12月10日、フィンランドで世界で最も若い女性首相が誕生した。

12月3日に辞任したアンティ・リンネ前首相の後任を決める投票で、連立与党第1党の社会民主党は前政権で交通・通信大臣を務めていたサンナ・マリン氏(34)を選出。
フィンランドでは3人目の女性首相ということだが、現職で世界最年少の首相となったのだ。

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そして、女性12人・男性7人、平均年齢47歳という新内閣が発足。
このニュースにSNSでは「素晴らしいですね」「日本ではなかなか考えられない事だなあ」という反応が続々寄せられているが、駐日フィンランド大使館の公式Twitterアカウント(@FinEmbTokyo)からは「女性大臣が12人というのは、10年以上前にもあったし、前内閣も11人だったからそんなに驚きではないかも」というコメントが発信された。

一見「世界最年少の女性首相」の誕生はまさに“女性活躍推進”“の最先端であり、驚きの顔ぶれといった感覚があるが、駐日フィンランド大使館に、マリン氏の経歴や、新内閣の顔ぶれが「驚きではない」理由について、お話を伺った。

自身の生い立ちから「社会支援と平等」を重視

――マリン氏の経歴について教えて?

マリン氏は1985年11月16日ヘルシンキ生まれ・タンペレ市在住。2018年に生まれた娘と夫の3人暮らしで、タンペレ大学で行政学の修士を取得しています。

2006年より積極的に政治活動に参加(フィンランドでは10代から青年組織を通して政治に関わっていきます)
2012年…タンペレ市議
2013年~2017年…タンペレ市議長
2017年~2021年…タンペレ市議
2014年 ~2017年…社会民主党、第2副党首
2015年…初出馬で国会議員に当選(フィンランドでは市議と国会議員を兼任できます)
2017年~ 社会民主党、第1副党首
2019年6月~2019年12月…交通・通信大臣
2019年12月~…首相

特筆すべき点は、フィンランド最年少(世界でも最年少)で首相になったことと、いわゆるレインボーファミリーで育ったこと(実母とその同性パートナーに育てられたこと)です。

駐日フィンランド大使館によると、マリン氏は親のアルコール依存と離婚、貧困を経験し、その後母親とその女性パートナーと生活。義務教育では成績は振るわなかったというが、高校時代に改善。自治体の施設に自分の居場所や仲間を見つけ、その後様々なアルバイトを経て家族初の大学生となり、政治の道へ進んだのだという。

歴代の首相に比べて特筆すべき点について挙がったのは、最年少の首相であることと「レインボーファミリー」で育ったこと。
マリン氏はこのような家庭環境の中で、「福祉制度と教師が救ってくれた」と語り、社会支援の重要性・平等の大切さを身をもって感じた経験から政治家になったのだという。
ただ、2015年に初当選し、わずか4年で首相にまでのぼりつめるのは日本の政界と比べるとやはり驚きだ。

「若さ」と「女性であること」は珍しくない

――「最年少」かつ「女性」というポイントが注目されていますが?

お伝えしておきたいのは、「世界最年少・女性」というポイントはフィンランドをのぞく世界で注目を浴びていますが、フィンランド国内ではもはや「若さ・女性」という点は珍しくありません。
このニュースに対するフィンランド国民の受け止め方としては「年齢や性別に関係なく、スキルや才能が重視されて、その立場にふさわしい人がきちんと着任できて力を発揮できる自国のシステムを誇らしく思っている」というところでしょうか。
なので別に「若い女性」だけに限った話ではなく、年齢や性別に関係なく能力を発揮できる社会になっているのがフィンランドです。


――では、フィンランドでは「女性活躍」が進んでいるというわけではなく…

フィンランドは男女平等が進んでいる国として知られ、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2018」ではフィンランドは4位でした。世界で初となる1906年に女性に選挙権と被選挙権を認めた国であり、1907年に当選した女性国会議員は19名、その中から初の女性大臣(ミーナ・シッランパー氏)も誕生しています。
また、タルヤ・ハロネン氏が2000年にフィンランド初の女性大統領として就任し、計12年、2期にわたって国の頂点にいたことも大きいのではないでしょうか。現在30代の女性政治家は、政治活動を始めたり、政治に関心を持ちはじめるティーンエイジャーの頃に、このハロネン大統領が世界で活躍していました。そうした姿を見ている女性たちにとっては、女性が政界でも活躍するのは当たり前のことだったのではないかと思います。

国会議員数で見れば、現在は200議席のうち92名(46%)が女性になっています。女性議員が増えれば、当然女性にまつわる権利向上・法律施行が増えていきます。女性議員の数は第二次世界大戦後に伸びはじめ、1960年代に急速に増え出しました。1970年には20%を超え、1983年に30%を突破、2007年には40%以上になりました。ちなみに、1980年代生まれの国会議員は25%。なかには90年代生まれの議員もいます。
女性大臣の数が男性大臣の数を初めて上回ったのは、2007年の第二次ヴァンハネン内閣になります。

先日、大使館内でフィンランド人研修生の女性が「平等っていうのは、何も男女が半々になることじゃない。平等に機会が与えられる、という意味で、機会均等のもと成長できる能力ある者が出世していく。(連立政権を組む他4政党の党首全員が女性、そのうち3名が30代前半なのを受けて)今回の結果は、実力・才能ある人たちがたまたま彼女たちだった、というだけの話」と言っていたことが、今の状況を上手く表現できているように思います。

大使館によると、「年齢」と「性別」はフィンランド国内では大きく注目されているポイントではないという。

改めて、フィンランドで発足した新内閣は女性12人・男性7人、平均年齢47歳となっているが、日本の安倍内閣は、9月の改造を受け平均年齢は61歳。最年少は小泉進次郎環境大臣(38)であり、女性閣僚は現在19人中3人(改造当時は2人だったが、その後辞任した大臣の後任で1人増)となっている。

日本から見ると「女性を積極的に登用している」と見えるかもしれないが、男女平等が進むフィンランドでは、女性の政界進出の早さから育った、女性が当たり前に政治の世界で活躍する土壌、そしてそれを背景にした性別や年齢にとらわれずスキルや才能が重視される価値観があるということだった。


今回、世界に驚きを与えたマリン氏の首相就任。
一方で、このニュースを見て年齢や性別に衝撃を受けたということは、まだまだ真の意味での男女平等に遠いのではないか、とも思える。
今後日本で「女性活躍」を推進していく中で、この若き女性首相が生まれた背景に「年齢や性別に関係なく能力を発揮できる社会」があることを心に留めておきたい。

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プライムオンライン編集部
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