人の思考の限界を技術で解決

みずほ銀行の新入社員が受けているのは、ロールプレイング研修。この研修の鍵になるのは各テーブルに置かれたタブレットだ。研修での会話をタブレットで録音し、その内容をAI(人工知能) に分析させるという。

「UpSighter」
「UpSighter」
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今回取材させてもらったのは、先輩社員を相手に研修する入社1年目の鈴木さん。
先輩社員は71歳の既婚女性のお客さんという設定で、会話をしながら、真のニーズは何かを引き出す。

 
 

鈴木さん:
こちらのご資金は、しばらく今のまま普通預金に置かれている予定ですか?

女性客役の先輩社員:
しばらくは使わないので、何かお話は聞いてもいいのかなと

 
 

この会話をAIによって文脈解析するのがタブレットを使った「UpSighter」というシステム。

会話を全て録音し、文字起こしをしたうえでAIが会話の構成を分類し、会話の内容を分析する。

 
 

経験だけに頼った指導の属人化が課題だった

このシステムをみずほ銀行が導入したのには、ある理由があった。

みずほ銀行グローバルキャリア戦略室・山本健太さん:
指導の属人化が課題だと思っていたので、その人の切り口や観点、今までの経験から、新入社員に対して『こうしたほうがいい』『ああしたほうがいい』と指導してしまうんですね

研修から1カ月、新入社員たちの手元にレポートが戻ってきた。
果たして鈴木さんの結果は...

 
 

文字起こしされたものを見てみると、その会話の内容が「説明」にあたるのか、話の「起点」となるのか、「根拠や事例」にあたるのか、など細かく分析されている。

鈴木さんの結果
鈴木さんの結果

先輩社員との比較のグラフでは、「根拠や事例」となる話題がやや少なく、「説明」が多いという解析結果に。
一方で、対話の始まりとなる「起点となる話題」は、新人としてはかなり多く出せていたという結果となった。

先輩社員との比較グラフ
先輩社員との比較グラフ

新入社員・鈴木さん:
自分の口癖や展開の不自然さというのも明確にわかったのでそこは直していけたらなと思います

みずほ銀行グローバルキャリア戦略室・山本健太さん:
指導する側も、今までの指導の仕方に加え、このレポートがあることで、気づかなかった着眼点に気づけて、指導がよりレベルアップすると…

 
 

思い込みや経験値だけに頼ると、自分の言いたいことだけを言ってしまう

現在、みずほ銀行のほかにも、省庁や大手企業で取り入れられているこのシステム。
開発したコグニティの河野理愛社長は、「人間の思考の限界をサポートしたい」と話す。

コグニティ・河野理愛社長:
技術の力で思考のバイアスを取る…いわゆる思い込みや経験値だけに頼って話を判断していると、相手の思っていることがわからなくて、自分の言いたいことだけ言ってしまう。今、情報がたくさん取れるからこそ、どう取っていいのかわからないという…人間の限界が来ていると思うので、そこをサポートすれば、もっといい世界になるだろうと…

コグニティ・河野社長
コグニティ・河野社長

働く人たちは、AIと先輩、どちらに教えてもらうほうがいいのか?街でホンネを聞いてみると・・・

先輩に教えてもらいたい営業職(30代):
先輩ですね。感情を大事にするのが営業なのかなと思う。そこは、人の気持ちを大事にしている人から教わったほうがいい

先輩に教えてもらいたい営業職(30代)
先輩に教えてもらいたい営業職(30代)

AIに教えてもらいたいSE職(40代):
わたしはAIのほうがいいです。私情が入らず、その人の感情ではないので、客観的なデータとして判断ができるのかなと

先輩に教えてもらいたいマーケティング職(20代):
AIは『YES』か『NO』しかない気がして…先輩に聞いてて本当は若干まだわかっていなくても、忙しそうだから『もう大丈夫です』と言えば、多分AIはそれで終わると思うんです。でも先輩は多分『大丈夫だよ、もう少し聞いていいよ』と言ってくれると思うんですよ。そこをくみ取ってくれるのが人間だなという印象です

AIに教えてもらいたいSE職(20代):
AIは場所とか時間を選ばずに聞くことができる。今後、わたしも転職を考えていて、年下に学ばないといけない場面もきっとあると思うので、そういう意味ではAIのほうが聞きやすいのかなって

AIに教えてもらいたいSE職(20代)
AIに教えてもらいたいSE職(20代)

SE職(50代):
Q:後輩に仕事を教えるなら自分かAIか?)それはAIです。ミスがなく、系統立てて、漏れがなく、その業務を行うのに必要なものが漏れなく教えてもらえる可能性が高い。わたしの教え方では、つたない可能性が非常にありますので…

教えながら学ぶこともあるので機械には頼りすぎずに・・・

Live News αのスタジオではIoT/AIの専門メディアを運営する小泉耕二さんに話を聞いた。

三田友梨佳キャスター:
みなさんそれぞれいろんな意見がありましたけれど、小泉さんはAIに指導してもらいたいですか?

IoT/AIの専門メディアを運営する小泉耕二氏:
そうですね、私は一度指導してもらいたいです

三田友梨佳キャスター:
経験値が必要な営業だとか人事の分野にAIの技術が進出してきていますね?

IoT/AIの専門メディアを運営する小泉耕二氏:
これまではフェイス・トゥ・フェイスで先輩が経験やコツを教えてきましたが、どうしても属人化が出てしまう。そういったこともあり、今回は話し方ですが、ほかにも作業しているところをカメラで撮り、それが先輩と新人でどう違うかを比較したり、また、アイトラッキングでは目線を追って作業手順を見ていく技術も出ています

小泉耕二氏
小泉耕二氏

三田友梨佳キャスター:
いろいろとあるのですね。AIが教えることの課題は何ですか?

IoT/AIの専門メディアを運営する小泉耕二氏:
属人性が無くて良いところもありますが、教える側も教えながら学ぶこともあるので、あまり機械に頼りすぎると教える側が育たなくなってしまいます

三田友梨佳キャスター:
AIが発達しても人にしか出来ない仕事はありますが、AIの分析力は人の可能性を広げてくれるかもしれない。そう考えると技術の進歩に期待が高まります

(「Live News α」11月7日放送分)