トランプ氏「韓国・文大統領は信用されていない」発言と日韓GSOMIA“土壇場の延長”に見た水面下の外交戦~2019スクープの裏側

カテゴリ:ワールド

  • トランプ大統領の韓国・文大統領批判をすっぱ抜き
  • GSOMIA失効回避の裏に米国の圧力と日本の“お膳立て”
  • 2020年の日韓関係は?北朝鮮にどう対応?

「文大統領は信用されていない」トランプ大統領の痛烈ワードを連続スクープ

2019年―令和元年が間もなく終わろうとしている。振り返れば今春は、我々政治部記者は、平成にかわる新しい元号が何になるのか、また、それに伴う関連行事の取材などに奔走していた。秋以降は、内閣改造やそれに続く閣僚のドミノ辞任、「桜を見る会」をめぐる疑惑を追及する国会にも注目が集まり、税金の使い方や公文書の保存の在り方など、来年の通常国会への様々な火種も残した。一方で、外交もめまぐるしく動いた。安倍外交にとって、今年、大きな局面を迎えたのは何といっても日韓関係だったのではないだろうか。

「北朝鮮への対応のために、日韓、また日米韓の連携・協力は極めて重要であります。今回、韓国もそうした戦略的観点から判断をしたのだろうと思います」

安倍首相(首相官邸・11月22日)

11月22日、韓国が日韓の軍事情報包括保護協定=GSOMIAの失効を回避する決定をしたことについて、安倍首相は官邸で記者団の質問に対し、直接的な評価を避けながらこのように答えた。

この決定により日韓関係は、政府関係者が「最悪に近い」と評する状態を脱した形にも見えるが、そこには日本でも韓国でもない、キーパーソンがいた。アメリカのトランプ大統領だ。

「文大統領は北朝鮮から信用されていない」(9月26日 live news it!で独自OA)

日米首脳会談(ニューヨーク・9月26日)

今年9月にアメリカのニューヨークで行われた日米首脳会談。この日の会談は、日米貿易交渉を巡って首脳間で最終合意に至った重要な会談だったが、トランプ大統領は別の話題を切り出した。

「シンゾー、韓国と最近あまりうまくいっていないんだって?」

首脳会談の終盤、このように切り出したトランプ大統領に対し、安倍首相は、元徴用工訴訟に関する最近の日韓関係の動きや、輸出管理の優遇措置である「ホワイト国」から韓国を除外した経緯について、日本の立場を丁寧に説明した。

「韓国については(輸出管理について)普通の国と同じような対応をするというだけだ。ただ、だからと言って、日韓関係は今までと同じというわけにはいかない」

「日韓関係についていえば、1965年の日韓請求権協定というものがあって、韓国もずっとこれを守ってきた」

日米首脳会談(ニューヨーク・9月26日)

安倍首相の説明について頷きながら聞いていたトランプ大統領は、主語はあくまで自身ではなく、“北朝鮮はこう言っている”という言い方で暗に文大統領を批判した。

「文大統領は北朝鮮から信用されていない」
「(北朝鮮から)尊敬されていない」
「最近は金正恩委員長から電話もかかってこないようだ」

トランプ大統領は、安倍首相との会談の前に、文大統領と会談している。その米韓首脳会談の詳細は不明だが、この場で文大統領から日韓関係について何らかの言及があって、その内容が日米首脳会談での発言に繋がったのではないかとの指摘がある。実際、「韓国と最近あまりうまくいっていないんだって?」というのは、その“事実”を人づてに聞いたような言いぶりだ。ただ、トランプ大統領が文大統領に対し批判的な言葉を並べたのはこれが初めてではない。

米韓首脳会談(ニューヨーク・9月23日)

トランプ大統領が2日連続で文大統領を批判(2019年8月26日αなどで独自OA)

G7訪仏 日米首脳会談(8月25日)

トランプ大統領は1か月前の8月、G7=主要7カ国首脳会議に出席するためフランスを訪問していた。そして発言は、初日の夜、首脳らが外交や安全保障に関する議論をしている最中に飛び出した。

「文在寅という人は信用できない」
「金正恩は『文大統領はウソをつく人だ』と俺に言ったんだ」

よほど虫の居所が悪かったのだろうか。前述した9月の発言より、8月のG7での発言のほうがより直接的だ。翌日の夜にもこんな場面があったという。

「なんであんな人が大統領になったんだろうか?」

G7各国の首脳夫妻らが集う夕食会の場で、「なんであんな人が・・・」と疑問を投げかけ、同席者を驚かせた。トランプ大統領がここまで“しつこく”語る理由は何か。ある日本政府関係者は、韓国がG7直前の8月23日に「日韓の軍事情報包括保護協定=GSOMIAを破棄する決定をしたことが念頭にあるのだろう」と解説した。関係者によると、このとき安倍首相が反応することはなかった。

G7訪仏 日米首脳会談(8月25日)

すべては「GSOMIA」に繋がっていた?

韓国がGSOMIAを延長せず破棄するという決定に、多くの日本政府関係者は「日米同盟が盤石であれば何も問題ない」「破棄して困るのは日本ではなく韓国だ」と強調した。その一方で、日韓のこうしたイザコザは「北朝鮮に誤ったメッセージを与える」と懸念する声もあった。日韓の水面下の交渉が続けられるなか、GSOMIAを延長するのか、破棄するのか、その期限が11月23日午前0時に迫っていた。

米朝首脳会談・2月

「視界不良」の日韓関係

視界不良の日韓関係

双方が対立したまま失効という決裂の時を迎えるのか。タイムリミットを前に政権幹部の一人は、アメリカ議会上院が、GSOMIAの重要性を訴える決議案を全会一致で可決したことで、「韓国にかなりのプレッシャーがかかったはずだ」と指摘した。

また、別の政権幹部も、「韓国と決定的に敵対したいわけではない。文政権と対峙しているだけだ」と語るなど、日本政府にも、韓国が何らかのアクションを起こした場合、“聞く耳は持つ”との姿勢が伺えた。土壇場で外交は動くのか。そして、韓国大統領府は、失効まで6時間となった11月22日夜、GSOMIAの失効を回避する決定を発表した。

「勝手に興奮してハードルを上げて自爆した。文大統領の外交下手が露呈しただけだ」

韓国が土壇場で“延長”を決めたことに対し、このように手厳しく批判する政府関係者もいたが、政府高官は「GSOMIAと輸出管理の問題を交渉材料にした」と述べ、韓国側が振り上げたこぶしを下ろせるように、日本側が“お膳立てした”との認識を示した。韓国側には韓国側の言い分もあるだろうが。ただし、いわゆる元徴用工問題などを巡って双方の緊張関係は続いている。少なくとも1年後にまた同じ議論が繰り返される可能性は残されたままだ。

徴用工問題などを巡る韓国の抗議活動
ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像

関係改善なるか?1年3か月ぶりの日韓首脳会談開催

こうした中、12月24日には中国の成都で日中韓サミットが行われ、その終了後に安倍首相と文大統領は、公式の形では1年3か月ぶりの日韓首脳会談に臨んだ。

1年3か月ぶりの日韓首脳会談・12月24日

この中で安倍首相は日韓関係を健全な関係に戻すきっかけを韓国側から作るよう文大統領に求め、元徴用工問題について「韓国側の責任で解決策を示すべきだ」と主張した。これに対し、文大統領は、「この問題の解決の重要性は自分としても認識し、早期に問題解決を図りたい」と述べたが、具体案の提示はなく、逆に輸出管理強化の撤回を安倍首相に求めた。その上で両首脳は、外交当局間の対話で問題を解決していく方針について一致した。

会談前に政府関係者は、「日韓関係のこれ以上の悪化は望まないが、安倍首相が元徴用工問題などで譲ることは絶対ない」と語っていたが、その通りの結果になった。

また別の関係者は、北朝鮮が米朝協議の交渉期限を一方的に「年内」に指定し、大陸間弾道ミサイル=ICBMの発射をちらつかせるなどしていることについて「日中韓の3カ国が連携している姿を見せられなければ、また北朝鮮に付け入るスキを与えてしまう」と日韓関係の悪化が与える外交的なリスクに懸念を示していた。それを払拭するためにも、会談では、北朝鮮の非核化に向け、日韓、日米韓の連携が重要だとの認識で一致するなど、日韓の一定の連携姿勢は示した形となった。

北朝鮮の金正恩委員長

2020年の日米韓と北朝鮮 主役はどの国に…

トランプ大統領

ここまで振り返ったように、トランプ大統領は今年、国際会議の場や、日本との首脳会談の場で、文大統領に対する手厳しい言葉を並べてきたことが取材で分かった。トランプ大統領が、日韓のGSOMIAにどこまで関心があったのかはわからない。実際、GSOMIAをめぐっては、表向き破棄されても問題ないとする立場の日本政府が、実際は決裂の回避に向けて水面下の交渉を続け、汗をかいてきたことは間違いない。

しかし、来年に大統領選を控えるトランプ大統領が、米朝協議の進展に水を差しかねない関係国の動きに敏感に反応するのは自然なことだろう。多くの政府関係者が語るように“それなりのプレッシャー”が韓国にかかったことは否定できない。問題は、その目先が今後どう変わっていくのかということだ。文大統領に批判的な言葉を並べたてたトランプ氏の“口撃”は、今やダイレクトに北朝鮮に向かっている。トランプ大統領は、12月に入って軍事的挑発行動を加速させている北朝鮮の金委員長に対し、ツイッターでこうつぶやいた。

「もし金正恩委員長が敵対的な行動をとれば、あまりにも多くのことを失うだろう」

大陸間弾道ミサイル=ICBMの発射

このように、外交の主役は日々めまぐるしく変わっていく。各国の国益が複雑に絡み合うなか、首脳級の仁義なき戦いはこれからも続くだろう。安倍首相は、完全な非核化を目指す方針を維持しつつ、金委員長とは条件を付けずに向き合うとの姿勢を継続している。圧力を維持し、対話のドアを開くとの姿勢が今後変化する可能性はあるのか。安倍政権が最優先の課題に位置付ける拉致問題の解決に残された時間は多くない。非核化の実現を通じた朝鮮半島の平和と拉致問題の解決。この難しい問題に安倍首相がどのようなリーダーシップを発揮しようとしているのか。関係する当事者たちの発言や思惑、状況の変化をこれからも追っていきたい。

1年3か月ぶりの日韓首脳会談・12月24日

(フジテレビ政治部)