よちよちと歩く姿や丸みを帯びたフォルム...ペンギンはいつだって水族館の人気者だ。
その中でも、生後間もない“赤ちゃんペンギン”は特に愛らしい。ふわふわの羽毛に覆われ、つぶらな瞳を輝かせながらあちこち動き回る姿なんて、時間も忘れて眺めていられる。

孵化して間もない赤ちゃんペンギン。この頃は体重約300グラム
孵化して間もない赤ちゃんペンギン。この頃は体重約300グラム
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そんな小さな命が今秋、和歌山・白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」で生まれた。
ここで2019年10月1日に孵化したのが、「エンペラーペンギン」(コウテイペンギン)のひな。名前は非公開で生別はまだ不明だが、 10月15日現在、体長約13cm、体重約520グラムと、すくすくと元気に成長している。



アドベンチャーワールドの公式Twitterアカウント(@aws_official)では、孵化してからの成長も投稿していて、小さいながらもしっかりと立つ姿を見られる。食事シーンもあり、お腹を空かせた赤ちゃんペンギンは、親ペンギンからご飯をもらって...

と思いきや、何かが違う。

飼育員の怪しい姿を尻目に、赤ちゃんペンギンは食欲旺盛
飼育員の怪しい姿を尻目に、赤ちゃんペンギンは食欲旺盛

そう...赤ちゃんペンギンに餌付けしているのはなんと、ペンギンのかぶり物をした人間だ。動物の生命を守ろうと人間が育てることはあるが、その動物自体に仮装するのは珍しい。
そして、よく見ると手袋もペンギンの顔のデザインのようだ。

この様子を見たネットユーザーからは、「飼育員さんもペンギン」「今はペンギン人間が飼育するのか」という反応もみられた。なぜ、このような取り組みをしているのだろうか。

アドベンチャーワールドの担当者に聞いたところ、意外な理由が隠れていた。

初めて見た動く物体が親…“刷り込み”は繁殖を阻害してしまう

――なぜペンギンのかぶり物をして餌を与えている?

飼育スタッフを親と認識させないためです。
当施設では、エンペラーペンギンのひなを確実に育てるために「人工育雛」(卵の状態から人間が育てること)をしていますが、鳥類には、生まれて初めて見た動く物体を親と認識する「刷り込み」という習性があります。

生まれたばかりの人間の姿で餌をあげると、人に慣れ過ぎてしまい、ペンギン同士で繁殖しなくなる恐れもあるのです。これを防ごうと、2013年頃から親鳥に仮装して餌をあげています。


――他に工夫していることはある?

親鳥から餌をもらったと思えるように、くちばしに見立てた手袋も装着しています。
聴覚的な工夫もしていて、餌をあげるときは声を発さず、録音した親鳥の鳴き声を聞かせています。ひなの近くでは会話も控え、大人のエンペラーペンギンの鳴き声も聞かせるようにもしています。

よく見ると...手袋に目やくちばしが描かれている
よく見ると...手袋に目やくちばしが描かれている

――飼育スタッフが仮装して育てるのは珍しい?

珍しいと思います。当施設には多種類のペンギンがいますが、仮装して育てるのは、エンペラーペンギンのひなだけですね。エンペラーペンギンは大きくて重いので、親鳥が育てるとひなが潰れてしまったり、水辺に落ちる事故が起きる可能性もあります。飼育数も少なく、日本では当施設と名古屋港水族館(愛知)でしか飼育していません。


刷り込みは親への愛着につながる本能だが、人間が親と認識されると繁殖を阻害する要因となるようだ。
しかし、生まれたばかりのひなを取られたら、親鳥は快く思わないのではないだろうか。
アドベンチャーワールドはここでも、気遣いをしていた。

親鳥には“優しいうそ”をつく

――親鳥は子どもがいないと勘違いしてしまうのでは?

エンペラーペンギンに限らず、ペンギンの卵を預かって育てるときは、親鳥に石灰で作った偽物の卵を抱かせて、まだ孵ってないように思い込ませています。ひなが成長して親元に帰す段階となったら、ひなの鳴き声を聞かせるなどして、親鳥が受け入れられるようにしています。

今年のひなの親鳥からは、子どもを守ろうとする本能や欲求を感じているので、今のところは問題ないと思います。親として育てよう、守ろうとする姿には私たちも学ぶものがあります。

生後10日齢頃の赤ちゃんペンギン。羽毛がしっかりしてきた印象
生後10日齢頃の赤ちゃんペンギン。羽毛がしっかりしてきた印象

――ひなの状態は?

おかげさまで元気いっぱいです。お客さんへの一般公開も4日齢からと、かなり早い段階から見ていただけています。
ひなの状態やタイミングが合えば、ごはんを食べる様子も見られますよ。

ひなの一瞬一瞬はとても貴重

――ひなを見に来る人伝えたいことは?

ペンギンのひなは哺乳類に比べて、あっという間に成長するので、皆さんが見る一瞬一瞬はとても貴重な時間です。生まれたばかりの頃は片手に載る大きさでしたが、お腹が空いて鳴いたり餌をもらうときは、生後間もないとは思えない、力強さを感じました。赤ちゃんとしてのかわいさと動物としての力強さ、どちらも感じていただければと思います。

ひなは暖を取るため、親元に帰ってしばらくは足元で暮らす
ひなは暖を取るため、親元に帰ってしばらくは足元で暮らす

――これからはどう育てていく?

10月18日現在、ひなはまだ親鳥に帰していません。状況を見て判断していきます。
これから親鳥の元に戻ると、生後1カ月後くらいまでは親の足元で育ちます。足元にいるときは見えにくいかもしれませんが、顔を出したり、親から餌をもらう姿を見ることもできます。親鳥の下で安心する子どもと、懸命に温めて子育てする親との絆を感じていただけると思います。

ちなみに、赤ちゃんペンギンの体もしっかりしてくるので、2018年は親がうつ伏せで寝ているところにひなが寄りかかり、人間でいう川の字に寝る姿も見られました。リラックスしている時間も増えてくるので、その姿に癒されるのではないでしょうか。

2018年に生まれたペンギンとその親鳥。子どもが親鳥を見上げているように見える
2018年に生まれたペンギンとその親鳥。子どもが親鳥を見上げているように見える

赤ちゃんペンギンは、アドベンチャーワールド内の施設「ペンギン王国」で公開されていて、運が良ければ親ペンギンとの触れ合いも見られるとのことだ。ペンギンの成長は早いというので、今のうちにかわいらしい“小さな皇帝”を見に行ってみては?

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。