がれきは今もそのまま・・・

抜けるようなコバルトブルーの空、海風にそよぐヤシの木。
フロリダ州キーズ諸島は世界有数の別荘地だけあって10月末だというのに暖かな太陽の日差しが降り注いでいた。

2017年9月、この地を襲った大型ハリケーン「イルマ」は甚大な被害をもたらした。上陸時の最大風速は約47メートル、高潮や停電も相次ぎ、フロリダ州全域で120人以上が死亡、住宅など6万5000棟の建物にも被害が出た。

高速道路から見える美しい景色からは、復興が順調に進んでいるように感じられる。

しかし、裏路地に入った瞬間、その景色は一変した・・・・

フロリダ州南部キーズ諸島に位置する、ビッグ・パイン・キーの被災住宅 2019年10月31日撮影
フロリダ州南部キーズ諸島に位置する、ビッグ・パイン・キーの被災住宅 2019年10月31日撮影
この記事の画像(12枚)

時間が止まった町

海沿いの家の壁にぽっかり開く大きな穴・・・。
人が住んでいる様子もなく、廃墟となって打ち捨てられている。
車を走らせると、町のいたるところに、がれきの山がそのままになっていた。被災から2年もの歳月がたっているというのに、まるで時間が止まってしまったかのように、生々しい、爪痕を晒していた。

かつて自宅があった土地は売り出されていた スティーブ・ミラーさん
かつて自宅があった土地は売り出されていた スティーブ・ミラーさん

すべてを失った2年前

スティーブ・ミラーさんはキーズ諸島の中央に位置するビッグ・パイン・キーに20年以上にわたって暮らしてきた。地元ではちょっと名の知れたラジオ・パーソナリティだ。2年前のハリケーン「イルマ」で、川沿いにあった自宅は、約1メートル20センチの高さまで浸水。家財道具の大半を失い、家も取り壊さざるをえなかった。

「2年前、すべてを失った」
「被害にあったのは私の家だけではない。自宅があった通りだけでも17件の家が全壊し、今は空き地だらけさ」

「イルマ」の猛威は、キーズ諸島全域で住宅1400戸が全壊する被害を出した。

被害が大きかった海岸沿いは建物の土台だけが残っていた ビック・パイン・キーにて撮影
被害が大きかった海岸沿いは建物の土台だけが残っていた ビック・パイン・キーにて撮影

被災後、家賃は2倍に

全てを失ったスティーブさんに追い打ちをかけたのが家賃の高騰だった。フロリダ半島最南端から延びるキーズ諸島は、国道1号線一本だけでつながっている。朝晩のラッシュアワーは大渋滞に見舞われ片道3時間以上かかる。労働力の確保や資材の持ち込みも容易ではない。このため復興はなかなか進まず、極端な住宅不足に陥っているのだ。

その結果、被害を免れた住宅の価格が高騰、家賃は2年前の平均2倍以上に跳ね上がっているという。スティーブンさんの家賃も月9万5千円から約18万円に値上がりした。

安くて早い!工期はたった2か月

この住宅不足を解消する救世主として自治体が注目しているのが「タイニーハウス」だ。

フロリダ州オーランドでタイニーハウスメーカーの工場を訪れると・・・。

「タイニーハウス」の組み立て工場 フロリダ州オーランド10月30日撮影
「タイニーハウス」の組み立て工場 フロリダ州オーランド10月30日撮影

同時に3軒の“家”を工場内で組み立てるなど活況を呈していた。工期はたった2か月。完成したタイニーハウスは車輪がついているので顧客が指定する場所まで車で引っ張って行き、簡単に設置できる。最も安いもので4万5千ドル(日本円で約490万円)と価格も一般の住宅に比べ手頃だ。

工場長のブレット・ヒルブランドさんに話を聞いた。
「タイニーハウスは今アメリカ全土で大ブームとなっているんだ」
「アメリカ人の家族の形が、大家族から核家族に変わり、今ではミニマリスト志向の若者や、老後を無駄のない小さな家ですみたい人などニーズがどんどん高まっている」

“極小生活”きっかけは日本

ケビンさん一家の「タイニーハウス」は幅2.6メートル 腕を広げたくらいの幅だ
ケビンさん一家の「タイニーハウス」は幅2.6メートル 腕を広げたくらいの幅だ

気になるのは、その住み心地だ。
「タイニーハウス」に暮らして間もない家族を取材することが出来た。幅2.6メートル、長さ8.5メートルの極小空間に夫婦と4歳になる娘、そして愛犬と暮らしているケビンさん一家。玄関の扉を開けると、いきなりキッチン。二階の寝室も座ったままで頭が天井につかえてしまい 狭さは否めない。

ただ、コンパクトながら水洗トイレ、バスタブ、シアタースクリーンなども完備していて、なかなか快適そうな家だ。

奥様のイネスさんが玄関のドアを開けると、そこはキッチン・・・
奥様のイネスさんが玄関のドアを開けると、そこはキッチン・・・
2階の寝室は、座ったままでも頭が天井につかえてしまう・・・
2階の寝室は、座ったままでも頭が天井につかえてしまう・・・
キッチンの奥にはバスタブとトイレ、全自動洗濯機も完備
キッチンの奥にはバスタブとトイレ、全自動洗濯機も完備

ケビンさんがタイニーハウスでの“極小生活”を始めたきっかけは、意外にも日本で暮らした経験だという。

「アメリカでは大は小を兼ねる、隣人よりも豪華で大きなものを持っていることが、豊かな生活だと思ってきた。しかし、日本に仕事で駐在した時に、限られた空間でも物を大切にして暮らす日本人の生活に触れ、これこそが豊かな生活だと分かったんだ」

ケビンさん夫妻は軍関係の仕事で沖縄に2年間駐在した経験から、物をなるべく持たないミニマリストとして生活することに目覚めたと言う

そして、もう一つの理由は・・・。

「フロリダは毎年ハリケーンの被害にさいなまれている。家族を守ることを考えた時に、このタイニーハウスは家ごと安全な場所に避難することが出来るんだ」

ケビンさんと4歳になる愛娘 子供部屋にて
ケビンさんと4歳になる愛娘 子供部屋にて

2016年以来ほぼ毎年、最強のカテゴリー5のハリケーンがフロリダを直撃し甚大な被害を出している。どこにでも身軽に移動できるタイニーハウスの生活なら家ごと避難が可能で、防災対策としても活用できるという。

ケビンさんのタイニーハウスの近くで、別のタイニーハウスも発見
ケビンさんのタイニーハウスの近くで、別のタイニーハウスも発見

キーズ諸島の自治体はタイニーハウスを買い上げ、被災した人たちや復興に携わる労働者に安く貸し出す計画を進めている。

2年前から時が止まってしまった町が活気を取り戻す日も近いかもしれない。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー藤田水美】

「“災害大国”の家選び」すべての記事を読む
「“災害大国”の家選び」すべての記事を読む
ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。