居酒屋店員の“気遣い”にネットで感動広がる

ある聴覚障害者の女性が、東京・池袋の居酒屋で受けたという“気遣い”が今、Twitter上で称賛されている。



「電話リレーサービスで店の予約をした際に『全員耳が聞こえない』とお伝えしたからか、呼ぶ時に振る旗まで作ってくれたらしい…」

「声で呼べないから店員さんが気付いてくれるまで待つしかないことが多かったけどこの旗があると助かるー! この気づきはありがたい」


こうしたコメントともに、 ねこ(耳をお空に置いてきた)(@catfoodmami)さんが投稿したのは、小さな旗と1枚の説明書きを写した画像。

店側からの説明書きには、「注文の際、テーブルにある用紙に希望のメニューと注文数を書いて下さい」「スタッフを呼ぶ際、テーブルにある旗を振って下さい」などと記載されており、ねこさんたちが気持ちよく店を利用できるよう、店員による細やかな配慮がされていた。

このツイートに対し、「 朝から、自分の中の優しさを呼び起こされて胸熱で感謝」「 ほんの少しの工夫や手間で無理なく普通に社会が流れていく、これが本当のバリアフリーだろう」「最高のおもてなし!こんなお店は是非知り合いに教えたくなる!」などといった感動にあふれたコメントが集中。

加えて「僕も1人の障害者として行ってみたいと思いましたしこのお店の方たちにありがとうを言いたいです」「お店の方が考えた配慮は、障害のある我々には大きな力があると感じました」との反応もあり、このツイートは、1.1万のリツイートと約2.6万のいいねとなっている。(1月17日現在)

投稿者のねこさんは、普段は手話と筆談で生活していて、今回、会社の聴覚障害を持つ同僚と一緒に、「電話リレーサービス」(聴覚障害者とのやりとりをオペレーターが主に文字や手話で仲介)を利用して初めてこの居酒屋「佐藤商店」を訪れていた。

ねこさんの驚きと喜びが伝わってくるツイートだが、旗と説明文を見たときにどのように思ったのか? そして、聴覚障害者への社会の理解の現状についてもねこさんに話を聞いた。

「旗の発想に感動しました」

ーー旗と説明文を見つけた際、どのように感じた?

説明文に関しては前にも別の店でしていただいたことがあり、今回もしていただけたことは嬉しかったです。しかし、旗というところまでは私も思いつかなかったので、大変びっくりし、「あー、このやり方もあるんだ!」と思いました。

確かに日頃、店員さんを呼ぶときに手を振っていますが、人の行き来が多い店内などではすぐ見つけてもらえるとは限りません。でも、旗だと目立ちますし、すぐに気付いてもらいやすいので、その発想に感動しました。

そして、「これを作ってくださった方は相手の立場になって深く考えて動くことができる人なんだな」と思いました。

ーーこの旗は注文の際、問題なく活用できた?

はい、活用できました。

ーーこれに似た、もしくは気づきのある対応を他店で受けた経験はある?

他は、少し前の話になりますが、品川の「わらやき屋」というところで神対応をしてもらったこともあります。

「わらやき屋」では聴覚障害者のために料理の食べ方を文章にまとめてくれた
「わらやき屋」では聴覚障害者のために料理の食べ方を文章にまとめてくれた
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ーーTwitter上で大きな話題となっているが?

今回、こういうことが大きな話題になったということは、逆に考えればこういう対応がまだまだ当たり前ではなかった、ということにもなります。

ですが、聞こえる人たちは聞こえない人のことを知らない。それは悪くないし非難することではありません。

今回のことを通して、「聞こえない人の存在」「聞こえない人が日頃どういうことに困っているのか」だけでなく、「どうすればこの困ったことを解決できるのか?」「聞こえない人に対してどう接すればいいのか?」などをさまざまな方が知ることができれば、そこから社会は少しずつ変わっていけると思っています。

ーーユーザーの声や反応で、一番ありがたかったものは?

まず、セガ公式アカウントから反応があり、「Twitterの中の人も接客業と言われますが、勉強になります」「相手の立場に立ってうれしいことを考えられる、中の人でありたいです」と言ってくださいました。

また他にも「日頃心に余裕を持ち、障害者に対しても色々と考えながら接することができる自分でいたい」「手話を覚えよう!」「これぞホスピタリティ」「日本もまだまだ捨てたもんじゃない」など…。一番、というよりもすべてのコメントが嬉しかったです。

社会の理解は心の面ではだいぶ変わった

ーー聴覚障害者への社会の理解は以前と比べてどう感じる?

私の感想ですが、人の心の面では昔とだいぶ変わったと思います。しかし、技術的な面では昔とあまり変わってない部分もあると思います。

例えば、海外ではテレビの字幕が100%に近い国もあったり、また10年ほど前から「電話リレーサービス」が国家事業として認められていたりしていますが、日本ではまだまだです。

ですが、先ほども書きましたように、心の面で見るとかなり変わってきているのではと手応えを感じています。特に今回のバズりでいろいろな方々からコメントをいただきましたが、皆さん多くの気づきがあったようで嬉しく思いました。 だからといって「それならそれで良いじゃないか」ではなく、技術的な面も大きく変わっていってほしいなと思っています。


ーーでは、飲食店などを利用する際、特に困っていることは何?

例えば、呼び出しのピンポンがない店、メニュー注文のタッチパネルが置いていない店だと、店員さんを呼ぶのが大変(声で呼ぶことができない、声を出せても変な声と思われるのが嫌でなかなか声を出せないなど)があります。

さらに、注文できたとしても、最後にメニューの復唱があります。それは声だけのやり取りになることが多いので聞き間違いなどが起こり、間違ったメニューが来るということも発生します。

また予約の際、直前の急な予約変更があっても「電話リレーサービス」の受付時間(現在、基本8時から21時まで)が終わっていたら変更できない、などもあります。

ーー今回に限らず、聴覚障害者に対し、どんな対応があったらうれしい?

聴覚障害を持つ方とお話ししたくても手話を知らないから話せない…と思って遠慮してしまう人も多いと思いますが、今はスマホを使って画面に文字を打って見せる、などの方法ができる時代なので、そういう対応をしてもらえると嬉しいです。

実際、最近の話ですが、事故で電車が止まった時、私はなぜ止まったのか分からずオロオロしていたのですが、そばにいた知らない方がスマホで画面に文字を打って、止まった理由を説明して見せてくれて大変助かったことがあります。

ねこさんが当時喜びを綴ったツイート。
ねこさんが当時喜びを綴ったツイート。

病院やマクドナルドなど、いちど注文した後、しばらく待つということがあります。そういう時、私たちは呼ばれても気付きにくいため、ずっと店員さんの口を凝視しなければなりません。ですので、私は「耳が聞こえないので、私を呼ぶ時は目を合わせて手を振ってほしい」とお願いしています。一方で、そういうことがなかなか言い出せない方々もいると思いますので、もし聴覚障害を持つ方が来た場合は、こういう対応を思い出していただけると嬉しいです。

このように、今は昔と違って、ツールを使ってコミュニケーションできる時代なので、それをもっと活用していければ、健常者と障害者の壁はどんどん薄くなっていくのではと思っています。

ーー最後に、佐藤商店にメッセージを。

突然予約しておうかがいしたにも関わらず、私たち聴覚障害者の立場や、何に困るのかなどをいろいろと考えて旗やメニューの説明まで準備していただき、本当に嬉しく思いました。

また、旗などを作ってくださった方は聴覚障害者とは面識もないとのことで大変びっくりしましたが、その想像力と機転にとても感謝しています。 おかげさまで料理もおいしくいただけましたし、本当に楽しいひと時をありがとうございました。

佐藤商店にも話を聞いた

ねこさんを大いに感動させた佐藤商店の気遣いだが、これは誰の発案だったのだろうか? 同店の担当者にも話を聞くことにした。

ーー説明文と旗を用意したのは誰の考え?

当日出勤していた社員によるものです。

ーー「店員を呼ぶ時に旗」というアイデアは、過去の経験から?

聴覚障害者の方が耳だけではなく言葉を発することも不自由であることは、ドラマやアニメで知っておりました。そこから来られた際の状況を想像して、呼ぶ際には旗が必要だと思い、ご用意いたしました。

ーー手作りの旗でこだわった部分があれば教えて。

白を基調とした店内なので、そこで目立つように赤色の線を引きました。

ーーねこさんたちとのやり取りはうまくいった?

当日は用意いたしました「メモ用紙」で会話させていただき、問題なくやり取りができたかと思います。

ーーねこさんは大変喜んでいた様子だったが、それを見てどのように感じた?

当時は手話で会話をされていたので、お話されていた内容はわかりませんでしたが、皆さま笑顔で会話されていたので、楽しんでいただけているかと思い、嬉しく感じておりました。

お店ではたこ焼きを作って楽しんだ
お店ではたこ焼きを作って楽しんだ

「障害者の方が本当に必要としていること」を考える一つのきっかけに

ーー以前にも、聴覚障害を持つ人などが来店したことはあった?

オープンして半年ほどなのですが、これまでにそういったお客さまにお越しいただいたことはありませんでした。

ーーTwitter上で大きな反響となっていることをどう思う?

Twitterでたくさんのコメントをいただいて、正直驚いております。このように評価していただけるとは考えてもいなかったので、大変嬉しく思っております。

今回の件で、日本中の多くの方に「障害者の方が本当に必要としていること」を考える一つのきっかけになれば幸いです。

今後とも、全てのお客さまに心から楽しんでもらえるように、スタッフ一同お出迎えができればいいなと思います。



今回のように称賛される対応はなかなか難しいことも多いだろう。しかし、今はスマホなどさまざまなツールがあることから、まずはためらうことなくコミュニケーションを図ることが重要なのかもしれない。

それが、ねこさんの言うように「社会が少しずつ変わっていく」きっかけになるのではないだろうか。

画像提供:ねこ(耳をお空に置いてきた)(@catfoodmami)さん

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。