夫は外で働き、妻は家庭を守るべき。

そういった価値観は「古い」という感覚が、なんとなく浸透してきた現在。では、現実に「夫は外で働き、妻は家庭を守る」スタイルを取り入れている夫婦は、現在どのくらいいるのだろうか?

11月15日に発表された「男女共同参画社会に関する世論調査」では、その考え方に賛成する人は35.0%で過去最少という結果になった(「賛成」、「どちらかといえば賛成」の合計)。

1992年の調査では、60.1%もの人が賛成と答えていたことを考えると、現代の夫婦のスタンダードが変化しつつあるのは明白だ。

現代において、夫婦の形は画一的ではなくなってきている。夫婦のうち、男性が会社員で女性が専業主婦という組み合わせ以外の選択肢も増えてきているのだ。

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そのような中、今までは「外で働く」役割を求められていた男性でありながら、家庭に入って「主夫」になる道を選んだのが、『主婦をサラリーマンにたとえたら想像以上にヤバくなった件』(主婦の友社)の著者・河内瞬さん。年齢は30代前半。

現在は家事育児の大変さについてSNSで発信し、主夫ブロガーとして人気を集めている。この活動が仕事につながっているため、「専業」主夫ではなく「兼業」主夫ではあるものの、家事育児のメインたる担い手は河内さんだ。

確かに共働きの世帯は増え、男性は外、女性は内という価値観は古くなりつつあるが、それでも主夫を選ぶ男性はまだ少数派だろう。しかしなぜ、河内さんは主夫となったのか? また、主夫の河内さんが考えるこれからの夫婦像と、家事育児の位置づけとは?

夫婦の会話の自然な流れで「俺が主夫になったほうがいいよね?」

――まず、どういったいきさつで主夫になられたのでしょうか?

私がそのとき働いていた会社を辞めたくなったのと、奥さんの働きたいという思いが強くなった時期がほぼ一緒で、奥さんの働きたい意思を優先するために、私が主夫になる選択をとりました。もっとも、私がサラリーマンを辞めたいと思っていたのが強いという側面もありますが…(笑)。

一時共働きになりましたが、お互いに余裕がなくて衝突が絶えなかったんですね。家事育児の押し付け合いになる部分が出てきて、一週間くらいですぐ『これは無理だ』と思いました。それで、夫婦で話し合う中で、『俺、主夫になった方がいいよね?』『そうね』という感じで。普段からよく会話しているので、話し合いといっても簡単なものでした。


――ご夫婦の間で、自然な流れだったのですね。主夫業をやっていることについて、同性の友人からは、どういった反応がありますか?

当初は『男が家事育児!?』とまったく理解されなかったですね(笑)。ですが、会うたびに家事育児の話をしていたら、徐々に理解されるようになり、今では家事育児のことや夫婦のことの相談を受けるまでになりました。これは『家事育児は夫婦で』という風潮が少しずつでも世間に浸透してきた結果も大きいのかなと思っています。

河内瞬さん本人によるイラスト
河内瞬さん本人によるイラスト

――実際に主夫をやってみてよかったと思うのは特にどんなところですか?

家族全員の状況を常に把握できることと、子どもと接する時間が跳ね上がったことでしょうか。人間、わからないことには恐怖か苛立ちを感じるので、家族のことをわかっているということはかなり重要だと思います。

だから働く側には、できるだけ家事育児をする側や子どもの一日のことを話すと、『わからない』という事態が少なくなっていいかもしれませんね。あとは単純に子どもとの時間が増えるのは大変ですが、やはり幸せですね。サラリーマンの頃にはなかった時間ですので。


――現在も河内さんが主夫業を担われていますが、1日のスケジュールはどのような感じなのでしょうか。

朝の6時から7時に起床後、子どもたちや奥さんの登校・出社の支度をサポートして送り出し、午前の早い段階で洗濯と掃除などを終わらせます。布団を干したりする場合はもう少しかかりますが、大体10時までには終わらせます。

その後、昼までSNS関係の作業をし、昼食を食べて13時くらいから夕食の準備をします。ホットクック(自動調理鍋)を利用するので1時間もあれば夕食の準備は終わり、14時頃から再度SNS発信の作業をやります。

15時~16時に子どもが帰ってくるので一旦作業を中断し、子どもの宿題や配布物を確認します。16時頃から洗濯物を取り込んで片付けをし、18時まで再度SNS関係の作業をします。

18時に子どもと一緒に夕食を食べつつ一日の話を聞き、片付けなどをしつつ子どもの相手を。20時ころから子どもたちを順に風呂に入れて、早いとこのあたりで妻も帰宅します。そして21時~21時半の間に寝かせ、自分が寝る夜の12時か1時まで再び作業する感じですね。


――メインで家事育児を担当しているリアル感がとても伝わるスケジュールですね。主夫業を担当する身として、配偶者からかけられて嬉しい言葉や行動はありますか?

私は家事の中で料理が一番大変だと感じているので、その料理に対して『おいしい』と毎回きちんと言ってくれるのはやはり嬉しいですね。あとは進んで家事をしてくれているところでしょうか。妻も専業主婦経験者なので、その点はお手の物です(笑)。

主夫業をやる4年間で感じた世間の変化とは

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――日本で育児をすることって、何か閉塞感のようなものを感じる現代の空気ってあると思うのですが、主夫という男性の立場から、世間の反応や空気に関しては、どのように感じていますか。

私が主夫になった当初の約4年前は、『男は仕事』という固定観念が今よりも強かったように思います。平日の昼間にスーパーに買い物に行けば『男が昼間のスーパーで何しているの?』という視線を必ず感じました。多くの人の認識は『男が主夫をするなんてあり得ない』という感じだったのではないでしょうか。

それが今では、平日の昼間に一人でスーパーに買い物に行っても、そういう視線は感じなくなりました。また休日の公園に子どもと行けば、同じように子どもと父親だけで来ている親子を多く見かけるようになりました。

たった4年間で、非常に大きな変化です。現在は男性が家事育児に参加することがポジティブにとらえられるようになったと感じます。この先、この変化はますます加速するのではないでしょうか。


――主夫業をやっている4年の間に、急速な変化を感じたのですね。

サラリーマン時代に、仕事を抜けて長女の授業参観に行ったときは、参加している父親は私一人だけでした。今はそうじゃない。父親も見かけます。4年しか経っていないですけど、そういった変化はいろいろなところで感じています。

一番よく見かけるのは、父親のほうが抱っこ紐をしている姿ですよね。これもまた、私は8年前に長女が産まれて抱っこ紐をしていたときには、今ほどはいなかったように思います。

今って、親戚の20歳くらいの子とかを見ていると、とても女子力が高い男の子とか、料理を手伝ったりお皿を洗ったりするのが苦じゃない、家事に抵抗がない男の子が増えてきたのかな、と感じます。下の世代は、このまま自然に『家事育児は夫婦でするもの』という共通認識になっていくのかな、と思っています。


――なぜ、そのように変化したのでしょう。

単純に、時代の流れというか、男性も家事育児をやらざるを得なくて変わってきたのかなとも思いますし、SNSが発達したのも大きいと思います。
『家事育児は大変』という声が、今までは自分のまわりにしか届かなくて、まわりが『そんなことはない』と言えば、そこで終わっていましたよね。

今は、SNSで『大変』と言うと、たくさんの共感の声が集まって、『大変って言ってもいいんだな』と思える。そこで、実は大変なんだねっていうことが可視化されてきたのではないかと思います。

夫婦は常に会話して、嫌なことも包み隠さずに言えることが大事

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――実際に河内さんもSNSで発信されていますしね。家事育児をどちらか一人で完璧にこなすのではなく、夫婦二人でやっていくのが今後は当たり前になると、やはり基盤となるのは夫婦の仲なのかなと思います。河内さんが考える、理想の夫婦とはどのような形でしょうか。

これは『相手に対する嫌なことを包み隠さず言い合える夫婦』でしょうか。

人は、良い点はいくらでも言うのに『相手が嫌がること』は気を遣って言うのを止めるということが多々あると思います。これは人と円滑にコミュニケーションする上で大事なことですが、夫婦に限ってはマイナスだと思っています。

夫婦とは基本的に何十年も一緒にいることになるので、自分が嫌と感じる点を相手が『知らない』状態であることは絶対に避けるべき。知らないから人は人と衝突するわけですから、長時間一緒にいる夫婦なら、なおさら『知っている』ことが重要になります。


――河内さんも、夫婦での会話が多いとおっしゃっていましたよね。どういった話をよくしていますか。

その日あったことが主ですね。妻からはその日のできごと、私からは子どもたちのことでしょうか。あとはSNSでこの記事が面白かった、この映画が気になる……などの他愛ないことも話します。

それから共有しておいた方が良いことはいろいろありますが、最重要なことは、先ほども言いましたが『自分が相手の嫌に思った・感じたことをその場で言う』ことです。お互いにそこの地雷がわからないから、夫婦喧嘩が起こるわけですから。

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――夫婦ふたりの時期、子ども一人の時期、子ども二人の時期……と家族の形が変わってきたわけですが、夫婦の在り方に変化はありましたか?

夫婦二人の時期から何も変わりはないです。本当によく話をするので、そうすると相手の考えがいつの間にか変わっていたとしても、気づけるんです。つまり、考え方が変わっても、お互いの関係性には変わりがない。

『こう思うだろうな』と思って話を持ちかけると、やっぱり相手もそう感じているということも多いです。もともと私のほうが話をするのが好きだったのかもしれませんね。だからこうして、ブログの発信も続けられているのかなと思います。もともとは妻のアドバイスで、専業主夫時代に家事育児に関する思いを発信するために始めたブログでしたが、自分に合っていたのだと思いますね。


――現在も主夫業についてさまざまな意見を発信されていますが、今後は、どんなことを発信していきたいですか?

そもそも『シュフ(主婦・主夫)』っていう肩書き自体、いわゆる昭和の価値観ですよね。『男性は仕事、女性は家事育児』っていう時代にできたものなので。

これからの時代は、家事はあくまで“ついでにやるもの”っていう認識にしたいなと思うんです。ブログでも書いたのですが、家事は基本的に“後始末”なので。そうじゃない部分もありますけど、基本的には起きたことの後始末がほとんどです。それをメインの仕事にするのは、ちょっときついものがあるのではないかなと。

スマホもそうですし、今の世の中、たくさんのエンターテイメントに触れられますよね。その中で家事育児しかやらないっていうのは、もったいないと思うんです。これから、家事育児だけでなく自分のための時間も大切にする人が増えてくると思うのですが、できない人はSNSなどでその差を見せられて沈んでしまうんじゃないかという危惧もあって。

家事育児を『とりあえずやるもの』じゃなくて、別のやりたいこと、自分の主軸になるものを世のシュフの方たちがそれぞれ見つけられるような、自分なりの発信をしていきたいと思っています。

『主婦をサラリーマンにたとえたら想像以上にヤバくなった件』(主婦の友社)

河内瞬
元サラリーマンで、現在は主夫ブロガー。妻と小学生の娘二人の4人暮らし。サラリーマンから主夫に転身してわかった家事・育児の大変さについて、自身のブログ『主夫の日々』(https://www.kawauchisyun.com/)やTwitter、Instagram、noteなど各種SNSで発信している。ブログを書籍化した『主婦をサラリーマンにたとえたら想像以上にヤバくなった件』が発売中。

「夫婦のカタチ」特集をすべて見る!
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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。