日中、なかなか眠気が取れず、仕事中にうとうと…という経験がある人は、多いのではないだろうか。これはただの寝不足なのか。それとも「睡眠障害」?

「睡眠障害」の代表的な症例である「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を発症すると、突然の眠気に襲われやすく、運転中の事故に発展するケースもあるのだとか。そうなる前に、自覚する方法はあるのだろうか? 睡眠医療の第一人者である秋田大学の三島和夫教授に、「睡眠障害」について聞いた。

「睡眠障害」は専門医の治療なしには治らない疾病

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そもそも「睡眠障害」とは、どのような状態を指すのだろうか。

「徹夜明けで眠気が残る、夜型生活になりがちといった習慣の問題は、寝る時間帯や寝室環境を変えることで改善されるもので、『睡眠障害』ではありません。『睡眠障害』とは、専門医に診断される病気で、きちんと治療を受けなければ治りません」(三島先生・以下同)

WHO(世界保健機関)が、約30年ぶりに改訂した「ICD-11(国際疾病分類の第11回改訂版)」(2018年6月公表)で、初めて「睡眠-覚醒障害」の項目がまとめられ、70種類以上の病気が該当する。

「それらの病気は、『睡眠の質が低下する病気』『日中に眠気が出る病気』『睡眠中に異常が出る病気』と、大きく3つに分けられます」

●睡眠の質が低下する病気:
不眠症、睡眠時無呼吸症候群など

●日中に眠気が出る病気:
過眠症、ナルコレプシー(居眠り病)など

●睡眠中に異常が出る病気:
夢中遊行(夢遊病)、レム睡眠行動障害、むずむず脚症候群など

「『睡眠障害』は、珍しい病気ではありません。例えば、国内の『不眠症』の割合は、軽症の人も含めると成人の約10%。治療を受けるような重症な方だけに絞っても、成人の7~8%。60代以降になると、症状がある人は約50%に上ります。ただ、日本には睡眠障害の専門医が少ないので、治療せずに我慢している人も多いと思いますね」

「睡眠障害の専門医に相談」が治療の第一歩

「睡眠障害」は専門医でないと治せないとしても、自覚症状がなければ、受診にも至らない。

そこで、三島先生に「睡眠障害」の可能性がある症状を教えてもらった。

「当てはまる項目が1つでもあれば、症状が悪化する前に、医師に相談することが大切です。かかりつけ医でも問題ありませんが、睡眠障害の専門医でない場合は、治療がうまくいかない場合があります。病気によっては睡眠薬の服用で悪化することもあるので、焦って治療せず、住んでいる地区の専門医を紹介してもらうのも1つの手です」

三島先生によると、「睡眠障害」の専門医は、精神科や心療内科、神経内科、呼吸器内科、耳鼻科に在籍していることが多いそう。また、「睡眠時無呼吸症候群」に関しては、専門のクリニックが全国各地にあるという。各医療機関の診療内容を確認しよう。

「日本睡眠学会が認定した睡眠医療機関を掲載している『睡眠医療機関マップ』を活用して、住んでいる地域の専門医を探すこともできます。医療機関ごとに診察できる病気が記載されているので、参考になると思いますよ」

●睡眠医療機関マップ
https://www.sleepmed-platform.jp/map/area

症状を放っておくと「居眠り運転」につながる危険も!

三島先生曰く、「『睡眠障害』が長期化すると、眠気に慣れてしまい、『眠いな…』という感覚を持てなくなる」とのこと。

「どんな刺激でも毎日続くと慣れてしまうように、眠気も徐々に自覚できなくなっていきます。体は不眠状態にありながら、『眠気があるから危険だ』という判断ができないため、会議中に眠ってしまう、居眠り運転をしてしまうといったことが、起こりやすくなるのです」

慢性的な眠気に悩まされている人は、等しくリスクがあるが、中でも症状を自覚しにくい「睡眠時無呼吸症候群」は、注意した方がいいという。

「『睡眠時無呼吸症候群』は、呼吸が止まることの危険性に目が行きがちですが、本当の問題は不眠。10秒以上の無呼吸状態を1回として、重症度の高い人は1時間当たり30回以上息が止まります。その都度、体は呼吸をしようとして、眠りが浅くなったり、ごく短時間ですぐ目が覚めたりするため、深い睡眠が取りづらく、不眠につながるのです」

短時間の覚醒だと、朝起きてからも目覚めた記憶が残らないのだそう。本人は長く寝ているつもりでも、脳は休まらず、眠気が残ってしまうのだ。不眠は連日続き、眠気に慣れていってしまう。

「『睡眠時無呼吸症候群』は、舌が喉の奥に張り付いて、息が通らなくなるために起こることがほとんどで、いびきにもつながりやすいです。いびきを指摘されたことがある人や、会議中にうっかり寝てしまった経験がある人は、病気を疑った方がいいと思います。患者さんの中には、1回の無呼吸が数十秒続き、1時間に60回以上も息が止まる方もいます。その状態になれば、日中にしっかりと目覚めることができるわけがありません」

症状がひどくなれば、生活改善だけでは治らない「睡眠障害」。もし、「睡眠-覚醒障害を疑うチェックポイント」で当てはまる項目が1つでもある場合は、放置せずに専門医を受診しよう。治療を行い、不眠を解消することで、不慮の事故で命を落とすリスクも回避できる。



三島和夫
秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授。1987年に秋田大学を卒業し、秋田大学医学部精神科学講座助教授、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。専門は精神医学、睡眠医学、時間生物学。著書に『かつてないほど頭が冴える! 睡眠と覚醒 最強の習慣』『朝型勤務がダメな理由』など多数。

取材・文=有竹亮介(verb)

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プライムオンライン編集部
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