「眠れない」というとき、あなたの心と身体はどうなっていると思いますか。
不眠におちいったとき、当然、あなたは眠ろうとします。でも、眠ろうとすればするほど、焦って目がさえてしまいがちです。「早く眠らなきゃ」などと心の中でつぶやきながら悶々とした経験は、誰しもあるのではないでしょうか。
そのとき、あなたの心は追い詰められ、全身の筋肉は緊張してコチコチに固くなっているのです。
眠りたければ“眠ろうとしない”
この記事の画像(5枚)睡眠とは、臥床(床につくこと)→心のリラックス→筋肉の弛緩→入眠という一連の流れから成り立っています。でも、眠ろうとする努力は心と身体の緊張を高め、これとまったく逆のことをしていることになります。つまり、臥床→心の緊張→筋肉の緊張→覚醒です。これでは、眠れるはずがありません。
では、眠りたければ、どうすればいいでしょうか。眠ろうとするから眠れないのですから、まず、眠ろうとしないことです。
ふざけているのではありません。先の睡眠の流れをもう一度見てください。
眠ろうとする努力は、「心のリラックス」と「筋肉の弛緩」を飛び越えて、最後の「入眠」ばかりを意識している形になっています。でも、重要なのは、「心のリラックス」と「筋肉の弛緩」なのです。臥床→心のリラックス→筋肉の弛緩の部分だけに注目し、最後の入眠については、いっさい考えません。
この2つに着目した入眠法をご紹介しましょう。
まず、臥床です。横になるときには、全身の筋肉が弛緩しやすいような姿勢を取ること、つまり、仰向けになることが重要です。
足は肩幅程度に開き、腕は軽く身体から離してリラックスしてください。手のひらは、下向き、敷き布団の側に向けます。そのとき、やや顎を突き出すようにして、喉にかけてがまっすぐになるようにします。頭頂部よりやや後ろで布団と接する形です。これが、人間がもっとも脱力できる姿勢です。
枕は、できれば使わない方がいいでしょう。枕を使うと、どうしても首が前屈ぎみになり、首から肩にかけての筋肉に緊張が起こります。枕があったほうが落ち着くという方は、首枕やタオルを2、3枚重ねる程度にするなど、できるだけ低くするべきでしょう。
次に、顎の力を抜いてください。なぜ、顎かというと、「眠れない」という精神的緊張が筋肉の緊張をもたらすとき、全身が一様に固くなるのではなく、下半身より上半身の筋肉、特に顎から首、肩、上腕にかけての筋肉、中でも、顎の筋肉である咬筋(こうきん)が緊張するからです。
ひたすら咬筋の力を抜いてください。電車で居眠りをしている人のように、口をぽかんと開けるイメージです。これでもか、というくらい、徹底的に抜き続けてください。そうすると、自然と首から肩にかけての筋肉群も力が抜けてきます。さらに、上腕から二の腕へと脱力が波及し、やがて全身がリラックスしてきます。
つぶやくと眠れない
この過程で同時にやっていただきたいことが、心のリラックスです。
心のリラックスとは何でしょうか。それは、頭の中で何もつぶやかないことです。冒頭、眠れないとき、「早く眠らなきゃ」「眠れなかったら明日が大変だ」などとつぶやいていると言いました。まさにこれが、心のリラックスができていない状態です。
では、つぶやくと、なぜ眠れないのでしょう。
つぶやきは言語なので、脳の前頭葉と側頭葉にある言語中枢が活性化しています。この言語中枢が働くと、脳の他の部分、記憶や感情、論理性にかかわる部位も一緒に働くということになり、結局、つぶやくことによって脳の機能全体が総動員され覚醒の方向に傾くのです。だから、眠れないのです。
「頭の中でのつぶやき」が不眠の元凶なわけですが、ほとんどこのことを自覚されません。
つぶやきを止めるには、まず、つぶやいていることの自覚から始めます。
自覚ができたら、声を出してしゃべっているのを止める感覚で、心の中のつぶやきを止めてみます。おそらく、しばらくはできても、その数秒後にはまた何かをつぶやいていることでしょう。でも、あきらめてはいけません。
顎の力を抜きつつ、繰り返し、つぶやきを止めます。そのための一つの方法として、「アーを繰り返す」があります。頭の中では、同時に2つ以上のことはつぶやけないので、次々に出てくる言葉を「アー」の一音に置き換え、次々に湧いて出てくる独り言を抑え込むのです。
快適な毎日を過ごすために大切な睡眠
この一連の流れを体得することができれば、入眠は自然とついてきます。練習が必要な方法ではありますが、一度コツを掴んでしまえば、案外簡単にできるようになります。ぜひ、トライしてみてください。
睡眠は、人間の精神活動にとってとても重要な要素を占めています。もし、質の悪い睡眠が続いてしまうと、注意力が散漫になり、仕事のパフォーマンスが落ちます。また、冷静に考えることができず、感情が優位になります。
ちょっとした人の言葉にカチンときたり、ストレスへの抵抗力が弱まります。音や匂いに過敏になって落ち着かなくなってしまいます。体内的には、自律神経の一つの交感神経が慢性的な過活動状態になり、動悸や高血圧など、身体の変調にもつながります。
私たちが快適な毎日を過ごすにあたって大切な睡眠です。もし、あなたがよく眠れていないなら、ここに挙げた方法を試してみるようおすすめします。
執筆:森下克也
もりしたクリニック院長。著書に『お酒や薬に頼らない「必ず眠れる」技術』(角川SSC新書)や『うつ消し漢方―自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』(方丈社)などがある。