オールブラックスが負けた・・・「家族の誰かが亡くなったような気持ち」

ーー決勝戦のニュージーランドの戦いぶりを聞きたかったのですが、残念ながら決勝に進めなかった。この敗戦をどう分析しますか?

ジョン・カーワン氏 (以下JK):
イングランドは素晴らしかったと思います。オールブラックス対イングランド戦は大変良い試合でした。イングランドはあの日勝利に値するプレーで、我々は彼らに敬意を表したい。ラグビー王国としては本当に残念ですが、イングランドの決勝進出は称えるべきで、私たちは金曜日にしっかり戦って3位になることが大切だと思っています。

ーー決勝戦へ行けなかったことについて母国ではどう受け止められていますか?

JK:
私たちにとってラグビーはスポーツではなく、宗教(信仰)のようなもの。なので、ラグビーは単なる試合ではなくて、負けたときは家族の誰かが亡くなったような気持ちになる。だから私たちはラグビーが強い。すべてのニュージーランド国民の関心事だから。これはイングランド戦に負けた翌日のニュージーランドの新聞だ。私たちの気持ちを的確に表している。悲しく、暗く、残念な気持ち。ラグビーはスポーツ以上の存在、いわば信仰みたいなものだからね。

イングランド戦に負けた翌日のニュージーランドの新聞
イングランド戦に負けた翌日のニュージーランドの新聞
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ジョン・カーワン氏は1987年第1回のW杯でトライ王に輝きニュージーランドの優勝に貢献。オープニングゲームのイタリア戦で伝説の90M独走トライを挙げたことでも知られている。

ラグビー王国NZではその名を知らない人はいない。「JK」の愛称とともに、レジェンドとしてその名をとどろかせている。2006年に日本へ来たカーワン氏は翌年日本のヘッドコーチ(監督)に就任すると当時の日本の世界ランクを19位から2011年には11位にまで押し上げた。日本代表監督として2007年と11年にW杯を率いた。

ラグビーは体をぶつけあうチェス、決定的瞬間を見逃すな!

ーーさて、決勝戦の見所を教えていただきたいのですが、特に日本人は“にわかファン”も多いのでわかりやすくお願いします。

JK:
僕にとってラグビーを一番わかりやすく説明するなら、「体がぶつかり合うチェス」かな。だから日本人は戦術面を楽しめると思う。日本の伝統スポーツの相撲を例に挙げると、外国人にとっては大きな力士2人が勢いよくぶつかり合っているだけのように見える。でも日本人は細かい技がわかるでしょ。ラグビーも同じで細かいゲームの組み立てがわかるようになれば、引き込まれるようになると思う。

 
 

ラグビーの試合には「決定的な瞬間」がある。決勝戦を勝利したいなら、その瞬間をモノにしなくてはいけない。先週のイングランド、オールブラックス戦は、オールブラックスが得点して17点になった後、イングランドが攻撃してペナルティーを得た。そこがキー・モーメント(決定的な瞬間)だった。優勝するためには必ずこの瞬間をモノにしなくてはいけない。

ーー決勝戦ではどういう場面がキー・モーメントになるのでしょう?

JK:
それは見ていればわかる。試合会場にいれば感じとれる。テレビで見ていればその瞬間はわかる。何か大事なことが起こることがわかる、それがその瞬間だ。

「優勝するのはイングランド。10点を巡る僅差に」

ーーさあ、ワールドカップを手にするのはどちらでしょう。

JK:
イングランドが勝つと信じている。いくつもの戦術を持っているから試合内容に応じて臨機応変に変えてくるのが強みだ。決勝戦で大量得点はない。両チーム、トライは取れても1トライ。10点を巡る攻防か。いずれにしても僅差になると思う。ワールドカップの決勝戦は僅差になる。

日本はラグビーチャンピオンシップに参加すべき!

ーー一方、ベスト8で負けた日本ですが、今後さらに発展するには?

JK:
大事なことは日本のラグビー界のリーダーがラグビー人気をつかむことが必要。もう一つは、さらに上のレベルで戦い続けられるよう、日本も「ラグビーチャンピオンシップ (*注1)」に含まれるべきであり、この大会に日本代表を早く入れるべきだと思う。日本がこの大会に参戦する資格は十分にあると考える。

(*注1)南半球4カ国対抗戦。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンが参加し、毎年ホーム&アウェイで行われており、23大会中、16大会でニュージーランドが優勝している。

ーー日本をティア1(*注2)にという意見もあるが、これについてはどうですか?

JK:
今の時点でティア1に居るべきだと思う。トップ10にいるわけだから。ただ、ここからは日本の政治的な動きになる。国民の関心を高め、今回の結果を持ってティア1入りを働きかけていくことが必要だ。

(*注2)世界ランキングとは別に「格」「階級」を示す。強豪10カ国・地域に与えられる。現在日本はティア2。

ーージェイミー・ジョセフ監督(HC)の後任について

JK:
日本はジェイミー・ジョセフという世界で最も優れた監督の一人が指揮をとっている。だから私が日本ラグビー協会に求めるのは、私の後にエディー・ジョーンズ、そしてジェイミー・ジョセフが来た。今後も世界の優れた監督を獲得し、彼の素晴らしい仕事を継続する必要がある。ジェイミーを続投させるか、または新たな世界レベルの監督にするのか、正しい判断を期待する。

ーーW杯日本大会も残り二試合。アジア初開催の今大会をどう評価しますか?

素晴らしいワールドカップだったと思う。これまでのベストな大会の1つ。日本は誇りに思うべき。日本を訪れた世界中の著名なラグビー関係者は全員ここが大好きで大成功だと言っている。

タクシー運転手も話題はラグビー

ーーカーワンさん、久しぶりの日本滞在はいかがでしたか。

JK:
日本は大好き。日本人も東京という街も大好き。滞在した5週間はアメージングだった。「帰りの時はちょっと寂しいね」(日本語で答えた)以前監督をやっていた時代と大きな違いはラグビーに対する変化だ。タクシーに乗ると運転手はラグビーの話をする。以前は相撲やサッカー、野球の話をしていたけど今はラグビーの話をしている。人気スポーツになったということだね。

インタビュー終盤、決勝戦に進めなかったNZを立て直す気持ちはないか、と聞いたところ、カーワン氏は「もう監督はやらない」ときっぱり否定。これからも解説者などの立場でラグビー界を支えていくことを強調した。久しぶりの日本滞在を満喫したカーワン氏、日本食が世界で一番好きという彼、大好きなウニを週3回食べていたということも教えてくれた。そして最後にお台場について「こんな素敵な、景色のよいオフィスで仕事ができたらスペシャルな気分になるね」との言葉を残しインタビューを終えた。

【聞き手: 報道スポーツ部 坂本隆之+編集部 信原麗】

坂本 隆之
坂本 隆之

1990年入社後、カメラマン・政治部・社会部・スポーツ部・番組プロデューサー・クアラルンプール、ベルリン、イスタンブールの支局勤務を経て現在はマルチメディアニュース制作部長。バルセロナ・長野・シドニー・リオ五輪やフランス、ドイツW杯の取材経験あり。