ニュースで目にしない日がないほど、毎日のように全国各地で起きている交通事故。

軽度の物損事故から歩行者が自動車にはねられる人身事故などさまざまあるが、「家族が事故に遭った」「現場を目撃した」という人なども含めると、意外と自身の身近でも起きているのではないだろうか。

このため、警察もさまざまな対策を取っている。
昨年まで16年連続で事故死者数が全国ワーストとなった愛知県を管轄する愛知県警は、2019年から毎月11日を「横断歩道の日」に指定するなどし、一層の横断歩道における歩行者の安全確保を図っているのだ。

加えて愛知県では独自の取り組みをしていて、県内のある交差点での人身事故は減っているという。具体的には横断歩道を道路に垂直ではなく、少し斜めにするというもの。傾斜角度は約12度と決まっており、県警では「鋭角横断歩道」と呼んでいる。

鋭角横断歩道を整備した米野木東交差点(愛知県日進市米野木町地内、画像提供:愛知県警)
鋭角横断歩道を整備した米野木東交差点(愛知県日進市米野木町地内、画像提供:愛知県警)
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写真を見てもらうとわかるが、“ちょっと斜め”にしただけでそんなに効果があるのか? またなぜ、斜めにしようと考えたのか? 愛知県警の担当者に詳しく話を聞いた。

ドライバーから横断者が発見しやすくなることから整備

――「鋭角横断歩道」を整備したきっかけは?

県下の人身事故のうち、交差点関連(横断中、右左折時、出合頭等)での事故は全体の半数近くを占めているため、この交差点関連事故のうち、横断中と右左折時の事故の削減が交通事故全体の削減につながると考えたからです。

そのため、愛知県下で発生した横断歩行者と右左折車との関連事故に対し、横断歩道の設置条件が交通事故発生にどのように関係しているかを、当時県警の交通死亡事故抑止アドバイザーでもあった交通工学の専門家(豊田工業高等専門学校 環境都市工学科名誉教授の荻野弘氏)と調査研究を実施しました。

その結果、横断歩道が鋭角に設置されている場合は平行・鈍角に設置されている場合に比べて運転者が横断中の歩行者、自転車を確認するための視野角が狭くなり、横断者が発見しやすくなる利点が認められたことから整備に至ったものです。

横断者を確認するための視野角が狭くなり発見しやすくなる(図は編集部で作成)
横断者を確認するための視野角が狭くなり発見しやすくなる(図は編集部で作成)

――初めて設置したのはいつ?

平成24年10月に、愛知県東郷町地内にある音貝小学校西交差点を最初に整備し、平成30年度末現在で32か所整備しております。

最初に音貝小学校西交差点鋭角横断歩道が整備された(画像提供:愛知県警)
最初に音貝小学校西交差点鋭角横断歩道が整備された(画像提供:愛知県警)

斜めの角度は検証結果から12度に設定

――斜めの角度は決まっているのか。その角度に至った理由は何か?

傾斜角度については、概ね12度です。12度に至った経緯は、効果的な角度を知るため、設置角度と人身事故との関係を既設横断歩道で検証したところ、概ね12度付近で事故件数が少なくなっている傾向があったためです。


――「鋭角横断歩道」を整備した横断歩道では、どのような効果があった?

平成30年度末までに整備の完了した32か所のうち、信号機の新設時に鋭角横断歩道とした6か所を除いた26カ所において、交差点及び交差点付近で発生した歩行者や自転車の関連する人身事故について、設置完了前後各1年間の事故件数を調査したところ、設置前17件発生していた事故が8件に減少しました。

ただし、鋭角横断歩道に改修した交差点のほとんどで、道路標示の補修、信号灯器のLED化等他の事故抑止対策も行われており、その総合的な対策の効果も交通事故が減少した要因の一つと考えられます。


――斜めにすることで横断する距離が伸びそうだが、歩行者に不便はない?

歩行者の横断距離がやや延び、横断歩道上の滞在時間が長くなりますが、歩行者の安全性は向上するものと考えております。

――「鋭角横断歩道」は今後も増やしていく予定?

歩行者横断中の事故発生の実態や右左折車両の通行実態等を踏まえ、効果が認められる交差点において整備を検討してまいります。

通常は道路に垂直に横断歩道がある(画像:イメージ)
通常は道路に垂直に横断歩道がある(画像:イメージ)


他の事故抑止対策と合わせて整備しているとしても、事故減少の要因の一つであることは間違いないだろう。ドライバーの視野角が狭くなることで、横断者が発見しやすくなるというのは納得の理由だったが、こうした様々な取り組みで少しでも悲しい交通事故が減ることを願いたい。


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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。