発災から5日。10月17日に安倍首相は、台風19号の被害が大きかった福島・宮城両県を視察に訪れました。

被災地で行方不明者の捜索や被害の復旧作業が懸命に続けられているためか、この日程の調整はギリギリまでずれ込みました。首相周辺を取材していても、「安倍首相が被災地に入れるのはもう少し先ではないか」という感触でした。

結局、日程が確定したのは前日の夜。安倍首相としては、前日まで続いた参議院の予算委員会などの国会日程が一段落してすぐ、被災地を訪問することになりました。

(福島県を視察する安倍首相・10月17日)
(福島県を視察する安倍首相・10月17日)
この記事の画像(10枚)

避難所で被災者たちは・・・

安倍首相が最初に訪れたのは福島県郡山市。阿武隈川などの氾濫により、広範囲で浸水被害のあった地域です。

氾濫した阿武隈川
氾濫した阿武隈川

安倍首相は、この日までに非常災害対策本部会議を6回開き、「プッシュ型支援」を各省に指示してきました。政府が進めているのは、水や食料、衣類に加え、防寒のための毛布、段ボールベッドなどを、自治体からの要請が来る前に政府から発送する支援です。

避難所となっている郡山市の小学校の体育館で、安倍首相が目にしたのは、薄い段ボールを2,3枚重ねた上に敷布団を敷いただけの寝床が点々と置かれた光景でした。

敷布団の間にはパーテーションなどの間仕切りはありません。プライベートを少しでも確保するためか、ある程度の間隔はとられているだけでした。

広い体育館の中央に数台の石油ストーブが設置されていましたが、朝晩の冷え込みは相当厳しいのではないかと思いました。

避難所の小学校体育館(福島県郡山市10月17日)
避難所の小学校体育館(福島県郡山市10月17日)

川の決壊で自宅が浸水してしまったという高齢の女性は安倍首相に、「まさかと思う(水の)量だった」と自分の経験を生々しく語りました。

安倍首相は、「きょうから自衛隊の入浴支援が始まる」「医療チームもすぐ来ると思うので、健康維持に気をつけてください」などと言葉をかけました。

(避難者の話に耳を傾ける安倍首相 福島県郡山市10月17日)
(避難者の話に耳を傾ける安倍首相 福島県郡山市10月17日)

堤防が決壊した被災地で・・・

この後、安倍首相は、阿武隈川支流の堤防が決壊した福島県本宮市を訪れました。崩壊した堤防を埋めるように積み上げられた土嚢を見つめながら、本宮市の高松市長から復旧作業の進行状況の説明を受けました。

復旧中の阿武隈川支流の堤防(福島県本宮市・10月17日)
復旧中の阿武隈川支流の堤防(福島県本宮市・10月17日)

堤防沿いの住宅の前には、黒ずんだ水分を含んだマットレスやぬいぐるみ、椅子やタンスなどの家財道具が積み上がり、道路にはぬかるんだ泥に多くの靴の跡が残っていました。

また、安倍首相の一行の近くでは、長靴を履き、白や黄色のごみ袋を提げて家の中から出てくる住民の姿が多く見かけられました。

道路に積み上げられた家財道具など (福島県本宮市・10月17日)
道路に積み上げられた家財道具など (福島県本宮市・10月17日)

「総理!丸森を助けてくれ!」

宮城県で安倍首相が視察したのは、大規模な浸水により、一時、役場が孤立状態にあった丸森町です。丸森町のこの日の朝の最低気温は4.6度と、今季一番の冷え込み。視察は午後2時ごろでしたが、服の間に冷気がサッと入ってくるような寒さを感じました。

安倍首相を待つ人たち( 福島県丸森町・10月17日)
安倍首相を待つ人たち( 福島県丸森町・10月17日)

避難所となっている町民センターの周囲には、多くの避難者とみられる人々が安倍首相の到着を待っていました。母親に脇を抱えられ2階の窓から身を乗り出す小さな子どもの姿もありました。

安倍首相がバスから降り、避難所に入ろうとした時、人々の中から、ひときわ大きな声が響きました。

総理!丸森を助けてくれ!

安倍首相の到着でざわついていた周囲の空気が一瞬、止まったように感じました。

被災者の声に安倍首相はどう答えるのでしょうか。

その時は何も語らず避難所の中に入っていきました。

そして、およそ20分後、私たち記者団の前に姿を現した安倍首相は、被災者への思いを語りました。

悲痛な被災者の声に安倍首相は・・・

「土砂災害のすさまじい爪痕を目のあたりにした。被災者の皆様から、大変つらいお気持ち、不安な思いや困難な状況についてお話を伺った。政府として、行方不明者等の捜索、ライフラインの復旧等に全力を尽くす。被災者の皆様の生活支援を迅速に進めていく。」

記者団のインタビューに答える安倍首相( 宮城・丸森町・10月17日)
記者団のインタビューに答える安倍首相( 宮城・丸森町・10月17日)

そう語り始めた安倍首相は、こう宣言しました。

今回の災害を特定非常災害に指定することとする。

「特定非常災害」に指定されれば、運転免許の更新、飲食店の営業許可といった行政手続きの期限の延長など、特例措置を講じることができ、被災者の生活再建の一助となります。

この言葉の通り、政府は、翌18日、「特定非常災害」の指定を閣議決定しました。

また、加藤厚生労働大臣は、今回の台風被害で保険証をなくしたり、財政的な基盤を失ったりした被災者について、一定の要件を満たせば、医療費や介護費の負担を免除するよう関係機関に要請すると表明しました。

政府の支援は拡充されつつあります。近く「激甚災害」にも指定される見通しです。

しかし、今回の被害はあまりにも甚大です。

グラウンドに積み上げられた災害廃棄物 (宮城県丸森町・10月17日)
グラウンドに積み上げられた災害廃棄物 (宮城県丸森町・10月17日)

私が安倍首相とともに訪れた避難所では、浸水によって発生した災害廃棄物が、人の背丈よりも高く積まれていました。そこに災害廃棄物を積んだ小型トラックが休みなしにやってきて、畳やソファーなど、新たな災害廃棄物が投げ込まれていきました。

同行した武田防災担当大臣も「すごいな」と言葉を失うほどでした。

被災地の復旧、生活の再建のためには、やらねばならないことが山積しています。

安倍首相は、20日には、千曲川が氾濫し大きな被害の出た長野県を訪れました。

一連の安倍首相の被災地の視察により、より被災者の身になった具体的な支援が行われることを期待したいと思います。

(フジテレビ政治部官邸クラブ 総理番記者 亀岡晃伸)

亀岡 晃伸
亀岡 晃伸

イット!所属。プログラムディレクターとして番組づくりをしています。どのニュースをどういう長さでどの時間にお伝えすべきか、頭を悩ませながらの毎日です。
これまでは政治部にて首相官邸クラブや平河クラブなどを4年間担当。安倍政権、菅政権、岸田政権の3政権に渡り、コロナ対策・東京五輪・広島G7サミット等の取材をしてきました。