霞が関の働き方について、どのようなイメージをお持ちだろうか。国政を担う中央官庁の官僚の働きぶりをめぐっては、当然ながら「激務」の印象があろう。「不夜城」「ブラック」と評する報道も少なくない。
一方で、民間企業も羨むような「働き方改革」の取り組みが行われ、着実に成果を上げていることも事実だ。それはすなわち、「男性の育休」の取得だ。

男性の育休率21.6%!過去最高を記録

常勤の国家公務員は、子供が3歳になるまでの間、男女を問わず育児休業を取得できる制度となっている。

人事院は、2018年度の国家公務員の育児休業取得状況を発表し、一般常勤の男性職員の取得率は前年度比+3.5ポイントの21.6%となった。人数でみると、前年度より約170人増えて1,350人。
取得率が20%を超えたのは初めてのことで、6年続けて過去最高を更新しており、4年前の392人から約4倍となっている。

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一方で、民間企業での「男性の育休」取得率は、6年連続で上昇しているものの6.16%にとどまる(2018年度・厚労省雇用均等基本調査)。国家公務員の「男性の育休」は、どうしてここまで高いのか。

男性の育休は「当たり前」
霞が関における「働き方改革」を推進する内閣人事局に取材したところ、「男性の育休」が普及した理由として、大きく3点が挙げられる。

① 幹部の評価に直結!トップダウンで意識改革

(安倍首相のスピーチ WAW2016!公開フォーラム・2016年12月13日)
(安倍首相のスピーチ WAW2016!公開フォーラム・2016年12月13日)

「家事や育児は夫婦で共に担う。子供が生まれた直後から夫が育児に取り組めるよう、男性の育休に加え、妻の出産直後の休暇、いわば男の産休の取得を推奨していきます。」(中略)
「家事をしないことで悪名高き、私は違いますが、日本男性たちにとっては、いよいよ名誉回復のチャンスだと思っています。」

これは、3年前の国際会議での安倍首相の発言だ。ユーモアを交えながら「男性の育休」の普及を促した。

男性の育休について政務三役が声掛けを行ったり、ビデオメッセージで取得を促したりする省庁もある。民間企業で例えるところの、まさに「社長の経営方針」だ。役所という上意下達の組織において、まずはトップダウンで「男性の育休」取得を促す方針を打ち出したことが大きいようだ。

こうした方針について、各府省の事務次官等で構成される「女性職員活躍・ワーク・ライフ・バランス推進協議会」でもフォローアップが行われている。

女性職員活躍・ワーク・ライフ・バランス推進協議会(6月28日)
女性職員活躍・ワーク・ライフ・バランス推進協議会(6月28日)

② 霞が関の必携「イクメンパスポート」「面談シート」

(82ページに及び、印刷製本もしっかりしている「イクメンパスポート」)
(82ページに及び、印刷製本もしっかりしている「イクメンパスポート」)

男性の場合、配偶者の妊娠が目に見えないため、自ら打ち明けない限り把握が出来ない。そこで、部局内の円滑なコミュニケーションを図り、いわゆる「無言の圧力」をなくすための取り組みが進められている。
内閣人事局は「男性職員の育児休業等取得促進ハンドブック」、またの名を「イクメンパスポート」を配り、「男性の育休」取得をめぐる制度や好事例の紹介、上司向けのアドバイスなどを載せ、周知を図っている。

(管理職向け「イクボスのススメ」のページ)
(管理職向け「イクボスのススメ」のページ)

加えて、「男性の育休」を「取得する前提のもの」と位置付けたうえで、「取るかどうか」というよりは「いつ、どのように取るか」を聞き取るために、上司が部下と面談する際は「チェックシート」が用いられている。

③ 自衛隊ならではの“事情”にも配慮
前述した人事院の発表は、自衛官に代表される特別職の公務員を調査対象としていない。自衛官の「男性の育休」取得率については、11月に内閣人事局が発表する。
自衛官は、妻が専業主婦の家庭が多いことや、勤務の特殊性から、「男性の育休」取得率が一般の公務員より低い傾向にある。ただ、関係者によると、自衛官の取得率も改善してきているという。
内閣人事局は、自衛隊ならではの“事情”に配慮した啓発ポスターを作成し、取得を促してきた。

そう、ご覧のように、陸海空の自衛隊でそれぞれ別のポスターを作成したのだ。
「自衛官は、自らの組織への所属意識が強く、例えば陸自隊員には陸自の制服のポスターを見せるのが一番効果的」(政府関係者)という事情ゆえの、特徴的な取り組みだ。特別職の「男性の育休」取得状況改善は、こうした配慮もあってのことかもしれない。

省庁ごとに差も…今後の課題は

「男性の育休」をめぐる状況は総じて改善しているが、改善の余地も残っている。

(人事院資料より)
(人事院資料より)

こちらが省庁ごとの取得状況を示した表だが、各省庁間の取得状況にばらつきがあることがうかがえる。
また、例えば国税庁には全国の税務署が含まれ、財務省には各地の税関が含まれているなど、“激務”のイメージが強い「霞が関」の中央官庁に限定した取得状況は必ずしも見えてこない

また、前掲の人事院の発表によると、男性の休業期間は「1か月以下」が72.1%で、その内訳としては、「2週間以上1か月以下」の取得者が49.7%と最多だ。
これを長いととらえるか短いととらえるか、様々な見方があると思うが、女性の場合は12か月以上の取得者が過半数と、男女間の差が顕在化している。
人事にかかわる政府関係者は「収入の減少にもつながるため、育休取得を強制するのではなく、まずは意識改革と取得のしやすい雰囲気づくりが重要だ」と語る。

安倍首相は前出のフォーラムにおけるスピーチで、「男の育休」について「まず隗より始めよ」と強調し、霞が関における普及を促した。中央省庁が模範を示し、それが民間企業にも広がっていって、「イクメン」をめぐる社会の環境が良い方向に向かうことを強く期待をしたい。

フジテレビ政治部 首相官邸担当 山田勇

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部