世界5例目となるダイオウグソクムシの脱皮を鳥羽水族館で確認

独特なフォルムが目を引き、水族館でも人気が高い「ダイオウグソクムシ」

積極的に水槽内を動き回るわけでもないのに、ついつい見入ってしまう不思議な魅力がある。また深海生物であることから、その生態などはまだまだ解明されていないことも多い。

そんなダイオウグソクムシについて鳥羽水族館(三重県)が、飼育中の「個体識別番号No.23」が10月13日に脱皮をしたと発表した。脱皮の兆候が表れたのは9月1日頃で、担当飼育員が 9月20日頃から慎重に観察を続けていたという。
ダイオウグソクムシは多くの水族館で飼育されているものの脱皮の事例は少なく、これまでに国内で3例(うち鳥羽水族館が2例)、アメリカで1例の計4例の報告のみ。今回のNo.23の脱皮はこれに続く世界で5例目となる。

後半部を脱皮したダイオウグソクムシ(左)とその脱皮殻(右)。(写真提供:鳥羽水族館)
後半部を脱皮したダイオウグソクムシ(左)とその脱皮殻(右)。(写真提供:鳥羽水族館)
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同館では現在、オス4匹、メス1匹を飼育していて、今回脱皮をしたNo.23はオスで、2014年5月に入館(メキシコ湾で採集)。この際の計測では体長約31センチ、体重1004グラムだった。

脱皮はまず体の後半部を脱ぎ、それが硬化した後に前半部を脱ぐとされている。No.23は今回、後半部の脱皮が終わった段階だ。確かに写真を見ると、前半部と同じ色をした脱皮殻が横にあるのがわかる。

なお過去の4例では、いずれも後半部の脱皮後にまもなく死んでしまったとのことで、No.23が前半部の脱皮も無事終えると、世界初の「完全脱皮」の成功になるという。

なんだか気になる存在のダイオウグソクムシをもっと知りたい。完全脱皮をする可能性など、鳥羽水族館の飼育担当者にいろいろ話を聞いた。

深海生物のダイオウグソクムシってどういう生き物?

――ダイオウグソクムシってどんな生き物?

世界最大の等脚類(節足動物のダンゴムシの仲間)として知られ、メキシコ湾などの深海の海底に生息しています。体長は19~36センチほどです。2対の触覚と7対の脚の他、遊泳脚を持つのが特徴で歩行だけでなく泳ぐこともできます。


――そもそもなぜ脱皮するの?

実は節足動物の仲間は、外骨格があるために脱皮をしないと成長できません。例えば、小さな個体が体を大きくするために、何度も脱皮を繰り返し成長していくのです。

なお当館では、今回もまた過去2回も全て成熟のための脱皮だったようです。全部オスだったのですが、未成熟な個体が脱皮をすることで繁殖可能なオスになりました。オスには、メスに精子を渡すためのトゲ状のものが成熟されると形成されます。これが、今回の脱皮を機に形成されていることが確認しました。


――脱皮の兆候ってどんなものだった?

体の前半部が徐々に白くなっていくのですが、後半部はほとんど色が変わらずにきれいに2色に分かれます。脱皮直前になると後半部も少し白みがかった感じにはなるのですが、基本的には同じ色調でそして時期がくると後半部の殻を脱ぐという感じです。今回は9月1日頃に脱皮の兆候が現れ、10月13日の朝にきれいに脱皮を終えた姿を確認しました。

脱皮の兆候で前半部が白くなり始めた(9月1日)。(写真提供:鳥羽水族館)
脱皮の兆候で前半部が白くなり始めた(9月1日)。(写真提供:鳥羽水族館)

完全脱皮の兆候はまだないが、これからに期待

――脱皮が終わって10日ほど経った。今はどんな色をしている?

脱皮直後の後半部は、赤褐色のような色合いをしていました。それが今は前半部の白色が少しずつ後ろにも広がっています。前半部の白み部分は元の灰色にように戻っていき、一方、後半部は徐々に白くなって元の色になってきました。


――前半部も脱皮できたら飼育下では世界初とのこと。その兆候は?

後ろの脱皮の過程を見ていると、まずは後ろが元の体色に戻ってからのことだと思います。その後は前半部が今回白くなったように、今度は後半部がどんどん白くなっていくと予想しています。そして兆候が見られてから、脱皮にはまた1ヶ月はかかりそうです。


――ちなみに、エサは何を食べるの?

今は1ヶ月に一回くらいのペースで与えていますが、毎回食べるわけではありません。絶食期間が長い個体がいることで話題になった頃は、エサを水槽に入れて反応がなければすぐに引き上げていたので、どの個体が食べたかを把握していました。

ただ、今は真っ暗な時の方が食べる傾向があるので、餌を入れてそのままにしておき、翌日エサが残っていた場合は回収するという方法にしています。ですので、今はどの個体が「食べている」「食べていない」というのは分からない状況です。

エサは魚ですね。マサバやイワシ、サンマが多いです。自然界では死んだ魚や鯨の死骸など、動物性のものをよく食べているようです。

正面から見るとこんな顔をしている(写真提供:鳥羽水族館)
正面から見るとこんな顔をしている(写真提供:鳥羽水族館)

飼育担当者「他の個体と比べながら色が違うところを見てほしい」

――普段の様子は?

水槽の中ではじっとしていることが多く、夜に動き回ったりとかときには泳いだりすることがあります。


――脱皮殻はどうするの?

「へんな生きもの研究所」というゾーンでダイオウグソクムシを飼育しているのですが、ここの標本を展示している棚に飾っています。来館者は見ることもできます。


――来館者には何に注目してほしい?

脱皮したNo.23の体色が日に日に変わっていくので、他の個体と比べながら前半分後ろ半分と色が違うところを見てもらいたいです。脱皮から1週間以上が経ち、今は体色がだいぶ元の色に戻ってきています。

脱皮直後のため後半部は普段より鮮やかな色合い(写真提供:鳥羽水族館)
脱皮直後のため後半部は普段より鮮やかな色合い(写真提供:鳥羽水族館)


まだ、前半部の脱皮の兆候が見られないとのことだが、是非とも世界初の完全脱皮を成し遂げてほしい。今後もダイオウグソクムシから目が離せない。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

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