「写り込み」や「数コマ」のダウンロードはOK

あなたは今年の春に見送られた「ダウンロード違法化」を覚えているだろうか?

もともと、違法にアップロードされた「音楽・映像」をダウンロードすることは2010年から規制されている。

2018年からは、さらなる海賊版対策のために、その対象範囲を広げて、書籍やマンガなど静止画のダウンロード違法化の検討がスタート

文化庁は、2019年2月に報告書をまとめるなど著作権法改正案の準備を着々と進めていた。

ところが、著作物を含むスクリーンショットやコピー&ペーストも規制されることを不安視するネットユーザーの懸念が大きな話題となり、また法律の専門家が不備を指摘するなど各方面から反対の声が噴出。
さらに、違法ダウンロードで被害を受けている側のマンガ関係者からも反対意見が上がったこともあり、結局、「ダウンロード違法化」を盛り込んだ著作権法改正案は3月に見送りが決定したのだ。

参考記事:「ダウンロード違法化」対象拡大…“マンガ学会”が反対する真意を聞いた

しかし「ダウンロード違法化」の火は消えたわけではなかった。

11月27日、文化庁は「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」を開催。
かつて「ダウンロード違法化」の危険性を訴えたマンガ家の赤松健さんをはじめ、各界の有識者が集まり、新たな制度設計の検討を重ねるという。

DL違法化の事例案(1部) 出典:文化庁
DL違法化の事例案(1部) 出典:文化庁
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今回の検討会では、以前と違い「軽微」なものは違法化対象から除外していて、文化庁の資料には次の場合は「適法」だと書かれている。

・重要な情報(適法にアップロードされたもの)をスクリーンショットで保存しようとする際に、違法にアップロードされた画像が付随的に入り込む場合
・数十ページで構成される漫画の1コマ~数コマ、長文で構成される論文の数行など(軽微なもの)のダウンロード

例えばTwitterのスクリーンショットを撮るとき、違法にアップロードしたアニメアイコンが「写り込んでしまう場合」や、勝手にアップロードされたマンガを「数コマ」だけダウンロードする場合はOKだという。

これだけ聞くと、線引きが曖昧な気がするが「数コマ」とは具体的に何コマなのか?そもそもどうして、以前はダメだったものを違法ではないと変更したのか?
文化庁の担当者に聞いてみた。

一般的な行為が違法にならないように配慮した

――前は「ダメ」なことを「違法ではない」に変えたのはなぜ?

前回法案が見送りになったのは、国民の皆さんが多くの懸念を示して理解が得られなかったためです。
文化庁の方針は、そのような事態に対応することにあります。その具体策として、著作権を侵害しているコンテンツが「写り込む」とか、「一コマだけダウンロードする」という「軽微」なものは違法にしなくてもいいのではないかという提案を今日示したのです。

――これまでの海賊版対策の効果は出ていない?

これまでも違法にアップロードする行為には罰則がありました。
しかし、それでは抑えられないような悪質な事例や巧妙な手口が増えてきたということです。

例えば、侵害コンテンツのリンクをたくさん集約している「リーチサイト」は、直権侵害にはならないので、なかなかサイトを閉じないというケースがあります。

また、ダウンロード行為は「音楽・映像」だけが規制されているので、マンガなどはユーザーが問題ないと思ってダウンロードしているという状況があります。
海賊版は本当はダメなはずなんですが、法律が十分ではないため被害がどんどん拡大している状況ですので、まず「リーチサイト」という窓口になっているサイトを違法にする。
そして、そこからダウンロードしているユーザーの行為も一定の要件のもとで違法にする、この2つをやろうとしています


――「軽微」OKになると、どういう人たちに恩恵がある?

ネット上で広く行われている行為を違法にするのは問題ではないかという指摘がありました。
悪いことだと確信しているのに海賊版サイトからダウンロードしている人を取り締まる反面、善良なユーザーが一般的にしているような行為は違法にならないようにしなければなりません。

また、Twitterなどでは、よくマンガの1コマだけというケースが見受けられますが、そのような画像のダウンロードまで、いちいち規制しなくても海賊版対策にはそれほど大きな悪影響はありません。
「恩恵」とはちょっと違いますが、一般ユーザーの行為にあまり影響がないように配慮しているのです。

1コマでもDLしちゃダメなケースもある

――ダウンロードしていい「数コマ」って何コマ?

条文には「軽微なものは除く」のように書かれます。
例えば、数10ページあるマンガの1コマは間違いなく軽微なので、適法になるでしょう。
「何コマ」かというのは、法解釈で一義的には決まらないところです。
「1話の半分をダウンロードしたら軽微ではないだろう」など、常識的なところで理解していただくことになると思います。

また作品のボリュームによっても変わってくるかもしれません。
今日の会議でマンガ家の赤松健さんから、「1コママンガの場合、1コマダウンロードされるのは軽微じゃないですよね?」という確認がありました。

――ダウンロードやスクショしたマンガを家族メールするのはOK?

それは問題ありません。
もともとこの規定の大本には、私的使用にとどまればよいという考え方があります。
私的とは個人や家庭内などを想定しているので、家族で共有することも違法になりません。
今回の議論でOKとしているものは、私的使用の範囲なら問題ないという事です。

――では、アップロードするのはOK?

アップロードは全然違う行為で、現行の著作権法で違法です。

目標としては2020年1月に法案提出

――検討会はいつまでつづく?

特に決まっていません。
目標としては次の通常国会(1月)があり、うまくまとまればそこに法案として提出したいと考えています。
しかし議論がまとまらないようであれば検討会を重ねるということになります。

――これで海賊版はなくなる?

完全になくなるというのはありえません。
海賊版サイトは悪質で巧妙な手口をいろいろ使うので、1つの対策でOKとなることはあり得ないでしょう。
ですので、少しでも被害を減らしたいと考えています。

海賊版サイトは、上位10サイト中、7つがダウンロード形式なので、この「ダウンロード違法化」によって全体としては相当な効果が見込めると思っています。

気をつけてほしいのは、現在議論されているのはダウンロードの話で、Twitterなどにアップする行為は違法になる。
一般ユーザーの行為にあまり影響がないように配慮したということだが、その線引きなど検討会がこれからどんな結論を出すのか注視していきたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。