11月7日、トランポリンの強豪、金沢学院大学クラブ。木々も色つきはじめたキャンパスの奥の体育館では、バネのきしむ音が絶え間なく、響いていた。トレーニングを行っていたのは、森ひかる選手20歳。
東京オリンピックでは日本勢初のメダル獲得も期待される、トランポリン界の逸材だ。

今月末に開幕する世界選手権で、オリンピック出場権獲得を目指している。

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驚異の史上最年少優勝・武器はトリフィス

森選手を一躍有名にしたのは、2013年の全日本選手権。
当時14歳だった彼女は、大舞台に物怖じすることなく、史上最年少で優勝。
天才少女の名は全国へと広がった。

彼女の武器は、3回宙返り、通称“トリフィス”と呼ばれる大技だ。
中学ですでに2種類のトリフィスを習得し、演技に組み込んでいた森選手。
リオオリンピックは年齢制限で出られなかったが、東京オリンピック出場へむけ高校1年の時、大きな決断をする。

金沢の強豪で身につけた揺るぎなき美しさ

それは、いわばトランポリン留学。
東京を離れ、トランポリンのさかんな金沢へと母と一緒に移り住んだ。
選んだのは強豪、金沢学院大学クラブ、シドニーオリンピックで6位入賞を果たした丸山(旧姓 古)章子コーチの指導の下、より美しい、安定した演技を目指した。
練習でのジャンプは、トランポリンの横に取り付けられたモニタですぐに確認が可能。
自らの感覚と実際のジャンプを見比べることで、体の動き方やズレなども客観視することができる。
さらに、練習中に気づいたことはノートに書き留め荒削りだった演技は世界トップレベルに洗練されていく。
一方で、『これまでは技の難しさだけで勝ってきたが、まずはいい演技を作ってから』と武器のトリフィスは最大でも1本のみに抑えた構成に変えた。

超えろ世界の壁!

シドニーオリンピックで正式採用されたトランポリン。
10本の違う種類のジャンプを続けて飛び、
・技の難しさに応じた難度点、
・出来映えを表す演技点、
・高さを表す跳躍時間点、
・横移動の少なさを示す移動点、
の4つの合計点で争われる。
つまり、いかに難しい技を、美しく、高く、中心から外れることなく演技できるかを競う。

去年行われた世界選手権で、森選手は5位。
それぞれの項目を見てみると、高さを表す跳躍時間点では決勝8人中トップのスコア、そして移動点でもメダリストと互角だ。
一方、技の難度では上位選手との差が目立っていた。
『低い難度でやってきて、自分の100%の力を出してもメダルが取れなかった。』と、課題は明確だった。
世界との差を埋めるため技の難しさ、難度を上げる必要があった。

オリンピックまで1年を切ったこの秋、森選手はついにトリフィスを2本くみこむ構成をついに解禁した。実に中学3年の時以来だ。
『中学のころはそれが武器だったので、その武器が戻ってきたというか、自分にとっては強み』と、2種類のトリフィスを入れた構成で、9月のW杯第3戦ロシア大会では銀メダル獲得。
さらに10月、スペインでの第4戦でも銅メダル、技の難度を上げながら、美しく、高い演技を保つ。
相反する要素を森選手は両立させて行く。

そして今月2日・3日、全日本選手権が愛知県・ドルフィンズアリーナで開催された。森選手にとっては、連覇がかかる。
テーマは『挑戦』と位置づけていた大会。
予選から「トリフィス2本」の構成で首位スタート、
しかし、『台に合わすことができなかった。全然だめ、切り替えたい』と目指すのはもう1段高い演技の完成度。
自分に厳しく反省の言葉を口にしていた。

そして翌日、迎えた準決勝
1つ目、、、
さらに3つ目のジャンプで
大技トリフィスを入れた難度の高い構成で再び挑む。
しかし徐々にジャンプが中心を外れていき、7つ目のジャンプで途中中断。
これが一発勝負のトランポリンの怖さだった。
前回女王がまさかの準決勝敗退。
悔しさからか、手をひざにつき、しばらく動くことができない。
演技後、報道陣の質問に対し、『3回転が2本入ってくると、立て直すのも後に響いてしまう。そこが難しい。
これが世界選手権だったら本当にもうダメ、しっかり反省してつなげたい』と、言葉を絞り出した。

勝負の時へ、「絶対に枠をとる!」

全日本選手権から4日後、
金沢の体育館には、変わらず、トランポリンのバネの音が響いていた。
「元気です!!」と笑顔をみせた森選手。
東京オリンピック出場をかけた大一番がまもなくやって来る。
今月28日、本番会場と同じ有明で世界選手権が開幕。
そこで上位8人による決勝に進出し、日本人最上位ならオリンピック出場が決まる。

数え切れないほどのジャンプを見守ってきた体育館の壁には森選手の2019年の目標が張られていた。

“絶対にオリンピックの枠をとる”

大勢の記者に囲まれ、会見で改めて語った決意の言葉も・・・。

森:『本番では私が絶対にオリンピックの枠をとる、絶対にメダルをとるという強い気持ちを持って世界選手権に臨みたい』

4歳のころデパートの屋上でトランポリンに出会い、「空を飛んでいるみたい」と時間を忘れ飛び続けた森選手。
小さな頃からオリンピックは夢であり、目標だった。
強い気持ちでその切符を勝ち取る日がすぐそこに迫っている。

森選手の現在の演技構成
(2本のトリフィス(3回宙返り)を入れ、難度点は合計14.4点)
1 前方3回宙返り半ひねり(屈伸)パイクトリフィスハーフアウト
2 後方2回宙返り(屈伸)
3 前方3回宙返り半ひねり(抱え込み)タックトリフィスハーフアウト
4 後方1回転目半ひねり、2回転目半ひねり(抱え込み)
5 前方1回転目ひねりなし、2回転目1回半ひねり(屈伸)
6 後方1回転目半ひねり、2回転目半ひねり(屈伸)
7 前方1回転目1回ひねり、2回転目半ひねり(屈伸)
8 後方2回宙返り(抱え込み)
9 前方1回転目ひねりなし、2回転目半ひねり(屈伸)
10 後方1回転目1回ひねり、2回転目1回ひねり(伸身)

(フジテレビ報道スポーツ部・井上敦)

井上敦
井上敦