最近よく耳にするのが「昔と比べて気象災害が増えて被害も拡大している!」というフレーズ。
これは間違い!

昔に比べたらインフラも整備されて、昭和の三大台風と言われる伊勢湾台風や室戸台風、枕崎台風のように何千人も亡くなる気象災害はなくなりました。
それでも災害が多く感じるのは、過去に経験したことのない雨の降り方や、今までいつもギリギリで耐えていた河川が耐えきれずに氾濫したり、土砂災害を引き起こしたり、その地域で常識のように考えられていたことが覆されて大災害につながるケースが多いからかもしれません。

もし、台風15号が少しだけ西にずれていたら…

今年も日本列島は気象災害に見舞われました。
8月には佐賀を中心に九州北部で大雨特別警報が発表。
50年に一度の大雨と言いつつ、毎年どこかで発表されている大雨特別警報。

9月9日には強い勢力で台風15号が千葉に上陸しました。
この台風は伊豆半島の東を通過し、東京湾を北上するという珍しいコースをとりました。
割とコンパクトでしたが、台風としてはよく発達していて、中心が近づくと急激に風が強まるタイプでした。
正直、関東に接近する台風の中には大して被害が出ないだろうけど「腐っても台風…」一応警戒を呼びかけておかないとって時もありますが、今回の15号は関東直撃コースが予想され接近前から大きな被害が出る恐れがありました。
東京湾を北上したため、一番風の強い台風中心のすぐ東側が房総半島にあたってしまいました。

台風15号でゴルフ練習場の鉄柱が倒壊(千葉・市原市)
台風15号でゴルフ練習場の鉄柱が倒壊(千葉・市原市)
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千葉では最大瞬間風速57.5メートル。
観測史上1位の暴風を観測しましたが、私が実験施設で同じくらいの風を体験したときにはとてもじゃないけど立っていられませんでした。その場にうずくまり飛ばされないように地面に這いつくばるのがやっと。
千葉県では台風通過後も長期間停電被害が解消されず、未だに復旧していない地域もあるほど。

この台風15号がもし東京湾ではなく、少しだけ西へずれて神奈川県から東京23区西部あたりを通過していたら都心が風速50メートル以上の暴風が吹いていてもおかしくない。
もし都心だったら繁華街で暴風が吹き荒れ、看板落下、ビル風によりさらに風速を増し、公共の交通機関がストップして諦めて歩いている人々を巻き込み、人的被害がさらに多かったかもしれません。

いまいち浸透しない「警戒レベル分け」

2019年の6月から避難勧告などのガイドラインが改定され、警戒レベルを5段階で発表しています。
大雨災害のときに色々な情報が発表されるため、住民が混乱しないようにこれまで発表されていたものをまとめてレベル分けしているのですが、いまいち浸透していない気がします。

5段階と言ってもレベル1が何なのか?いつ誰が避難しなくてはいけないのか?わかりにくいからかもしれません。

簡単に言うと
レベル1は平常
レベル2は注意
レベル3で高齢者など避難に時間がかかる人は準備して避難開始
レベル4で全員避難となりますが、全員避難って???
「みんなでどこ行くんだ~!」ってツッコミたくなるかもしれません。

でもこのレベル4が大事なポイントで、なんのために避難するのかを考えればわかります。
「警戒レベル」は大雨のときの避難の情報ですから、川や崖の近くや冠水の恐れがある地域の人が対象になります。
だから安全な平地や高台、マンションに住んでる人はそこにとどまることが正解!
言い換えればレベル4の全員避難は、「みんなで安全な場所で過ごしましょう!」という意味です。

本当なら自治体や気象予報士が「鈴木さん家は安全ですが、お隣の田中さんは逃げて下さい」って細かく指示を出せればいいのですが、そんなの無理ですよね。
やっぱり自分のいる地域がどういう場所なのか?普段からしっかり把握し、ハザードマップと自分の目で確認しておくことが大切です。
ちなみにレベル5はすでに災害が発生している可能性が高いので、とにかく命を守ることを最優先に行動しなくてはいけません。
外に避難すると危険な場合もあるので、2階、3階に避難する垂直避難や崖の反対側の部屋に移動することも選択肢に入ってきます。

この冬は暖冬の可能性

先日、気象庁から長期予報が発表され、どうやらこの冬は暖冬の可能性が高くなっています。
暖冬と聞くと暖かい冬を想像するかもしれませんが、暖冬とは12月~2月の気温が平年より約0.5℃以上高いことをいいます。
2℃も3℃も高い日が続けば暖かいと感じるかもしれませんが、0.5℃くらいならあまり暖かい印象はないでしょうね。
むしろ暖冬の年は日々の寒暖差が普段より大きくなったり、よく晴れる太平洋側で雨が多くなったり、ポカポカ陽気が続くわけではありませんのでより体調管理に注意が必要です。

今年の9月は残暑が厳しく、10月、11月も暖かい日が多い予想です。
季節の歩みがゆっくりで快適な日が多いのはありがたいのですが、同時に海面水温も平年より高い状態が続きそうです。
南海上には現在台風のたまごがあり、嫌な位置で日本列島を伺っています。
もしかすると発達しながら太平洋高気圧のへりや割れ目を北上し、来週早々にも日本列島まで北上してくる可能性があります。
もちろん情報が変わる可能性もあり、最新情報をとっていただきたいのですが…

※イメージ
※イメージ

心配なのは次に発生するのが台風18号ということ。
実は最近5年間、台風18号はすべて日本列島に上陸か接近しています。
偶然とはいえちょっと嫌な感じです。

10月の台風発生数は平年3.6個、接近数が1.5個、上陸数0.2個あります。
9月が終わっても海面水温が平年より高い今年はまだまだ台風シーズンが終わりません。
最新の台風情報をご確認の上、安全に過ごして下さいね。

天達 武史
天達 武史

天気の「天」に達人の「達」と書いて天達です。
災害を防ぐ使命を持って、天気の達人を目指してがんばります。

気象予報士。1975年生まれ。2002年気象予報士試験合格。2021年4月~「めざまし8」気象防災キャスター 2005年10月~2021年3月フジテレビ系列「情報プレゼンターとくダネ!」気象キャスター