「ラグビー校」を訪ねて

2019年ラグビーワールドカップはイングランドの準優勝で幕を閉じた。南アフリカを相手に12対32で優勝こそは逃したものの、準決勝でニュージーランドのオールブラックス3連覇を阻んだイングランドは紛れもない強豪だ。その強さの原点を探るべく、ラグビー発祥の地へ向かった。

ロンドンから車で北に2時間弱走ると、その名も「ラグビー」という紅葉とレンガ造りの家が並ぶ美しい田舎街にたどり着く。この街の中心部にある、「ラグビー校」でラグビーは誕生したとされる。

ロンドンから車で2時間 ラグビーにある「ラグビー校」
ロンドンから車で2時間 ラグビーにある「ラグビー校」
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1567年創立で、チャーチルの前にイギリス首相を務めたネビル・チェンバレンや「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルなどが卒業した中高一貫の名門校である。

伝統を感じさせる校舎の前にはボールを持って走る少年の銅像が。
「この少年はラグビー校のエリス君。1823年に、この少年がフットボールの最中に、いきなりボールを持ってゴールまで走ったのがラグビーの始まりと言われているんだ」

彼がラグビー創始者!?エリス少年の銅像 ラグビー校の前にて
彼がラグビー創始者!?エリス少年の銅像 ラグビー校の前にて

そう説明しながら私を出迎えてくれたのは、ラグビー校の広報担当のPJ・グリーンさん。学校敷地内にあるラグビー博物館に案内してくれた。
ショーケースの中には少し不格好な茶色いボール状のものが展示されている。
「これが初期のラグビーボール。豚の膀胱で作られているんです。貼り合わせて膨らませると奇麗な球にはならず、楕円形になったというんですよ」

初期のラグビーボール 豚の膀胱で作られている ラグビー校にて
初期のラグビーボール 豚の膀胱で作られている ラグビー校にて

そして、これは初期のラグビーの様子を描いた絵。正確なデータはわからないが、参加選手は今よりはるかに多く、試合時間も時には数日に及んだという。

初期のラグビー競技の絵 ラグビー校にて
初期のラグビー競技の絵 ラグビー校にて

これは最初に作られたルールブック。手書きで細かい文字が並ぶ。今回のワールドカップを見ながらラグビーのルールが多岐にわたることに驚かれた方もいらっしゃると思うが、その創成期から、フェアプレーに徹するため様々なルールが定められていた。スクラムやラックなどの戦術、H型のポストも、このラグビー校で生まれたと言われる。

ルールブック
ルールブック

日本で行われたワールドカップについて話が及ぶと「この地で生まれたラグビーが多くの人々を熱狂させているのは素晴らしいことだ」とグリーンさんは顔をほころばせた。

そして実は、このラグビー校、2022年に姉妹校を日本に開校する予定なのだ。
学校側は「日本でワールドカップが盛り上がる中、このお知らせができることをうれしく思う。日英の教育を合わせたカリキュラムを導入する。国際色豊かな学生を育てたい」と語る。

ラグビー校はイギリスらしい伝統と格式を感じさせる学校だった。時期によっては一般見学も可能だという。

ラグビーが生まれたグランドでインタビューに応じてくれたPJ・グリーンさん
ラグビーが生まれたグランドでインタビューに応じてくれたPJ・グリーンさん

イングランドラグビーの育成現場へ

ラグビーの原点を見た私が、次に向かったのは現在のイングランドラグビーの育成現場だ。ロンドンから車で1時間、「ハーペンデンRFC」の本拠地を訪ねた。

練習中のハーぺンデンRFCメンバー 実戦的な練習が中心
練習中のハーぺンデンRFCメンバー 実戦的な練習が中心

主将のオーウェン・ファレル、スタンドオフのジョージ・フォード、不動のロック、マロ・イトジェ、今回のワールドカップ出場メンバー3人を含む多くの名選手を輩出した、1919年創立の名門クラブだ。

5歳以上から18歳までは1歳ごとのカテゴリーに分かれ、女子チームもある。19歳以上からなるシニアチームを含めるとクラブの総勢800人以上。子供たちのほとんどはプロを目指している。

ヘッドコーチのマット・スミスさん 大きな声で指導していた
ヘッドコーチのマット・スミスさん 大きな声で指導していた

「勝つことよりもプレーを楽しんで育てる」

ヘッドコーチのマット・スミスさんは育成方針をこう説明する。
「勝つことよりも、プレーを楽しんで育てるという心でコーチングする。そうすると、それぞれが目標を見つけそれに挑戦し、選手それぞれの能力を最大限引き出すことになる。エリート選手だけでなく全員を育てる」

またイングランドラグビーの強さの秘密について聞くと、
「強さの根幹は、それぞれの地域に地元密着のクラブチームがあることだ。熱心な応援の中で、子供たちはプレーできる喜びを育む。そして選手は地元の誇りになる」と教えてくれた。

また、この地域で有名選手が輩出されている大きな要因としては、住民の多くがラグビーに熱心で、子供たちが練習する際にも親が協力的であることが大きいという。家族ぐるみ、地域ぐるみでラグビーを盛り上げているのだ。

このクラブの選手の一人は
「このチームは、とにかく選手、コーチのレベルが高く、良い練習ができるところだ。チームの一員であることは誇らしい」と言っていた。

最後にスミスさんは、イングランドラグビーの未来について、
「今回の決勝進出で、ラグビー人気は確実にあがる。そして、6歳~8歳の幼いころからラグビーを始める子供が増えるはずだ。それこそが貴重な財産であり、それを最大限に活かすのが私の仕事だ。ますます強くなるだろう」と胸を張った。

ラグビーのルーツ、イングランドを取材すると、その強さの秘密と深い伝統が見えてきた。

【執筆:FNNロンドン支局 小堀孝政】

小堀 孝政
小堀 孝政

取材&中継の報道カメラマン。
元ロンドン支局特派員 ヨーロッパ、アフリカ各国の取材を経験