2018年9月6日に北海道胆振地方を震源とする地震が発生。震災の影響で観光客が減り、北海道では現在も風評被害に悩まされている地域があるという。

そこで1日も早い復興を願い、被災地支援につながるように美しい北海道の大自然を撮影。

テレビドラマ「北の国から」で知られ富良野で暮らす、日本の脚本家の第一人者・倉本聰さんへのインタビューとともに、その魅力を紹介する。

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倉本が東京から富良野に移住した理由

倉本さんが東京から北海道にやってきたのは1974年頃。その頃は倉本さんも若くて尖っていたそうで、仕事などでいろいろあってテレビ局と衝突。札幌に滞在した際に北海道の人や町の大らかさを気に入り、移住に適した土地を探していたときに出会ったのが「富良野」だったという。

場所は一目で気に入ったという北の峰で、当時は水も電気もない自然豊かなところ。さらには釧路に向かう特急が富良野を通らなくなり、かつての“静かな富良野に戻る” というタイミングだった。そして、ここでの実体験から作られた話が「北の国から」となる。

「北の国から」撮影の舞台 黒板五郎の石の家
「北の国から」撮影の舞台 黒板五郎の石の家

その「北の国から」は始まると大ヒット。ドラマをきっかけに富良野に観光客が来るようになったと言っても過言ではないかもしれない。

しかし、この状況に倉本さんは「『北の国から』をやったのがとにかく僕の大失敗で、あんなことやったために人がどんそこ来ちゃって、静かに暮らせるつもりが静かじゃなくなっちゃったわけだよね。だから迷惑してるのよ」と、倉本さん特有のブラックユーモアで明かす。

「例えばさぁ、自分がすごくきれいないい女ができて、それを人に見せたい? 見せたくないだろ? 自分一人で囲っときたいだろ? それだったんだよ俺は、富良野は! 」

ということらしい。

脚本家や俳優の養成施設「富良野塾」を、1984年に開塾した理由もユニークだ。

「富良野塾作っちゃったのが、あまりにもテレビっていうものが腹立たしくなっちゃったから。どうしてテレビってこんなに儲けてるくせになんにも後進を育てないのか、今のままでいいのかっていうのが」との思いがあったという。

倉本さんのこの思いに呼応するかのように、毎年全国から脚本家や役者を目指す志望者が殺到。入塾の倍率は最高40倍で、選ばれた濃くて熱くるしい若い男女が40人くらいずつ共同生活を送っていた。今でいう、テラスハウスのハシリだったとか。

そんな富良野塾は、26年続くも2010年に閉塾。

塾からは計375人の若者が巣立ち、大半は富良野から去ったが、今でも42人が街に残って倉本さんを支えながら生活している。そして、この卒塾生らが親となり、子どもは30人。倉本さんと同じように、富良野の自然豊かな風景に魅せられたのかもしれない。

富良野のラベンダー畑
富良野のラベンダー畑

好きな季節は「絶対的に冬」

四季折々に全く別の顔を見せてくれる富良野。その中で、倉本さんが特に好きな季節は冬だ。

「絶対的に冬。冬寒いからみんな入らないじゃない、山とか。だからざまぁみろだよね。誰も入ってこないから。来てるのは鹿とかさ狐とかウサギの足跡だけだよね。あいつらはちゃんと見てる。いいところを」ということらしい。

続けて絶景ポイントを尋ねると、倉本さんは「教えてたまるもんか!」とまずは一言。

その理由については「例えばラベンダーがあるじゃない。するとラベンダーの時期、ラベンダーの山に向かってみんなが海水浴に行くみたいにそっち見るわけだよ。ところがそこの背中を向けてるこっち側にはちょうどあの時期っていうのはじゃがいもの畑が花畑でキレイなんですよ」と明かしてくれた。

「誰もジャガイモの花を見ようとしない。そういう意味で言うとそこら辺の道、田舎道入っていくとなんともきれいなとこあるよね。でもそれ見ないんだよねみんな」とも。

じゃがいもの花畑
じゃがいもの花畑

「落ち葉には1枚1枚に未来に伝えるべき遺言が書かれている」

自然豊かな地に長く暮らして磨かれた感性からなのか、倉本さんは“落ち葉”についても独特な視点で見つめている。この言葉はそのままお伝えしたい。

「落ち葉にはね1枚1枚に未来に伝えるべき遺言が書かれている気がするのね。落ち葉1枚1枚に。

そういうふうに生きてるものと対話してくとさ、だって春先に葉っぱが出て初めてそれが葉っぱになって、育って、ずっとこう成長してって人間に水やら空気やらこうくれてそれで一生終えて、終えてないんだよね。

そこで紅葉したりして地べたへ行って、それから土を作るわけじゃない。
そうすると我々は街路樹の落ち葉をごみだってみんなはき捨てることばっかり考えちゃうけどもそうじゃなくて1枚1枚にものすごくなんかこう、葉っぱの遺言が書かれてる気がするのね。

だからそういう風に考えると時間がさ、つまんないものに興味を持つより時間がいるでしょ? だからスマホなんかやってる時間ないし自然見てる方がいっぱいいろんな情報というかそういうのがわかるよね」

北海道には数えきれないほどの美しい大自然が存在する(画像は美瑛の青い池)
北海道には数えきれないほどの美しい大自然が存在する(画像は美瑛の青い池)

富良野塾閉塾から8年、卒塾生の今の思い

最後に卒業生のひとりで現在も富良野に住み、高校の講師と役者を兼ねる久保隆徳さんの言葉も紹介しよう。

「僕らが塾生だった頃は精神的にまだ子どもで、先生の言ってたことの3割も解らなかったんじゃないかな。

昼間は作家の仕事をして、毎晩、麓郷の真っ暗な道を車で飛ばして来て、夜中まで講義して、笑って、怒って、全力でぶつけてくる先生の知識や知恵や感情を受け止めきれなかったと思うんだよね…。

でもこの歳になって思うことは、少しでも先生のやりたかったことを次の世代に伝えなきゃって思うのよ。こんなに演技やイベント、物づくりと密着している田舎の街はないと思うよ、うん」

富良野の雲海
富良野の雲海

現在84歳。
今でも元気に愛煙家でジャックダニエルを飲み、中華も肉も大好きな現役クリエイターの倉本さん。そして、富良野塾の閉塾後も引き続き暮らす卒塾生たち。出身者でないからこそ、富良野の魅力に引き込まれたのかもしれない。

協力:BSフジ、F.C.S. 、富良野プリンスホテル
【先進映像協会 ルミエール・ジャパン・アワード】《特別賞》受賞
「<北海道観光応援企画> 『富良野と僕らと倉本聰』」より

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。