旧民主党主催の「近現代史研究会」

仕事柄「勉強会」というものにいくつか参加している。政治家、官僚、学者らの話を聞くのだが、数えてみたら、「政局」が2つ、「政治と文化」、「外交安保」、「小林秀雄読書会」、「各省次官」、「世論調査」そして「近現代史」と8つもあった。

その中で、こんな面白い話が無料で聞けるいい勉強会はあまり他人に教えたくない、と思い、皆勤賞で通っていたのが旧民主党主催の「近現代史研究会」だ。

民主党政権で官房副長官だった松井孝治氏に誘われて初めて行ったのは2010年頃。筒井清忠・帝京大教授によるテーマと講演者のセレクトが抜群で、民主党の勉強会なのに全然左寄りではないのが大変気に入った。

政治家だけでなくメディア、一般市民にもオープンだった。社民党出身の辻元清美さんもよく来ていたが、熱心に聞いておられ、「民主党というのは時々変な方向に行くことはあるが、歴史観に関しては大丈夫なんだな」と安心していたものだ。

与野党合同勉強会

僕の大好きだったこの勉強会が突然終わってしまったのは今から2年前、民進党が分裂した時だった。当時事務局長をしていた古川元久氏(国民民主)と逢坂誠二氏(立憲民主)の2人に某所で会った際、「あなた方が喧嘩別れしても別にいいけど、あの勉強会だけは絶対に復活させて」と陳情したのだが、二人とも「わかりました」とニコニコするだけで動きがないまま2年が過ぎたのだった。

それが先週突然復活した。しかも与野党合同の勉強会に姿を変えた。実は自民党は谷垣幹事長時代の2015年に「歴史を学び未来を考える本部」を作って近現代史を研究した。その時の会長だった谷垣氏と事務局長の稲田朋美氏も姿を見せた。古川氏も逢坂氏もいた。他に小泉進次郎環境相も世話人に名を連ねている(不肖平井も勉強会再開を力技で実現させた松井氏の命で世話人)。

古川元久氏(国民民主)と逢坂誠二氏(立憲民主)の姿も(画像提供:創発プラットフォーム)
古川元久氏(国民民主)と逢坂誠二氏(立憲民主)の姿も(画像提供:創発プラットフォーム)
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熱心に耳を傾けていた稲田朋美議員 (画像提供:創発プラットフォーム)
熱心に耳を傾けていた稲田朋美議員 (画像提供:創発プラットフォーム)

「戦前昭和史に何を学ぶか」とのタイトルで行われた再開第一回の講義で筒井教授は、戦前の党利党略に憂き身をやつす政党政治への国民の嫌悪感が、「中立的」と考えられたもの(天皇・官僚・警察・軍部等)の台頭を導き出した、と指摘した上で、それをあおったメディアも厳しく批判した。

戦前の日本は大正デモクラシーにより普通選挙が実施されたが、皮肉にもこの結果生まれた政党政治が党利党略に走って、それを嫌った国民は軍部や天皇への期待を高め、やがて日本は戦争に突入する。

現代は戦前と状況があまりにも似ている

これを現代の日本に置き換えると、平成初頭に政治改革が行われ2大政党制が始まったが、2年前の民進党分裂により2大政党制は崩壊し、政党は党利党略に走り、メディアはこれを揶揄し、国民は政治に絶望している。戦前と状況が恐ろしいほどに似ているのだ。

車椅子で元気そうに現れた谷垣元自民党総裁は「社会も政治も曲がり角だからこそ、もう一度歴史を勉強したい」と勉強会への期待を述べた。

谷垣禎一元自民党総裁 (画像提供:創発プラットフォーム)
谷垣禎一元自民党総裁 (画像提供:創発プラットフォーム)

現代の日本で国民は政党政治に絶望したからと言って、戦前のように軍部や天皇に過大な期待をすることはないだろう。ただ世界中で既存政治への不信がポピュリズムを産み出しているのも事実で、その波は日本にも押し寄せつつある。

この悪い流れをどう正常に戻せばいいのか、正直わからない。おそらく歴史を学び考えるしかないのだろう。しばらくこの研究会に通ってもう一度歴史を勉強してみようと思う。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。