「しりとりができない」知的障害の子が自信と笑顔を取り戻した“共生型デイサービス”の存在意義

カテゴリ:国内

  • 病院で「正常ではない」と言われた“グレーゾーン”の障害
  • 小学校での授業が終わって笑顔で直行する「共生型」デイサービス
  • 人を気遣い、相手が何をしたいか考えられるようになった

幼稚園で「この子だけ、しりとりができない」と言われた

小学5年生の東島紅葉さん(10)は、週に3回、小学校の授業が終わると自転車で数分の場所にある「デイサービス」に通う。このデイサービス「クローバー学芸大学(目黒区)」は、1Fが高齢者向けのデイサービスセンター、2Fが発達障害児のためのアフタースクールとなっている。「世代間交流」を理念のひとつとした、いわゆる「共生型」のデイサービス施設だ。2019年1月に完成、彼女はその当時から通っている。

紅葉さんは、母親が「グレーゾーン」と語る軽度の知的障害をもつ。学校の授業についていけなかったり、とにかく忘れ物が多かったりする。そもそも忘れ物をしたことを忘れてしまい「忘れ物の自覚」がないという。片付けもできない。もともと、どこにおいてあったものなのか、わからなくなってしまうのだ。感情の起伏が激しいこともある。

クローバー学芸大学のアフタースクールで授業を受ける紅葉さん(一番左)

幼稚園で先生から「まわりのこは出来ているのに、紅葉ちゃんはしりとりができない」と言われ、念のために病院に行ったところ「正常ではない」といわれた。しかし「診断」を出すほどのものではない。なのでグレーゾーン。

私が1時間ほど一緒に過ごしている間は、笑顔で会話し「フジテレビだと嵐しってるの!?」と目を輝かせ、「アナウンサーだったなら、いまなにかニュースっぽくしゃべって!」といたずらっぽい顔で無茶ぶりするなど、まったく“障害”を感じることはなかったが、母親曰く、一緒に生活をしていると「ああ、やはり・・・」と、“異常”を感じることが多いという。

その紅葉さんに、母親は「思いやりのある優しい子に育ってほしい。人の気持ちが分かる子になってほしい」と願っている。

それが、この「共生型デイサービス」に通うようになってから、少しずつだが、かないつつあるというのだ。

高齢者を「じゃんけん」して引き留める

紅葉さんはこの日、午後3時過ぎに施設に到着。荷物を教室のある2Fに置いた後、1Fの高齢者のもとへと向かった。障害のある子供たちのための特別授業は午後4時からなので、それまでは高齢者とのふれあいの時間。

この日は施設のスタッフが連れてきていた2歳の女の子もいて、紅葉さんはほぼずっとその子を抱っこ。となりに座らせ、なでなでしてあげ、とてもかわいがっていた。

ラジオ体操の時間では、率先して輪の中央で体操をし、仲のいいおじいさんが帰ろうとすると「じゃんけんして勝ったら」と勝手に条件をつけて、見事勝利し、腕をとって室内に引き返させた。おじいさんはとても嬉しそうだった。

しかし、通い始めたころは全く違ったという。

高齢者のみなさんといても、とにかく自分がしたいことをする。やりたいことをする。ものをうばう。そして怒る。とてもわがままな子だったという。それが、一緒の時間を過ごすうちに、彼ら彼女たちがなにをしたいのか自ら考え、率先してその手助けをするようになったそうだ

紅葉さんに何をしているときが楽しい?と聞いたら「おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に料理やお菓子を作ることが大好き」との答えが返ってきた。

母親によると、電車やバスでも席を譲るようになったという。

なぜ、これほどまでに劇的な変化が訪れたのか。

ここがなければ「不登校になっていた」

発達障害や知的障害があると、学校では授業などについていけなくなる。

母親によると、紅葉さんは小学校では“びっくりするくらい”おとなしいという。自ら手を上げることもないし、なにかを発表することもない。授業参観でも“席でぼーっとしていた”という。

ハキハキと私と会話し、2歳の女の子をずっと抱っこし、おじいさんおばあさんの輪の中にはいり、率先してラジオ体操をする紅葉さんからは「まったく想像が出来ない」と私がいうと、「ほんっとに、小学校に見に行ってほしいくらい違う!」というのだ。
小学校では理解がおいつかないので、自信をなくす。友達もできず、自分の殻に閉じこもってしまうのだ。この施設がなければ「不登校になっていたと思う」と母親は語った。

しかし、施設では高齢者との時間の中で、自分が「手伝う」ことで感謝される。褒められる。自分を必要としてくれる人、場所があることで自信をもてる。

そうしてコミュニケーションスキルも身につけていく。人と人との会話が育ち、人間関係ができるなかで、相手を気遣えるようになっていく。

子供たちだけの「デイサービス」では実現し得ない変化なのだ。

なによりおじいさん、おばあさんもとても嬉しそうなのだ。高齢者だけの時間と、子供たちがいる時間では、室内の明るさがまるで違う。風船を投げ合うとなると、高齢者たちも子供たちに投げ返さねばならない。立ち上がって、必死だ。一緒に遊んであげたくなるのだろう。そうして、一気に室内の空気が若い力に支配され、ぱぁっと輝きだす。

「共生型」はまさに、高齢者にとっても障害をもつ子供たちにとっても「自分でいられる」かけがえのない場所なのだ。

毎日かよいたいけれど・・・

「共生型デイサービス」は介護人材の不足解消などの目的のために、2018年度の介護保険制度改正により新しく導入された、まだ日が浅いサービスだ。

よって、そもそも数がまだ少ない。

クローバー学芸大学の野口潔取締役によると、特に都心は顕著だという。
国から支給される介護保険は一律だから、どうしても「地価」が安いところに施設が出来やすくなる。そしてその施設も、なるべく経費をおさえるべく床は掃除しやすい、味気ない塩化ビニールにしたり、トイレも「効率」をよくするために、掃除のための新聞紙が隅に山積みになったりする。

しかし、それでは高齢者が「住んでいる」ような気分にはなれず、リラックスできない、と考えている。

「心浮き立つような施設だと、他の人にも優しくなれる」という考えのもと、クローバーでは床はフローリングの床暖房にし、柱も古民家のものを再利用するなどあたたかさにこだわった。設計士と口論してまで、お風呂には窓をつけた。確かに、窓があり明るいお風呂は私も嬉しい。トイレも、各個人のおむつがきちんとすべて戸棚に入るように設計、キレイに整理整頓された、自宅のトイレのような空間にした。

そのため、介護保険の日数制限を超えて、自腹で通う利用者も増え、地価の高い都心にありながら、経営が成り立っている。

紅葉さんは「ここは楽しい気持ちになるから、もっと通いたい」と語っていた。母親も「毎日通わせたいくらい」といっていたが「日数制限もあるし、そもそも待機している子たちもたくさんいるから・・・」と顔を曇らせた。

紅葉さんの場合は、偶然、自宅から5分の場所にこの施設ができたことで通うことが可能となり、笑顔が増え、自信と優しさを身につけることができた。しかし本来、国の政策とは、「利用者のもとめる理想の介護や福祉」サービスの可否が、「自宅の近くにたまたま出来たから」という運の良さで、かなうものであってはならない。

(執筆:フジテレビ プライムオンラインデスク 森下知哉)