「よそ者」の侵入を阻んできたアフガニスタン “外国人”中村医師を狙い銃撃

カテゴリ:ワールド

  • アフガニスタンで復興支援活動に従事してきた中村哲医師が銃撃され死亡
  • 事件があったナンガルハル州では「イスラム国」が勢力を拡大している
  • 掃討作戦でダメージを受けても「イスラム国」の壊滅はなお遠い

中村哲医師が銃撃され死亡

アフガニスタンで復興支援活動に従事してきた日本人医師、中村哲氏が銃撃され死亡した。現地メディアは、中村氏の乗っていた車が銃撃され、運転手1人と警備担当者4人が死亡したと報じ、事件の発生したナンガルハル州の知事報道官がその後、中村氏の死亡を発表した。

アフガニスタンで襲撃され死亡した中村哲医師(画像提供:ペシャワール会)

アフガニスタンのイスラム武装勢力タリバンの報道官ザビーフッラー・ムジャーヒド氏はツイッターで、この攻撃についてのタリバンの関与を否定した。しかしその真偽は明らかではない。

またタリバンが実際に無関係であった場合も、別のイスラム過激派の関与は否定できない。アフガニスタンの、特に事件があったナンガルハル州は、「イスラム国」勢力が強いことで知られているからだ。

事件が発生したナンガルハル州ジャララバード

勢力を拡大させる「イスラム国」の存在

「イスラム国」は2015年1月、アフガニスタンとパキスタンにまたがる地域に「イスラム国・ホラサーン州」の設立を宣言した。

アフガニスタンの「イスラム国」は去年、首都カーブルだけでも20件以上のテロ攻撃を実行した。今年8月には、カーブルの結婚式会場で自爆テロを行い、63人が死亡した。

アメリカは2001年の米同時多発テロ後、タリバンがアルカイダを匿っているとしてアフガニスタンに軍事侵攻して以来、現在も1万3000人の兵士を駐留させている。米軍駐留の継続の必要性を主張する人々があげる理由のひとつが、この「イスラム国」の存在だった。彼らはアフガニスタン政府軍もタリバンも、「イスラム国」を倒すことはできないだろうと踏んでいたからだ。

アフガニスタンではタリバンと政府軍の戦いが続いてきたものの、長年「よそ者」の侵入は阻まれてきた。しかし「イスラム国」は確かにアフガニスタンに入り込み、間違いなく勢力を拡大させ、一部では支配領域も獲得した。

中村さんが銃撃されたと思われる現場(現地メディアのツイッターより)

今年に入り、アフガニスタン政府軍はアメリカ軍と共に満を持して掃討作戦を実施し、アフガニスタンのガニ大統領は11月、ナンガルハル州の「イスラム国」を壊滅させたと宣言した。

一方アフガニスタン駐留NATO軍のミラー司令官は今月1日、「イスラム国」はアフガニスタンで領土を失いはしたが、各地に多数のスリーパーセルがある以上、変わらずアフガニスタンの脅威であり続けるだろうと警告し、シリアとイランで「イスラム国」が領土消失後もテロ活動を継続していることを実例として挙げた。

中村さんが乗っていたとみられる車の窓ガラスに残る銃弾による穴(現地メディアのツイッターより)

「イスラム国」の問題は、ある地域で「イスラム国」の領土を奪還しても、多くの戦闘員を殺害しても解決されない。

「イスラム国」は指導者の死ですら大きな損害とはならないことも、10月の米作戦によるバグダーディーの死によって明らかになった。

米国務省のセールス・テロ対策調整官は、「イスラム国」イデオロギーが広まり続ける限り、「イスラム国」はアメリカにとって最大の安全保障課題であり続けると述べ、バグダーディーが死んでも「イスラム国」の壊滅はなお遠いと指摘した。

イスラム過激派をテロへと駆り立てるものは

「イスラム国」やアルカイダといったイスラム過激派の原因は、アメリカの中東政策のせいだとか、大戦後にヨーロッパ列強が中東に国境線を勝手に引いたせいだとか、それ以前の植民地支配が原因だ、といった「外部原因説」を唱える「有識者」は非常に多い。しかしこれは誤りだ。

それらは確かに、イスラム過激派勃興の要因のひとつではある。しかしイスラム過激派をテロへと駆り立てている根本にあるのは、ジハードというイスラム教の教義に由来するイデオロギーなのだ。そのことは米国務省だけではなく、イスラム過激派テロと前線で戦うあらゆる国の当局者たちの共通認識である。

アフガニスタンで「イスラム国」が勢力を拡大した要因の一つは、タリバンがアメリカと和平協議を開始したことを批判し、あくまでも戦闘を継続し、イスラム法の統治する「イスラム首長国」を建国すべきだと考える強硬派がタリバンを離反し、「イスラム国」入りしたことにある。

是が非でも米軍に立ち去ってもらいたいタリバンと、アフガニスタンからの米軍撤退を成し遂げたいトランプ政権の利害は一致していたため、話し合いは思いのほか順調に進んでいるように見えた。

ところが今年9月、タリバンが米兵を殺害したのを機にトランプ氏が和平協議の中断を宣言、先週になってアフガニスタンを電撃訪問した同氏が協議の再開を発表した。

アフガニスタンを電撃訪問しアシュラフ・ガニ大統領と会談するトランプ大統領

目まぐるしく動くアフガニスタン情勢

アフガニスタン情勢は、目まぐるしく動いている。

中村氏が銃撃されたナンガルハルには、掃討作戦で大きなダメージを受けつつも、ゲリラ的なテロ活動に転じ再起をめざす「イスラム国」が存在している。そしてもちろん、広い領域を支配するタリバンもいる。

アフガニスタンにおいて「イスラム国」とタリバンは、互いに殺し合い、武器や領土を奪い合うライバル関係にある。しかし彼らは異教徒を敵視し憎んでいるという点においては、同じイデオロギーを共有している。

中村氏を銃撃した犯人が誰なのかはわからない。

しかし現地メディアの報道からは、同氏の乗った車が狙い撃ちにされたことがうかがわれる。

事件を伝える現地メディアのツイッターより

アフガニスタンの人々に寄り添った中村医師

中村氏は長年、アフガニスタンの人々に寄り添い、復興事業に携わってきた。アフガニスタン政府からは名誉市民権を得るほど、その貢献が讃えられてきた。

しかし異教徒を敵視しジハードを行うイスラム過激派は、外国の支援を受けるアフガニスタン政府とは敵対関係にある。

彼らが外国人に向ける眼差しは複雑だ。

長年に渡り復興事業に力を尽くした中村医師の功績は語り尽くせない
アフガニスタンから名誉市民権も授与された中村医師

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】

【画像提供:ペシャワール会】

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