まさか日本人が15人も・・・
「日本人が10人以上、パタヤ郊外で一斉検挙された」
2019年3月29日夜、タイの情報筋から一本の電話が入った。FNNの取材班が車をバンコクから約2時間離れたパタヤ郊外へ急行させると、アジトとして使われていた一軒家の中に拘束された日本人の男らが着座させられていた。その数は15人。男たちにかけられた容疑は「特殊詐欺」への関与だった。
アジトにしていた一戸建ての住宅は、敷地面積が約720平方メートル。5LDKでプール付き、家賃は管理費込みで月額約23万円。男らはこのアジトで寝食を共にしながら、手元に用意した名簿をもとに日本国内に電話をかけ続け、高齢者らから現金をだまし取っていた。これだけ大勢の日本人が外国で一斉検挙されたのは、過去の取材でも経験がない。
FNNでは摘発直後からタイの捜査関係者に何度も接触を重ね、アジトで押収されたほぼすべての大量の書類を入手した。
そこには具体的な詐欺の方法が記されたマニュアルや、被害者の住所・電話番号・被害額などが記された名簿、だまし取った金額が書かれた紙などが含まれていた。これらは、事件の全容解明に向けた大事な証拠だ。
中には、「かなりアホ」「裁判になるぐらいなら払う」などと、被害者をバカにしたような手書きのメモも見つかっている。
その資料をもとに、日本で聞き込みを行ったところ、被害者たちが続々と騙された手口を証言してくれた。被害者は誰ひとりとして、その電話が国外からかけられたものとは思っていなかった。
マニラでは36人が摘発・・・なぜ東南アジアを目指すのか
2019年に起きた海外での日本人グループ摘発はこれでは終わらなかった。パタヤでの摘発から約8ヶ月後、今度はフィリピンの首都マニラで特殊詐欺に関わっていたとみられる36人が摘発された。男たちはマニラ中心部にある元ホテルのフロアを貸し切り、ウェブを通じてできる電話サービスを使って日本に詐欺の電話をかけていたとみられている。摘発を免れるためだろうか。アジトの場所は数ヵ月ごとに変えていたという。
中には、詐欺グループが部屋を借りる際、管理会社に「英語学校を運営するため」とウソの理由を説明していたケースもあった。タイの事件と違い、男たちはホテルなどからアジトに通勤する形をとっていた。まるで会社組織のように、就業時間や遅刻の場合の連絡方法などが定められ、ホテル代やスマートフォンも支給されていたとみられている。大勢のかけ子たちを組織的に管理していた実態は、タイの事件と同様だった。
タイ、フィリピンと続けて起きた大規模な摘発…なぜ詐欺グループは東南アジアへの進出を進めているのだろうか。一つには警察による取締りが行き届かないためだ。日本の警察が情報を入手しても、摘発まで時間がかかる。また、物価が日本と比べて安価なため、食費や生活費も工面しやすいというのも背景にある。以前と比べ、インターネットを使った電話も安価に利用できるようになり、もはや日本国内に拠点を置かなくても、日本と同じような活動ができるようになったのも理由とみられる。
ある反社グループの一人はFNNの取材に「東南アジアの物価が安い国」への進出をしていることを認め、カンボジアなどでもすでに展開していることをほのめかした。
中国の特殊詐欺グループも東南アジアへ
詐欺グループの東南アジア展開は、実は日本に限った話ではない。中国で暗躍する詐欺グループも東南アジアに次々と進出し、摘発が相次いでいる。2019年11月には、マレーシアのクアラルンプール近郊で中国人詐欺集団の大規模な摘発が行われ、16~39歳の容疑者680人が逮捕され世間を驚かせた。
また同じ11月、フィリピンのパラワン島では中国の公安機関が8箇所で摘発を行い、中国人の容疑者3000人余りを移送した。インドネシアでも11月26日、オンライン詐欺に関わっていた疑いで中国人85人が逮捕された。
いずれも中国機関による情報提供が決め手となった。
グローバル化によって人、モノ、金が国境を超えて自由に行き来する時代の中で、犯罪行為も簡単に国境をまたいでいる。
今もまだ特殊詐欺グループは東南アジアで暗躍しているとみられる。そして、こうした犯罪を摘発するために、今後も警察は東南アジア諸国との連携を強化していく必要がある。