仕事で書類を作成する際に、多くの場合で必要となってくるのが押印。

しかし、1~2枚ならまだしも、十枚、数十枚の書類にハンコをついていかなければならない手間となると…。「押印にかける労力は無駄なのでは?」「こんなに押印した書類を用意する必要があるの?」と、感じたことがある人もいるのではないのだろうか。

そのような中、あるロボットが12月に東京ビッグサイトで開催された「2019国際ロボット展」に登場し、大きな注目を浴びている。

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これは「RPA&COBOTTA」というもので、オフィスの定型的なデスクワークを自動化するテクノロジー「RPA(Robotic Process Automation)」と、デンソー開発の人協働ロボット「COBOTTA」を組み合わせ、作業の効率化を実現させたもの。

ロボットの一連の動きは、2本の白いアームを器用に使って、書類をめくったりハンコに朱肉を当てる作業を実現。そして所定位置に押印した後は、アームの間にあるカメラで書類全体をスキャンすることができる。電子化した書類は、事前設定した形で所定のPCにフォルダ分けされ、指定した名前で保存されるという。

開発に当たっては、デンソーウェーブ、日立キャピタル、日立システムズの3社が共同で行い、なかでも日立キャピタルは企画構想段階からプロジェクトに参画している。押印だけでなく、付随する書類の電子化にも対応しているといい、東京ビッグサイトのブースには数多くの客が集まり、1000枚ほど用意した案内がなくなるほど、注目を集めたとのことだ。

しかし、機械で押印を自動化することに開発の手間をかけるより、そもそもの「ハンコ文化」をなくした方が問題解決になるような気がする。

「ハンコ文化」はペーパーレス化が叫ばれる今なお、根強いものがあるというのだろうか? また、機械が自動的に押印処理をするのならば、そもそもの押印の意味がなくなってしまうのではないか? 日立キャピタルの担当者に話を聞いた。

定型化しているものを想定、位置を覚えさせて押印

ーーこの「RPA&COBOTTA」開発のきっかけは?

人手不足や働き方改革などの社会課題に関して、「COBOTTA」と「RPA」を組み合わせて多様なオフィス作業の合理化に取り組み、企業の課題解決に役立てようと考えました。

ーー押印や書類電子化の前のセットは人間がやるの?

おっしゃる通り、人間がセットします。開発中ですが、本番サービスでは自動で書類がロボットの前にセットされるような装置を設け、ある程度仕分けした書類を入れておけば、後は自動で作業する仕組みを検討しております。

ーー「RPA&COBOTTA」は押印が途中で薄くなってきたことも認識できる?

現段階ではできませんが、展開していく中でお客様から認識してほしいというお声が多い場合、関係各社へ確認して実現可否を検討する予定です。

ーー押印欄の位置や大きさが各書類でまばらだと思うが、どのように認識する?

押印に関しては、定型化しているものを想定としておりますので、あらかじめ対象書面を登録し、位置を覚えさせて押印します。

「お客様によっては、ハンコがなくせない状況がある」

ーー現段階の用途としては、契約書や請求書などの社印を想定している? 今後、社内での決済のように、名前の入ったハンコも検討している?

お客さまの要望次第かと存じます。開発段階では、あえてハードルの高い朱肉を使った押印を試しており、それが可能だということを確認しております。

ーー本人が直に確認して押すのでなく、機械が自動で押すということは押印の意味がなくならない?

書類の内容については、あらかじめ人間でチェックし押印しても問題ないことを確認することを前提条件として、「ハンコ(スタンプ)を押す」という作業のみを自動化させるものです。

もちろん、お客様のコンプライアンスなどをおうかがいして、ご使用いただくことが前提で、提案時にはその旨を説明します。

ーーところで、時代はペーパーレスへと進んでいるが、いまだにハンコ文化は根強い?

「ハンコ」にのみ焦点を当てるのであれば、ハンコが必要ない機会が多くなっているかと存じますが、お客様によっては、社内や取引先さまの事情でハンコがなくせない状況があるかと存じます。また、書面電子化プログラムで、お客様の電子化を促進できればと考えております。

マシンのニーズが特に大きい業界とは?

ーー「RPA&COBOTTA」の開発で一番大変だったのはどの部分?

書面電子化における、袋とじ書面(枚数が多い契約書の押印回数を減らすため、書類を製本した上で、背の部分にハンコを押す形にした書面)のページをめくる動作です。1枚のみページをめくる方法など、関係各社で知恵を絞りました。

ーー「RPA&COBOTTA」の使用で、どのくらい業務時間を短縮できる?

現時点では正確な数字が出ていないため、回答はご容赦いただきたく思います。

ーー押印や書類電子化以外には、どのような用途で使うことができそう?

シールを貼る作業などで活用できるのではないかと考えております。

ーーペーパーレスが叫ばれて久しいが、「RPA&COBOTTA」はどんな業界で特にニーズが大きい?

金融業界、官公庁などでニーズがある
かと考えております。

「ずっと拘束を受け、時間を取られる」マシンが解決した“課題”

自動でハンコを押す部分が大きく注目を集めた「RPA&COBOTTA」。しかし日立キャピタルが顧客に対して行った事前調査では、「押印」よりも「書面電子化」に大きなニーズがあったという。

企業が抱える書面電子化への課題についても話を聞いた。

ーー書面電子化を求める企業が多かったそうだが、具体的には何を課題としていた?

ニーズヒアリングでは、袋とじ書面を電子化する際、複合機などでページをめくって都度スキャンしなければならなかったそうです。その作業に従事する人はその間ずっと拘束を受け、ある程度の時間がとられてしまうといった課題があったと聞いています。

ーー「RPA&COBOTTA」はその課題をどう解決した?

「RPA&COBOTTA」に書類をセットすると、マシンがページをめくり、スキャンするため、その時間を別の業務に充てられるようになります。

ーーでは書類だが、どのくらいの枚数まで対応できる?

袋とじ書面にして60ページをめくり、電子化できることは確認しております。ただ開発段階のため、限界については確認中です。

「完全電子化までの過渡期に活用いただければ」

ーー「RPA&COBOTTA」に対し、社内の反応は?

「承認済みの契約であれ、ロボットが押印するのは世論の反応が気になる」「シール貼り、封入作業、旅費伝票チェックなどにも活用できないか検討してほしい」「オフィスにロボットという発想は面白い、どこに置くかなどの課題はある」など、社内でもさまざまな意見がありました。

ーーネット上でさまざまな声が上がっているが、どのように受け止めている?

申し訳ございませんが、回答はご容赦いただきたく思います。

ーー御社としては、世の中はペーパーレスに進んだ方がいいと思っている?

世の中の流れですので、ペーパーレス化が進んでいけばよい、完全電子化になるまでの過渡期に本サービスを活用いただければと考えております。

ーーちなみに、御社ではペーパーレスに関してどんな取り組みを行っている?

弊社では、電子契約などの電子化に取り組んでおります。

ーー最後に、社内の業務効率化を考えている人に一言を。

「RPA&COBOTTA」のコンセプトはあくまで、自動化領域を増やし、オフィスでのロボット活用を推進していきたいという部分であり、そのイメージ具体化の例として「押印」「書面電子化」のメニューを今回入れています。

今後も、お客様に自社でロボットを活用したい単純作業についてヒアリングを行い、メニュー拡充を行っていきたいと考えています。


ネットでは「書類に自動押印するマシン」というところだけが注目されたようだが、「RPA&COBOTTA」の本来の役割は「オフィス作業における一貫した合理化の推進」であり、あくまで「押印」はそのイメージしやすい一例だったようだ。

ペーパーレス化が完全に実現されていない今は、まだまだ「RPA&COBOTTA」が「押印」「書類電子化」をしてくれることへのニーズはありそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。