ
ストークオントレントの中心街 シャッターの降りた店舗が目立つ

次々と職が失われていく中、「EUを離脱すれば街が変わる」という空気が支配的になっていった。

40年以上この街でイタリアレストランを経営するオーナーは
「ここ最近特に景気が悪くなったと感じる。移民政策に予算が費やされたからだ。EU離脱の日を前にワクワクしている。これでイギリスが自由に予算もルールも決められる。時間がかかるかもしれないが景気は回復すると思う」と全面的に離脱を支持する姿勢を見せた。

また別の住民も「長かった、やっと離脱を迎えられる。当日はパブで祝杯をあげる」と喜びをあらわにする。

離脱を心待ちにしていた市民
離脱を心待ちにしていた市民

「EU離脱で日本とビジネス拡大」英国老舗の戦略

「バーレイ」の販売責任者、ジム・ノーマン氏も「EU離脱によりビジネスチャンスは拡大する」という。
「EU離脱は英国ブランドの価値をあげてくれるだろう。世界のマーケットも『英国のバーレイ』とはっきりと認識してくれる」と期待する

そのうえで、EU離脱後は日本とのビジネスが拡大、今年だけでも6~7%近く取引が増えると予想する。

「今も日本は世界で2番目に大きい市場だが、離脱後、新たに貿易協定が結ばれれば日本マーケットはさらに魅力的になるだろう。日本人は本当に価値のある英国ブランドに対して強い関心がある。具体的な取り組みとしては、日本市場に適した商品開発していく。そして英国フェアも日本で開催する予定になっている」

「バーレイ」販売責任者 ジム・ノーマンさん
「バーレイ」販売責任者 ジム・ノーマンさん

果たしてEU離脱でイギリスの産業は成長するのか。

ジョンソン首相らEU離脱派は、イギリスがEUの制限を離れ、日本やアメリカ、中国など世界各国と自由貿易協定を結ぶことでイギリス経済はさらに成長すると主張してきた。しかし、その前提としてEUをはじめとして各国と自由貿易協定が結ばれなければならない。

離脱の瞬間、イギリス議会前には多くの人が集まっていた
離脱の瞬間、イギリス議会前には多くの人が集まっていた

イギリスはついにEUから離脱したが、実は2020年末までは急激な変化をさけるための「移行期間」であり、EUとの関係に大きな変化はない。しかし、この1年未満の「移行期間」の間に各国と複雑な協定を結ばなければ、貿易などで混乱が生じることになる。

通商交渉は双方の利害を一致させ、妥協点をさぐるために長い年月が必要だ。EUとしては、1年は短すぎるとして「移行期間」の延長も可能としたい考えだが、ジョンソン首相は「絶対に延長はしない」と主張する。

「陶器の街」がかつての繁栄を取り戻すことができるかは、まだ不透明だ。

【執筆:FNNロンドン支局 小堀孝政】

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小堀 孝政
小堀 孝政

取材&中継の報道カメラマン。
元ロンドン支局特派員 ヨーロッパ、アフリカ各国の取材を経験