ちょっとしたことから乱れてしまう睡眠のリズム。

その要因のひとつになるのが「夜勤」だろう。夜勤手当や割増賃金、明け休みなど悪いことばかりではないが、日勤時の睡眠のタイミングとずれてしまい、規則正しい生活を送ることはどうしても難しくなる。

夜勤後の疲労は共通の悩み...明け休みは?

そんなデメリットがある夜勤だが、実際の労働現場には具体的にどんな影響が出てくるのだろうか。

編集部が夜勤経験者に聞いたところ、誰もが心身の疲労を口に。「夜勤後は必ずお腹を壊すようになった」(30代男性)、「体が重かったり、帰宅後に仮眠してもその後に疲れが来る」(20代女性)などと、体調が崩れるきっかけにもなっていた。

その一方で、明け休みの過ごし方は人それぞれ。「帰ると夕方まで眠ってしまう」(20代男性)、「仮眠後に夕食を取り、お風呂に入ってまた眠る」(30代女性)などと、帰宅後に仮眠する人が多かったが、「日勤の夜と同じ時間に眠り、翌日も朝に起きる」(40代男性)、「昼寝はせずに家事をする」(20代男性)などと、睡眠のサイクルを崩さない人もいた。

夜勤明けにはぐったり...なんてことも(画像はイメージ)
夜勤明けにはぐったり...なんてことも(画像はイメージ)
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なぜ眠る時間が違うだけで、これほどまで影響が出てしまうのだろう。夜勤従事者は、夜勤とどう向き合えば良いのだろうか。

労働者の健康問題などを研究する「大原記念労働科学研究所」の上席主任研究員・佐々木司さんに話を伺った。

東洋人は「遺伝子レベル」で夜勤に向いていない

――夜勤従事者は日勤のときよりも疲労を訴えることが多い。眠る時間帯でなぜ違う?

人間の生体リズムは「昼に行動して夜に休む」ようにできています。体温が高い昼間は活動に、低い夜間は睡眠に適していて、睡眠の質も夜間の方が高いとされています。夜勤だと、その夜間に働かなければなりません。勤務後に眠ろうとしても、昼間は体温の上昇のせいで睡眠の質も悪くなるため、疲労を十分回復できないのです。

日々の生活リズムもずれてしまいます。日勤は睡眠・勤務・自由時間という順序で一日を過ごしますが、夜勤だと睡眠・自由時間・勤務という順序になりがちです。夜勤では自由時間の段階から疲労がたまるため、過度な疲労が残りがちです。

このほか、人間には体内時計をコントロールする「時計遺伝子」という遺伝子があります。この時計遺伝子は、夜勤への適応のしやすさにも影響しますが、東洋人は西洋人に比べて、夜勤に適応できる遺伝子を持つ人が少ないとも報告されています。夜の労働に向いてないのです。


人間は夜勤に向いておらず、特に東洋人は遺伝子レベルで不向きだというのだ。
それならば負担を少しでも減らしたいところだが、どのように対処すれば良いのだろうか。

仮眠をおすすめ、ただし2時間程度が望ましい

――夜勤の負担を減らすためにできることはある?

夜勤途中に仮眠を取ることに尽きますが、できれば2時間程度が望ましいです。睡眠には、深い眠りを含む「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」があり、これらがバランスよく取れているかは睡眠の質にも影響します。2時間程度の仮眠だと、入眠してから出現する深い睡眠を取りつつ、レム睡眠の周期で覚醒できるので目覚めも良いです。

夜勤後の昼間に眠る場合はアイマスクなどで周囲を暗く(画像はイメージ)
夜勤後の昼間に眠る場合はアイマスクなどで周囲を暗く(画像はイメージ)

――仮眠ができなかったり、その時間がない場合は?

2500ルクス以上の光を夜中に浴びる方法があります。色の波長的には、青色光(ブルーライト)がよいでしょう。この強さの光を浴びると、眠りを誘うホルモン「メラトニン」の分泌が抑制され、「昼に行動して夜に休む」という生体リズムをずらせます。結果的に、昼間の睡眠の質を高めることができるのです。

※2500ルクスの光=一般的な蛍光灯を8本ほど並べたくらいの明るさ

ただ注意点があり、昼間に強い太陽光を浴びると生体リズムは元に戻ります。昼間に眠りたいときは太陽光を避け、眠るときもアイマスクを付けるなど、周囲を暗くしてください。夜勤から日勤に戻るときは、生体リズムを戻す工夫も必要になります。

ブルーライトは睡眠の邪魔になると言われているが、使い道もあるようだ(画像はイメージ)
ブルーライトは睡眠の邪魔になると言われているが、使い道もあるようだ(画像はイメージ)

――夜勤当日、明け休みはどう過ごすべき?

夜勤前に眠る人もいますが、昼間や夕方は睡眠に適さない時間帯です。気休めにはなりますが、眠気がピークを迎える午前5時ごろの眠気を防ぐ効果は期待できないでしょう。夜勤の途中に仮眠できるなら、無理をして眠らなくても良いと思います。

夜勤明けの過ごし方は、その後の勤務形態で違います。次も夜勤するなら、勤務に備えるために昼間に眠る必要があります。逆に明け休みの場合は、生体リズムを戻すために昼間は眠らない方が良いでしょう。外に出て太陽の光を浴びましょう。

睡眠効率だけで考えると、職場で眠ってから帰宅した方が良いですね。帰宅途中で太陽光を浴びると生体リズムが元に戻り、睡眠の質も悪くなります。それでも自宅で眠りたい人には、光の透過率が低いサングラスをかけて帰るのがおすすめです。

眠れなくなったら要注意…うつ病→過労自殺というケースも

――夜勤従事者が気を付けるべき、体調のサインなどはある?

眠れなくなると疾病の可能性も高まるので、注意が必要です。レム睡眠にはストレスの解消効果もあり、自律神経を整える効果もあります。眠れなくなるとこの睡眠も取れなくなり、うつ病→過労による自殺というケースまで考えられます。


――体調面や精神面で不安を抱えたら?

日勤に配置換えしてもらいましょう。夜勤手当のために命を削る必要はありません。疲れてどうにもならなくなった場合は、2~3日の間、夜に眠る日を作ってください。人間には自然治癒力があるので、疲れや生活リズムの乱れも治してくれます。

睡眠薬にはなるべく頼らないほうが良いです。効き目の強い睡眠薬は、副作用も大きいです。

企業・雇用側の理解も必要

――周囲ができることはある?

リスクコミュニケーションですね。私たちは夜勤の医師・看護師がいるからこそ、夜遅くでも病院を利用できますし、夜勤の店員がいるからこそ、コンビニで買い物ができます。

日勤従事者の多くはそのような恩恵を受けながら、夜勤のリスクを知りません。まずは夜勤従事者と日勤従事者で話し合い、どんなリスクが隠れているのか、それを防ぐためには何ができるかをコミュニケーションするべきでしょう。


――雇用する企業側が気を付けることはある?

以下の3つのポイントを心がけるべきでしょう。

1.その人が夜型か朝型かを知り、朝型の人に任せるときには一層注意する
2.健康診断で異常値が出た人は夜勤につかせない。労働者の健康維持にも役立つ
3.労働者が「夜勤を止めたい」意向を示したときは、日勤に配置転換

夜勤から日勤に戻るときは太陽光を浴びよう(画像はイメージ)
夜勤から日勤に戻るときは太陽光を浴びよう(画像はイメージ)

現代社会のサービスや産業は、夜勤従事者に支えられている部分も大きい。
夜間の睡眠には生体リズムを維持する効果もあるとのことなので、日勤者が昼寝をするように夜勤者も仮眠することを心がけてほしい。そして企業側は、労働者たちが適切に仮眠できる環境を整えることも必要だろう。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。