史上初 全米最大の中絶反対集会に大統領が出席

アメリカのトランプ大統領は1月24日、首都ワシントンで開かれた全米最大の中絶反対を訴える集会「マーチ・フォー・ライフ」に出席した。数万人の聴衆を前に「この集会に大統領として初めて参加した。神に与えられたすべての子どもの権利を守るためだ」と訴えた。

大統領がこの集会に出席したのは、47年の歴史の中で初めてとなる。この集会への出席は、中道派の離反を招く恐れがあることから、歴代大統領が「行き過ぎ」とみなし見送ってきた経緯がある。実際、去年出席したのもトランプ大統領ではなく、キリスト教保守派のペンス副大統領だった。それでもトランプ大統領が今回、出席に踏み切った背景にあるのは、今年11月に控える大統領選への危機感だ。

集まった人々の前で演説するトランプ大統領
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弾劾裁判で「岩盤支持層」に離反の動き

全米各地から集結した参加者は「make babies great again(赤ちゃんを再び偉大に)」「pro-life(中絶反対)」「命を大切に」などと書かれたプラカートを掲げる。会場には、様々な祭服に身を包んだ神父や牧師、神学校の学生、十字架を手に持つ若者やキリスト教系の高校に通う生徒が溢れ返っていた。アメリカでいかに中絶とキリスト教信仰が結びついているかがわかる。保守的な政策を支持する彼らは、主に聖書の記述を忠実に信じる熱心なプロテスタント「福音派」やカトリック教会の信者で、トランプ大統領の「岩盤支持層」とされている。
 

集会には様々な教会の聖職者が集結
集会には様々な教会の聖職者が集結
 
 
 
 

ところが、大統領選を前にこの岩盤支持層の亀裂が話題となっている。トランプ大統領を強力に支持してきた福音派の有力紙「クリスチャニティ・トゥディ」は2019年12月、ウクライナ疑惑で弾劾訴追されたトランプ大統領の罷免を主張する社説を掲載した。弾劾をきっかけに、トランプ大統領の言動を不道徳だとみなし、離反する動きが顕在化したものだ。

これに危機感を感じたトランプ大統領は、年明け早々に福音派を集めた集会を開き、選挙への協力を訴えた。今回「マーチ・フォー・ライフ」に出席したのも、現在、上院で進行中の弾劾裁判を牽制し、支持のつなぎ止めを図る狙いとみられる。

手作りのプラカードを掲げ「中絶反対」を訴える学生
手作りのプラカードを掲げ「中絶反対」を訴える学生
十字架をもつ若者の姿も
十字架をもつ若者の姿も

いよいよ予備選挙へ 保守派の本音は…

では、トランプ大統領に対する集会参加者の「今の本音」はどうか。
ジョージア州出身ケイレブ・ビラーズさんは、トランプ大統領の初参加を評価し、弾劾裁判の影響は少ないと断言する。

ケイレブ・ビラーズさん:
「我々は中絶反対を示すため、ここに集まった。特に選挙の年に、そのような考えを持つ人々がこれだけたくさんいることを示すのは重要だ。トランプ大統領の初出席は、とても素晴らしいことだと思う。トランプ大統領が自身の価値観をきちんと示した形だ。とても喜んでいる人も多い」

「弾劾裁判は時間の無駄だ。民主党は過去3年間、弾劾だけを追い求め、他に何もしなかった。私は心配していない。トランプ支持者をあおり、戦わせようとしているだけだ」
 

「トランプ支持」を明言するケイレブさん
「トランプ支持」を明言するケイレブさん

一方、オハイオ州の神学校に通うケビン・トレイナーさんは、弾劾裁判が終わるまでは支持できるかわからない、と展開を冷静に見極める考えだ。

ケビン・トレイナーさん:
「私たちは中絶に反対だ。受胎から自然死に至るまで、すべての段階で命を守るよう伝えるためにここにいる。トランプ大統領の出席は、最高レベルでこれが支持されていることを他の政治家に示す上でよいことだ」

「弾劾裁判がどのような結果になるのか見てみたい。裁判の結果が出るまでは、支持できるか言えない。中絶反対に関しては、トランプ大統領を支持する。しかし、女性をどのように守るか等、中絶以外の分野ではトランプ大統領の意見には反対だ」

教師や他の学生らとともに集会に参加したケビンさん(左)
教師や他の学生らとともに集会に参加したケビンさん(左)

2月には、いよいよ予備選挙が始まり、各候補者らが本格的な大統領選の口火を切る。選挙対策でトランプ大統領がさらに極端な政策をアピールする可能性もある中、今後の展開に注目だ。

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【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】

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瀬島 隆太郎
瀬島 隆太郎

フジテレビ報道局政治部 元FNNワシントン支局