「ゾッとした…」 インパクト大の“禁煙ポスター”
仕事の合間やちょっとした待ち時間などに、とりあえず一服…と手が伸びるタバコ。
最近では加熱式タバコの普及も進んでいるが、一方で喫煙による健康被害や、受動喫煙による身体への悪影響も大きな問題となっている。
そんな中、今SNSを中心に話題となっているのが、こちらの禁煙啓発ポスター。
「吸われているのは、人間です。」
ポスターに描かれているのは、スーツ姿の男性。
タバコを吸っているように見えるポーズをとっているが、反対にタバコに顔が吸い込まれてしまっており、そこからドクロ型の煙が立ち昇る。真っ黒な背景と相まって、なんとも異様な雰囲気のデザインだ。
喫煙者だけでなく、非喫煙者も驚くショッキングなデザインには「ゾッとした、怖い」という中にも「かなり攻めてる。これくらいインパクトがないといけない」の声が続々。
確かに、印象に残るデザインは啓発ポスターのカギかもしれないが…ポスターに込めたメッセージについて、ポスターを作成した、公益財団法人日本対がん協会にお話を伺った。
「健康だけでなく、様々なものを吸われてしまう」
――ポスターに込めたメッセージはどんなもの?
タバコは健康面だけでなく、経済的なものなど様々な被害があり、多くのものを失ってしまうものです。新型タバコも含め、タバコは吸っているつもりでも、実は人間の方が吸われて多くのものを失ってしまっていることを感じとってもらいたいです。吸っているものも、紙巻きタバコ以外のすべてのタバコもイメージできるようにしました。
日本対がん協会は、1958年の設立以来「がんで苦しむ人や悲しむ人を1人でも減らす」ことを目標に、がん検診の推進・がん患者や家族のサポート・正しいがん知識の普及啓発などの活動を行っている。
その中で取り組んでいるのが、「タバコゼロ・ミッション」。
日本対がん協会は「がんの予防可能な最大の原因であり、治療(手術、化学療法、放射線療法)のリスクも高めるもの」がタバコであるとして、2018年には「タバコゼロ宣言」を公表。がん予防活動の中心に「禁煙推進」を置いているのだ。
それらの禁煙推進活動のひとつが、ポスターの製作。
これまでに作られたポスターも衝撃的なデザインになっており、たとえば2016年のポスターはタバコの焦げ跡が肺の形を作る「吸うほどに、蝕まれていく」。
2017年は「まとわりつく。つきまとう。逃げられない。喫煙リスク」のキャッチコピーと共に、タバコの煙が手の形になって喫煙者を背後から抱きしめるデザインになっている。
タバコの毒性や依存性をクローズアップしたポスターが並ぶ中で、今年は「タバコの被害」に注目。
タバコ被害によってさまざまなものを吸い取られてしまうことに気付いてほしい、というメッセージをこめた作品になっているのだというのだ。
――ポスターのデザインはどのように決めた?
ポスターの制作会社の担当者らにその年に強調したい点を伝え、何作か候補を出してもらい、その中から選びだしながら、さらに詳細を詰めていきました。
――これまでのポスターで特に反響が大きかったものはどれ?
2013年の「たばこ1本で、寿命は5分30秒縮む」というキャッチコピーの、煙が死神になった作品ですが、今回(2019年のポスター)はそれ以上の反応でした。
――ポスターへの反響について…
タバコは健康面だけでなく、経済的なものなど様々な被害があり、多くのものを失ってしまうものであるということを強く意識してもらいたいと思っていたので、今回、ポスターを見ていただいた方々の反応はうれしいです。
「加熱式含め、“タバコゼロ”の社会を目指す」
今回のポスターはそのショッキングなデザインも相まってか、これまでに作製したポスターの中で最も反響が大きかったというが、一方でタバコが長年の習慣になっている人からは「がんとタバコは本当に関係があるの?」「加熱式タバコにすればいいのでは」などの声も。
――禁煙ががん予防に有効な理由は?
国内の研究では、がんになった人のうち、男性30%、女性5%はタバコが原因だと考えられています。また、がんによる死亡のうち、男性34%、女性6%はタバコが原因だと考えられています。
タバコの煙には70種類以上の発がん物質が含まれており、喫煙は全身10ヵ所のがん、肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔(びくう)・副鼻腔、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱および子宮頸(けい)部のがんと因果関係が「確実」であることが判明しており、がんを予防するためには、タバコを吸わないことが最も効果的と言われています。
――加熱式タバコの普及も進んでいますが…
加熱式タバコを含むすべてのタバコ製品は有害性と依存性の観点から規制対象とすべきと考え、日本対がん協会では昨年タバコゼロ宣言を出しています。
――では、禁煙啓発は進んでいると言える?
まだ十分ではないものの、職場の禁煙支援を健康経営ととらえて推進する企業も増えてきており、確実に広まってきていると思います。
――今後、どのような活動を通してタバコゼロを呼びかけていきたい?
今回のような禁煙ポスターなども含め、協会のイベント、HPなど各種の協会の活動の中で、禁煙ががん予防の一丁目一番地であるとして、タバコゼロ社会の実現を目指して禁煙を強く推進していきます。
来客を含め完全禁煙を打ち出す企業や、部署内の喫煙者の割合が一定数を下回るとボーナス査定にプラス…など、禁煙への働きを進める企業は増えている。
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一方で、タバコがストレスの解消や長年の習慣となってしまっている人にとって、禁煙に踏み出すというのはなかなか難しいことだろう。
しかしこのポスターを見て、少しでもドキリとした喫煙者は、今一度タバコとの付き合い方を見直してみるのもいいかもしれない。