拡大する、新たな人材採用の方法

「わたしと一緒に働かない?」
仲のいい友人に声をかけられたらどうするだろうか。悩むだろうか。
その友人が楽しそうに仕事をしている姿を見たら、揺らぐかもしれない。

「売り手市場」がつづく日本の採用現場では、人材の確保が課題になっている企業が多い。
IT業界の74.4%の企業では正社員が不足していると答え、飲食業界では、78.6%の企業でアルバイトなどの非正規社員が不足しているなど、幅広い業種で悲鳴があがっている(帝国データバンク 2019年4月)。
そんな中、あらたな採用方法のひとつとして「リファラル(Referral)」=知人や友人による紹介・推薦制の採用が広がっている。

リファラル採用サービスを手がける株式会社My refer(マイリファー)では、12月1日現在、約550社がサービスを利用している。
数年前まではメルカリなど、スタートアップのIT企業や、外資企業でのイメージが強かったリファラル採用。
今でも約2割はIT関連企業だが、ほかにも製造、不動産、飲食など、さまざまな業種で利用は拡大している。

(My Referより)
(My Referより)
この記事の画像(8枚)

IT大手、富士通では2018年4月から中途採用でこのリファラル採用を開始。
今では35人がこのリファラル制度を通じて採用され、エージェントによる採用に比べると内定数、応募数がおよそ10倍になっている。
外食最大手のすかいらーくグループでは2019年からリファラル採用を導入し、年間で約7500人のアルバイトを採用。
今後、数年間かけて採用全体の4割をリファラル採用にしたいと話している。

まだ働いていない学生までも採用の担い手に

リファラル採用と一言で言っても、多種多様だ。

10月1日。緊張した面持ちで人事担当の話に耳を傾ける学生たち。
東京・千代田区の石油元売り企業・太陽石油では、4月に入社予定の学生たちの内定式が行われた。
お互いの自己紹介やグループワークのあと、最後に少し変わった、こんな呼びかけを行った。
お友達や後輩を紹介してほしい

太陽石油 内定式の様子
太陽石油 内定式の様子

太陽石油では、まだ働きはじめていない内定者に、友人や後輩を紹介してもらうあらたな採用制度を始めたのだ。
リファラル採用専用のアプリを通じ、企業が内定者に求人情報、会社説明会、インターンなどの案内を通知。内定者がSNSなどを通じて、友人や後輩たちにURLを簡単に共有できる仕組みだ。
同意した内定者はアプリをダウンロードし、きょうから採用活動ができる。
実際に知り合いを紹介した内定者には、“謝礼”として、アイスクリームやコーヒーなどの商品券などがもらえる。
アステラス製薬、東急建設など、すでに約20社がMy Referのサービスを使って、こうした内定者採用を導入している。

採用に関わる中で、生まれる“会社への信頼と理解”

なぜ、実際に働き、会社をすでによく知っている社員ではなく、社会人生活が始まってもいない内定者たちに採用の担い手をたくすのか?

太陽石油・人財育成部長 門田晴雄さん;
10年前は採用サイトの活用で十分採用者が集まっていたが、昨今、4回採用のプロセスを行わないと定員まで集まらない時代になりました

今回、内定者を採用の担い手にした訳は、学生とつながりの深い内定者たちが会社との間に入ることで会社への信頼が生まれるのではないか、という狙いだ。
内定者側にとっても、第三者に会社のことを話す課程で、会社を理解するきっかけになるという。

一方で、個人情報の取り扱いについては懸念があり、そこはサービス提供のMy Referのアドバイスを受けながら進めていきたいとしている。

「相手の顔が見えるので抵抗はない」

内定者・福本一真さん(修士2年生);
手軽。こういうアプリはアクセスしやすいですね。こういう(紹介が)好きな人にはいいんじゃないかと

「就活は情報戦だと思う」と話す一方で、自身の就職活動では、基本匿名であるSNSはあまり使わなかったそうだ。
「こういった顔が見える紹介制度には抵抗はない」

紹介のイメージ 
紹介のイメージ 
内定者:福本一真さん
内定者:福本一真さん

その後、太陽石油では、24人の内定者のうち6人がアプリを通じて社員との座談会を後輩に紹介。3分の2の内定者が後輩の紹介に積極的に参加しているという。
1月のインターンに向けて、年末年始キャンペーンと称して本格的に紹介を促進していくそうだ(12月10日現在)。

民間企業だけで無く、省庁でもリファラル採用

採用の壁にあたっているのは、民間企業だけではない。
経済産業省では、2019年9月、リファラル採用サービスの株式会社Refcome(リフカム)と提携し、2020年度の新卒(総合職)の採用に向けて独自の紹介制度を開始している。
若手職員に「特別な招待状」カードを渡し、そのカードを渡された後輩や知人が、経産省の人事担当者と直接やりとりができるようになる仕組みだ。
国家公務員試験というハードルは変わらないが、“経産省に向いている”さまざまな人に興味を持ってもらえる近道になる。
「待っているだけの採用を変えたい」と採用担当は話す。

2019年から経産省が導入した「特別な招待状」(表・裏)
2019年から経産省が導入した「特別な招待状」(表・裏)

経産省・能村 幸輝・産業人材政策室長;
国としても採用の多様化を進めていて、特に中途採用ではリファラル採用が広がってきている

能村室長によると、リファラル採用のメリットは
・入社(省)後のギャップが少なく早期退職を防ぐことができる
・企業は採用コストを抑えることができる

一方で、デメリットとしては
・パーソナリティが大きく採用に関わる。紹介者としてパフォーマンスがうまい人もいれば、そうでもない人もいるので、企業は紹介された人の技能を見極める必要がある

政府としても2018年12月に中途採用の協議会を開くなどして、リファラル採用を含めたさまざまな採用のあり方について検討を進めている。
一括採用の限界が叫ばれるいま、あらたな採用の取り組みが広がっている。

(フジテレビ報道局経済部 井出光記者)

井出 光
井出 光

2023年4月までフジテレビ報道局経済部に所属。野村証券から記者を目指し転身。社会部(警視庁)、経済部で財務省、経済産業省、民間企業担当などを担当。