犯罪利用の懸念?リブラ発行延期

アメリカ議会で証言するFacebookのザッカーバーグCEO
アメリカ議会で証言するFacebookのザッカーバーグCEO
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10月23日。フェイスブックは、仮想通貨「リブラ」の発行を、米規制当局から認可が得られるまで延期すると発表した。来年前半にも発行を開始する構想が、大幅な延期を余儀なくされた形だ。

これは、アメリカのみならず、G20の財務相・中央銀行総裁会議でも「発行を認めない方針で一致」したからだ。要は、世界中が「現在のままではリブラは犯罪に利用される危険がある。アブナイお金」と猛反対した、ということだ。

「リブラ=アブナイお金」という懸念に対し、フェイスブックのザッカーバーグCEOは、「リブラは、通貨ではなく、“送金手段”だ」と反論した。

リブラの公式動画を見てみると、アジアやアフリカと思われる国の生活風景の映像が続き…こんなナレーション。

「なぜメールや、写真は手軽に送れるのに、お金は手軽に送れないのだろう?」

キャリアウーマンのオフィスから、メキシコの家庭に、カットが切り替わる。

ふるさとのメキシコシティに、お金を安全に送る手段」とのナレーションが続く。

なるほど…。
ならば、ザッカーバーグ氏の言う、「ふるさとに仕送りをする人たち」に会いに行ってみよう。

母国への送金手数料に興味津々

クイーンズ地区の店には「Money Transfer」の看板が目立つ
クイーンズ地区の店には「Money Transfer」の看板が目立つ

ニューヨーク・マンハッタンから地下鉄でおよそ10分。クイーンズ地区のジャクソンハイツと呼ばれるエリアは、駅の東側はヒスパニック系、北側にはインド系の商店街が広がり、店の看板にも英語以外の言語が多く並ぶ。

数メートルごとに視界に入るのが、「Money Transfer=送金」の看板。中をのぞいてみると、家電が置いてあったり、アイスクリームも並んでいたりする。電気店やコンビニに「併設」しているところも多いようだ。

こちらの店にも「Money Transfer」の看板が
こちらの店にも「Money Transfer」の看板が

店舗から出てくる人たちに、声をかけてみた。

フィリピン出身の40歳代女性、ルビーさん:
「母国にいる親に仕送りをしています。以前は週に1回送金していたけれど、今は月に1~2回かしら。銀行口座から送ることもあるけど、時間がかかるのでこういった送金サービスを使っているわ。手数料は7ドルくらい取られています。」

ある店舗に聞くと、送金額100ドルまでなら手数料5ドル、1000ドルまでなら8ドル程度ということだった。(手数料は送金先によって異なる)

フィリピン出身ルビーさん
フィリピン出身ルビーさん

「リブラ」は、送金手数料が既存のサービスなどよりも安い手数料で早く行うことができるとしている。「リブラ」構想が発表された6月には、送金サービス大手の「ウエスタンユニオン」の株価指数は2.4%下落した。従来の送金サービスのビジネスモデルが揺るがしかねない、という懸念からだ。

「仮想通貨?ビットコイン?聞いたことない」

フィリピン出身のルビーさんに、「リブラが、もし手数料が少なくなるなら、使ってみたいか」と尋ねた。

ルビーさん:
「リブラって何?フェイスブックは知っているけど、仮想通貨って何?でも、手数料が安くなるなら、Why Not?(使わない手はないわ)」

別の店舗で送金を終えたチベット出身の女性は、「手数料」にはさらに敏感だった。

家族がチベット、中国、インドにいます。送金先によって手数料が違うので、安いところを探して送金しているわ。中国に送るときには(ここから地下鉄で30分はかかる)チャイナタウンで送金するわ。リブラのことは初めて聞いたけど、おもしろい情報をありがとう」

こちらの女性もまた「仮想通貨」は知らないものの、「安い手数料」には興味津々だ。

しかし、いくら声をかけても、「リブラ」を知っている人に巡り会えない。取材に答えてくれたほとんどの人は「リブラ」だけでなく「仮想通貨」、「ビットコイン」、「ブロックチェーン」、「電子通貨」、いずれの言葉も「聞いたことがない」との答え。

ザッカーバーグさん。あなたがターゲットとしている人たちは、あなたのアイデアの存在すら、知らないみたいですよ…と、心の中で呼びかけていたところ、最後に若者が店から出てきた。

サウジアラビア出身21歳男性
サウジアラビア出身21歳男性

サウジアラビア出身の21歳の男性は、コンピューターを学んでいるのでリブラは知っている。
「両親から送金サービスで、お金を受け取っているよ。リブラでしょ!簡単そうでいいよね。もしリブラが始まったら僕も使ってみたい」

母国に送金をする側ではなかったが、やはり海を隔ててお金をやり取りする家族にとっては、送金手数料の安さと手軽さは魅力のようだ。

「共通通貨」か「幻の失敗作」か

「安くてお手軽」なものは誰でも大好き。

逆に言えば、この街の人々は仮想通貨の“不安定さ”や“リスク”について、十分に知らないことも事実だ。

各国の経済のリーダーたちが指摘するように、遠く離れた母国に仕送りをする彼らのお財布の「安全」は、ちゃんと守られるのか。リブラはフェイスブック利用者27億人の「共通通貨」になるのか、はたまた「幻の失敗作」に終わるのか。

ザッカーバーグ氏の、次の一手に注目する。

【取材:FNNニューヨーク支局 中川 眞理子+柳川晶子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。