小泉進次郎環境相の「育休宣言」を受けて、注目が集まっている“男性の育児休業”
女性の活躍促進に向け、男性の育児参加が求められる中、実際に育休を取得した場合、父親は何をしたらいいのだろうか。

育休取得男性“3人に1人は家事育児時間が2時間以下”

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ママ向けQ&Aアプリ「ママリ」を提供しているコネヒト株式会社の調査によると、「育休を取得した男性のおよそ3人に1人が、1日あたりの家事育児時間が2時間以下」という実態が明らかになった。
(調査対象:アプリユーザーで子どもが1人以上いるママのうち夫が育休を取得した508名 期間:2019年10月15日~2019年10月23日にインターネット調査)

男性が育休をとっても、その期間に家事育児にあてる時間は多くないという実態があるとすると、それではあまり意味がない。
この状況について、ママリ編集長の湯浅大資さんは、「男性の育休義務化が推進されている中、育休の質の議論が後手に回っている。その結果、質の低い育休『とるだけ育休』が発生していると思われます。休みを取るだけの育休のままでは、いくら義務化されても母親たちの負担は増えるだけです」と指摘する。湯浅さんに詳しく話を聞いた。

育休ケースごとで父親がするべきことは違う

ーーもし男性が育休を取ったら、具体的に何をしたらいい?

わたしたちが「育休の過ごし方7つの法則」と呼んでいる、育休取得前、取得中に夫婦間で話し合うと育休の満足度が上がるトピックがあります。
この法則は、「量的に担当する」「必要なスキルを習得する」「精神的に支える」「主体的な姿勢で取り組む」「休息をとらせる」「十分な期間取得する」「家族との時間を楽しむ」の7つで、満足度の高い育休活用のカギとなります。
その前提のもと、想定されるケースごとの特徴をお話させていただきます。

第1子の場合

「初めての育児」ということで、夫婦で一緒に家事育児をゼロから勉強していかないといけない大変さがあります。
身体的負担だけでなく精神的に不安定になるケースが多いため、精神的な支えが必要でしょう。
また初体験だと、何に対しても妥協できないことが多い傾向があります。
妥協しないほどがんばっている妻は、同じことを夫にも求めるため、夫が家事・育児に主体的に取り組む姿が大切です。

第2子以降の場合

経験値があるため、家事育児タスクはある程度理解できていると思われますが、2人(またはそれ以上)を同時に見ないといけない大変さがあります。
タスク量が明確に増えるため、育休の取得期間が重要になってきます。
上の子の赤ちゃん返りなど、第1子の時には経験しなかった負担もプラスされるため、妻が1人になれる休息時間を作ってあげることが大事ですね。

妻と一緒に育休を取る場合

今回の調査では、この夫婦同時育休と見受けられるケースが大勢でした。
夫が家事・育児タスクを担うことが大事で、精神的に支えることにもつながります。
主体的な姿勢で取り組むと、夫が育休を取得したことが妻の負担にならないと思われます。

妻と別々に育休を取る場合

分担ではなく、夫が1人で行う必要があるため、事前のスキル習得が必須となります。
妻にとっては、育児だけでなく復職も精神的な負担になるので、お互いが精神的な支えになることが重要。
また週末などに、意識的に家族との時間を楽しむ時間を作るのもオススメですね。


ーー今後、どういった男性育休取得が進むことを望まれますか?

男性育休が、妻の負担低減、夫自身へのポジティブな影響、夫婦の関係性の質の良化につながるという“男性育休の意義”が浸透し、それぞれの夫婦が自分たちなりの活用方法について話し合うことができれば、『とるだけ育休』ではない『満足度の高い育休』になると思っています。
そしてそれは、家族にとって幸せなことだと思います。


対象の男性社員全員が育休を取得した会社

制度スタート1年で、対象者全員が育休を取得した、子育て世代にとって夢のような会社がある。
住宅メーカー大手の積水ハウスだ。
同社の「イクメン休業」は、3歳未満の子どもを持つすべての男性社員を対象にした育休制度で、2020年1月時点、385人の社員が1カ月以上の育休を取得した。
仕組みはとてもシンプルで、最初の1カ月は有給とし、また業務との調整を図りやすいよう最大4分割での取得も可能としている。

積水ハウス執行役員ダイバーシティ推進部長の伊藤みどりさんは「制度の導入により、育児休業を取得した男性社員からは、取得前と後で大きく意識が変わった、取得してよかったという声が多く寄せられています。
家族、上司や同僚とじっくり話し合うことで、育児休業の意義や価値についてあらためて意識し、有意義に制度を活用してもらうことができたのではないでしょうか」とコメントした。

同社では有意義な育休を実現するため、男性社員が育児休業を取得する際、育児休業について考えるためのツールとして活用している「家族ミーティングシート」というものがある。

この「家族ミーティングシート」について担当者は、「男性育休は単にお休みではなく、育児・家事を担ってもらいたいという思いから、夫婦で話し合い、育児計画を立てるためのサポートツールとして、社内で議論し作成しました。社員たちから『役立った』という声が多かったため、広く一般の方にも使ってもらえるよう公開しました」と話す。

実際に、第2子出産のタイミングで1カ月の育休を取得した、積水ハウス社員のAさん(31)は、「妻が里帰り出産をするため、プレ幼稚園に通っていた長男をフォローしました。長男と鉄道博物館や牧場に行ったり、妻と産まれたばかりの娘の顔を見に帰ったり、食事を作るのも好きでしたし、息子と2人での生活を存分に楽しみました。
育休を取得したことで男同士の絆が強まり、心身ともにリフレッシュできたと感じています」と話した。


「育児を行うことに男女は関係ない」

そして、男性は育休取得もそうだが、妻の精神的ケアにも注意が必要だ。
聖路加国際大学准教授の五十嵐ゆかりさんは、「産後の女性は、体調の変化のほかに、精神的にも不安定になりやすいため、パートナーのサポートが重要」と指摘する。五十嵐さんに詳しく話を聞いた。

ーー産後、女性の体と心はどう変化する?

産後の女性の体は、会陰の縫合部痛、乳房の痛み、お産のときに体に力が入ることで起こる筋肉痛などの痛みのほかに、尿漏れ、痔、脱毛など、パートナーにも言いにくい不快症状も出現します。
また、授乳などによる慢性的な睡眠不足もあり、疲労が蓄積していきます。

産後は産褥期(さんじょくき)と言われ、通常6~8週間のことを指します。
これは、分娩が終了して、妊娠・分娩にともなう母体の生理的変化が非妊時の状態に回復するまでの期間をいいます。
しかし、この時期が過ぎれば、心身ともに体調が回復するということではありません。
個人差がありますし、心身の変化は継続しています。

ーー心身の変化はいつごろまで続く?

女性は、産後に生理的にも精神的にも不安定になりやすい時期です。
疲労などのほかに、ホルモンがダイナミックに変化するので、気持ちが落ち込みやすい傾向にもあります。

2014年の妊産婦、およそ1,400名を対象にした妊産婦のメンタルヘルスの厚生労働省研究班の調査では、EPDS(エジンバラ産後うつ病自己評価票:9点以上が産後うつの可能性が高い)における初産婦の陽性者は、妊娠中9.6%、出産直後17.0%、産後2週め25%、産後1カ月17.6%、産後2カ月10%、産後3カ月6.1%で、出産直後~1カ月まで陽性者が多くなっています。


ーー男性の育休は女性を回復させるためにも重要?

近年、女性が出産する年齢は上昇しておりますが、産後の女性はどの年代であっても体力的にも精神的にも、周囲のサポートが必要な状況にあります。

ぜひ男性に育休を取得していただきたいと思います。
女性のサポートも必要ですが、育児を行うことに男女は関係ないはずです。
男性が育休を取ることが特別なことではなく、当然のこととして認識される社会になればと思います。


厚労省によると、2018年度の育児休業取得者の割合は女性82.2%、男性6.16%と、男女の差は依然として縮まっていない現状。
日本が「女性の活躍推進」や「出生率の引き上げ」を目指すのなら、男女問わず育休取得が当たり前になる世の中を目指すべきだろう。

また、子どもの成長はとても早い。
親子が手をつないで歩く期間は、その後の人生に比べるとあっという間なのかもしれない。
仕事も大切だが、仕事ばかりで、子どもとの貴重な時間を失ってしまっては、それこそ“人生の機会損失”なのではないだろうか。

(執筆:清水智佳子)

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プライムオンライン編集部
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