赤地に白いハートと十字マークが入った「ヘルプマーク」

見た目では分からなくても援助や配慮を必要としている人々が、そのことを周囲に知らせるためのマークだ。

ヘルプマーク
ヘルプマーク
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「ヘルプマーク」については以前編集部でもとりあげたが、「マタニティマーク」や「オストメイトマーク」など、いろいろなマークを街中で見かけるが、まだまだその周知が進んでいる、とは言えないのが現状だろう。
(参考記事:「ヘルプマーク」知ってますか? 浸透してない“SOS”


そんな中で、しばしば問題になるのが“助けてほしい人”と“助けたい人”のすれ違いだ。

SNSには「ヘルプマークをつけていたが、電車で席を譲ってもらえなかった」「ヘルプマークをつけた人を見かけても、何を手助けしたらいいか分からず結局何もできなかった」など、様々な体験談が投稿されているが…

困っている時に助けを求めた相手が、たまたま「今は手助けできない…」という場合もあるはず。

また、手助けしたい側からしても「今申し出たら逆に困らせてしまうかもしれないし、具体的に何ができるだろう…」と二の足を踏んでしまうことがあるだろう。

そんな、双方にとって悲しいすれ違いが減らせるかもしれない「サポートハートマーク」をご存じだろうか。

サポートハートマーク
サポートハートマーク

大きなハートマークを人が支えるデザインのこのマークは、「サポートハートプロジェクト(旧: 見えない疾患・障害啓発プロジェクト)が考案したものだ。

見えない障害や病気でサポートを必要としている人が、街中で助けを求めやすくなるように、困っている人を助けたいと思っている人が身に着ける、いわば“逆ヘルプマーク”なのだ。

確かに、このマークをつけていれば、ヘルプマークをつけている人が「何らかの理由で今、手助けすることができない」という人に声をかけてしまうこともなくなるし、反対にサポートハートマークをつけている人は「手助けしたいと思っています」という意思を常に発信していることで、サポートを必要としている人とよりマッチングする可能性が高まるだろう。

互いにwin-winの関係性が築けそうなマークだが、理想としてはそもそもこのようなマークがなくとも、自然とサポートし合えるのがベストのはず。

「サポートハートマーク」をつけることで一体何が変わっていくのか、サポートハートプロジェクト代表の酒井晃太氏にお話を伺った。

「サポートハートマーク」は福祉を学ぶ学生が考案

――「サポートハートマーク」を作ったきっかけは?

まず、「見えない疾患・障害啓発プロジェクト」は、ヘルプマークがまだ普及していない地域に対して、ヘルプマークの代用となるものを提供するために発足(私一人だけでしたが)しました。

その後、ヘルプマークが急速に各都道府県で導入され、これからどんな活動をしていこうか…と考えていたところ、「声をかけてくれたら助けるつもりだけど、自分からヘルプマークなどをつけている人に声かけするのは勇気が出ない。『助けられるから、声をかけてね』というマークも欲しい」というご意見をいただき、サポートハートマークができました。


「サポートハートプロジェクト」は、主に福祉関連を学ぶ学生で構成された団体で、酒井代表も日本福祉大学(愛知県)で福祉を学ぶ学生だ。

自身も広汎性発達障害・気分変調症という見えない障害に苦しんだ経験があることから、「目に見えない障害や病気のために困っている人がもっと生きやすくなるように、何か自分にできることをやりたい」と思うようになったという。

現在制作中のチャーム(@Mienai_Projectより)
現在制作中のチャーム(@Mienai_Projectより)

――現在までにどれくらいの人が使っている?

マークの販売個数としては、過去3年間の累計で500個ほど販売しています。インターネットを通してマークの、無償ダウンロードも可能となっていますので、実際はこれより多くの方が使用されていると考えられます。

今までは販売のみでしたが、「ヘルプマークの逆」という立場を考えると無償配布が適しているのでは、と考え、10月下旬に1300個のチャームを製作・配布開始予定です。

“逆ヘルプマーク”にも様々なマークが登場…紛らわしい?

“逆ヘルプマーク”と聞いて、SNSなどで別のマークを見たことがある、という人もいるだろう。

実際、サポートハートマークのような「手助けしたい」「手助けできます」という意思表示のマークは他にも存在し、また、ヘルプマークと同様に「見えない障害」があることを示すマークも数多く存在する。

確かに、様々なデザインのマークが生まれれば、より多くの人が身に着けることができるだろうし、単純に好みのものを選ぶこともできるだろう。しかし、マーク自体の認知度が低ければ意味が伝わらないはず。

いろいろなマークが“乱立”しているとも言える現状について、SNSなどでは「マークが広まってくれると嬉しい」という好意的な意見だけでなく「似た意味のマークがたくさんあるのは不便なのでは?」といった疑問の声も挙がっている。


――いろいろなマークが生まれていることについてはどう捉える?

当方のスタンスとしましては、「マークの意味がきちんと伝わるなら、同じような意味をもつマークが複数あってもよい」と考えています。

ヘルプマークと似たようなメッセージ性をもつマークはほかにもありますし、逆に赤地に十字とハートだけのストラップ(ヘルプマーク)が、どんなメッセージを持っているのかは理解しづらいと思います。

私たちは「そのマークが言いたいこと」が付記してあることが最適解ではないかという考えを持っています。その考えに基づき、サポートハートマーク利用ガイドラインでは「お手伝いをします・お声がけください」というメッセージを、マークの近くに付記するように定めています

「支援します」「〇〇ができます」など、具体的なメッセージが入ったタイプのもの
「支援します」「〇〇ができます」など、具体的なメッセージが入ったタイプのもの

異なるデザインのマークが増えることについては肯定的であり、大切なのは「マークの意味がきちんと伝わること」だと酒井代表は語る。

そのため、サポートハートマークは使用する際「お手伝いをします・お声がけください」などのメッセージを添えることをお願いしているのだ。

「本来はマークの必要ない社会が理想」

もうひとつ問題なのが、電車内でわざとぶつかられたり、優先席に座っていることを咎められたりなど、ヘルプマークをつけていることでトラブルに巻き込まれてしまうことがある、ということだ。

そのため、ヘルプマークをつけること自体に消極的な人も多いというが、もしかしたらこういったトラブルの防止にも、サポートハートマークが役立つかもしれない。


――「ヘルプマークをつけていること」でトラブルに巻き込まれてしまうこともある。このことについてどう捉える?

ヘルプマークを身に着けるということは、言い方は悪いですが「私は社会的弱者です」というメッセージを周囲に発していることになります。これはホームレス襲撃や妊婦いじめと同様で、一部の心ない人にとって一種の「ターゲット」になりうる存在であると認識しています。

このような行為は決して許されることではありませんが、私たちからは具体的な対抗策を考えることができていないことも事実です。そこで「ヘルプマークを着用しない」という消極的な回避策もあるわけですが、そういった「ヘルプマークを着用してないけど、困りごとのある人」に対して、サポートハートマークのような「助けます」という意思表示があると、ヘルプマークを着用していなくても援助をお願いしやすくなるのではないかと考えています。


――ヘルプマーク、サポートハートマークの周知は進んでいる?

私は「ふくしの総合大学」を自称する大学に通学していますが、そういった大学でもヘルプマークを知らない学生がいるぐらいですから、一般への周知はほとんど進んでいないと言ってもいいのではないでしょうか。

現代の日本人は、情報入手手段としてはスマートフォンが圧倒的に多く、駅などにポスターを掲出しても、あまり見られないのが実情です。そういった中、SNSでこれらのマークについて拡散してくれる人は非常にありがたい存在と感じます。


――ヘルプマークを使っている当事者に、サポートハートマークの周知は進んでいる?

あまり進んでいないと思われます。

私たちはいままで、「サポートハートマークを使用してくれる立場の人」に向かってPRをしてきましたので、当事者への浸透はまだまだというところです。

そのため、先述しましたサポートハートマーク配布にともないPRチラシを一新して、「当事者向け」「一般向け」の2種類のチラシを製作し、「当事者向け」は役所で福祉手帳やヘルプマークを交付する際に一緒にお渡しして周知を図ることも考えています。


――今後、サポートハートマークがどのように広まっていってほしい?

ヘルプマークもサポートハートマークも必要ない社会が一番望ましい
ですが、そのためには「目の前の人は、実は困りごとを持っているのかも…という想像力」と「もしかしたら明日、自分も困りごとを持つことになるかもしれない、という当事者意識」が不可欠だと考えています。

サポートハートマークはもちろん、困りごとを持つ方が安心して援助をお願いできる社会をめざして広げていきますが、想像力や当事者意識を持っていただくきっかけとしても、広まっていってほしいなと思います。



本来、これらのマークを使わずとも、自然と助け合える社会が理想のはず。しかし、現実はこのように、まずはサポートが欲しい人・サポートしたい人の双方が安心できる環境を作っていくことから始めるべきなのだろう。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。